「さてどうなのかしら。ともかくはじめの手紙は、奥様自身が、過去の夫の筆跡を真似て、自分自身に古い封筒とレターペーパーで出した。これはいいのよね」
「あ、そこでも私は少し気になるんだけど」
レイチェルが口をはさんだ。
「それ奥様は意識的にやっていたの? それとも無意識?」
「さあどうかしら。奥様自身に誰も聞いていない訳だし」
「でも手紙が来なくなって気落ちしたって言うのは、やはり死んだ旦那様からからって信じていたんじゃないかしら?」
「ええと……」
シャーロットは腕組みをしてしばらく目をつぶって考える。
その様子に周囲の皆も黙ってそれを眺める。
が。
「……ってどうしたの一体!」」
静寂に耐えきられなくなったのはシャーロットの方だった。
「いえね、貴女はやっぱりお医者様の妻ってこともあるし、そういう可能性は色々考えつくのではないかと思って」
「そんな、マダム・キュリーではあるまいし」
「? どなたですの?」
「最近夫君と共に着々と功績を上げつつある女性の科学者でしょう? え? 私結構あの方名前が知れていると思ったけれど」
「まあさすがにそういうのは知る人ぞ知る、って感じですわね」
ほほほ、とローズマリーは胸下すぐの切り返しの辺りで扇を閉じる。
「まあともかく、夫人が無意識に書いたという場合、書いたことを忘れているということも考えられるけど、もしかしたら、御夫君の自動書記というのも考えられるんじゃなくって?」
「まあドロシア様、降霊術とかお好きで?」
「そう考えた方がロマンティックじゃございません? 天国から御夫君が、ラブレターを今でも妻の手を借りて書いてみせるって」
確かに、と皆ほほほ、と笑い声を立てる。
「では病床についた後の手紙に関してはどうかしら?」
マデリーンが問いかけた。
「考えられるのは、誰かが御夫君の筆跡を真似て書いたということね。やっぱりそれだと、執事ではないかしら? ずっと長いお付き合いであった奥様を元気づけようと思って――」
そこへパメラが口を挟む。
「ただ、その話、少しだけ気に掛かるところがあるのよ」
何かしら、と皆興味ありげにパメラに視線を送る。
「遺産よ。元々その家には遺言であった程度のものではなかった、もっと多かった、という人もあるの。だとしたら、それは何処に行ったのかしら? それに、遺言書。もし筆跡を真似られるひとが居たならば、それは本当に、夫人だったり御夫君だったり、そのひとが書いたものなのかしら?」
「え、それって」
「わからないわ。もしかしたら、執事が使い込んでいたとか、そもそもの奥様のご病気にしたところで、切手を毎日の様に舐め続けた結果とか色々考えることもできるのではなくって?」
「うわぁ」
「ちょっとそれは考え出すと怖いわ」
皆銘々に口にする。
手紙は皆それぞれよく手にするものだけに、実感があるのだろう。
「ああ、そう言えば舐めるって言えば……」
イヴリンが思い出したことがあったようだ。