ところが義姉様が亡くなった、という知らせを受けても、兄上はなかなかやって来ないのね。
仕事がもの凄く忙しいから、と代理の者を寄越すのだけど。
けどさすがに、奥様はこの場所がいけないのか、と思い始めるのよ。
そんな奥様にやはりきょうだいが死んで残されたフルート氏は色々と話しかけるのよ。
下心は無いのよ。このひとはその当時、結構裏で言われていた…… な方でしたもの。
だからこそ、兄上も平気で近づけたのね。
画家氏はどうも人をモデルとか物体の様にしか見ないひとで有名だったんで、そっちもさほど問題にしなかった様なの。
そうそう、その警部が画家氏の死因、何処からストリキニーネが入ったか。
そこで、私がこの話を思い出した「筆」が出てくるのよ!
絵の具に入ってるのか、という話も出たけど、そうではないの。
筆だったの。
……え?
筆をなめて病気になった工場の娘さん達の話を思い出す?
何のことかしら?
そうね、工場で筆先に何かなめるとしたら、その穂先でしょうけど。
このひとの場合は、先ではなく軸を口にくわえる癖があったのよ。
どれとは言わないで、色んな筆にざらざらっとついていたらしいの。
だから警部は「その癖を知っている人だろう」ということだったのね。
「じゃあきっと警部は自分を疑っているんだろう」
そうフルート氏は自嘲気味に言う訳よ。
ところがまたまた今度はそのフルート氏までが大変なことになるの。
ただ、今度は死なずに済んだのね。
何せ、この亡くしたきょうだい達のためにフルートを吹いてあげているうちに、様子がおかしくなったんですもの。
さすがに奥様も、何度も何度も、あの特有の表情を見ていれば、何が起こったか判るってものよ。
そして警察と一緒に検死の関係で医者が居たので、何とか命は取り留めた訳。
で、やっぱり調べてみたら、今度はフルートの管の唇をつけるところにストリキニーネが塗ってあったって言うの。
それで奥様は本当に判らなくなってしまったのね。
一体誰が、って。
警部さんもこう言う訳。
「この方々のことを良く知ってる人が犯人だとは思うのだが、これじゃあ誰がどうだか判らない」
「可能性があるとしたら、ここで奥様が見ていたから、と毒を少なめに塗っていたフルート氏が犯人なのかも」
とは言っていたけど。
だけど皆仲がいい…… というか、そもそも皆常にばらばらに暮らしていて、会えば仲がいいけど、それ以上でも以下でもないというの。
さすがに困っていたら、そんな奥様の様子を何となく感じていたのか、青年がつとやってきては、奥様の側に来る訳。
大丈夫よ、と奥様は頭を撫でたり、手に心配しないで、とか書く訳。
ところがある言葉を書き付けた時、青年は急に奥様の方を向いたの。