「話を元に戻しましょう」
「そうですわね」
皆ひとまずその方向へ持って行くことにする。
「何故青年が彼等に毒を盛ったのか、ですわね。イヴリン様、その毒を盛られた方々には、何か共通項がありましたか?」
シャーロットが問いかける。
「共通項……」
「目も見えず耳も聞こえず、の方が人を区別する、というか認識するには、何かしらの方法が必要でしょう?」
「そうですわね。兄上のことは名前を奥様がお書きになったからでしょうが……」
「香水」
ふと、レイチェルが口に出した。
「どうでしょう、香りなら、そういう方でも誰が誰か、ということを判別できるのでは」
「でもレイチェル様、私の頃は、まだそこまで強い香水があった訳ではありませせんわ」
イヴリンは反論する。
「いえいえ、香水とは限らず。そういう方の嗅覚というものは私達のそれとは比べものにならない程鋭いのではないでしょうか? 理由はわかりませんが、彼等が皆同じ匂いをさせていた、としたら……」
「そうですわね、確かに同じ家の者が同じ匂いをさせていることはありますわね。そう、確かあの家の場合、オリエンタルな香りに興味が強くて、香を焚くことがあったと記憶しておりますわ」
「お香は確かに。服などにたっぷりと匂いが染み込みますものね」
「だとすれば、義姉様のご実家の方々自体に、青年は何かしらの恨みを持っていたということでしょうか?」
「そこが今一つ……」
皆悩ましげに首を傾げる。
「そしてあと一つ。何故、兄上の名前を聞いた時に怖がって逃げてしまうのか、ですわね」
「兄上のお名前を知っていたということですわね。奥様の名前を知らなかったとしても」
「それと、先にまず話題に出た、筆を舐める癖ですわよ。だって、フルートの口に塗るのは、楽器としての形を…… もし知っていたならば、皆判りそうなものですけど、画家氏が筆を舐める癖があるというのは、その家の人間をある程度以上知っていないと判らないことではないでしょうか?」
「イヴリン様、生き残ったフルート氏はその後何かおっしゃったのでしょうか?」
確かにそうだ、と皆うなづく。
この連続殺人の中で、フルート氏だけは生き残っているのだ。
となれば、ある程度の理由は彼から出ているのではないか、と。
「フルート氏のことは判らないけど、一つだけ、話さなかったことがあるの」
イブリンは仕方無い、という調子で切り出した。
「あの青年が殺したのか、自殺したのか、はこれは謎なままなの。ただ、何故兄上を怖がったのか、ということは説明がつくと思うわ。彼は義姉様が、結婚前に産み落とした子供だったのよ」
ええっ、と皆声を上げた。