「それは」
「そうですわね」
皆は顔を見合わせる。
「つまり…… ではどういうことですの?」
マーリンズ男爵夫人ドロシアはおずおずと尋ねる。
だが態度はおずおずでも、その瞳は興味津々という風に輝いていた。
「利害の一致?」
そこにサングス商会夫人イヴリンの声がすぱっと切り込んだ。
「もしかして、どちらも何かしらの恋とか愛とかの気持ちがあって結婚したのではなく、目的が一致したから結婚したということかしら?」
「どうでしょう」
エレノアは苦笑する。
「実際のところ、私の口からでは、妹が姉に対してどう思っていたかの推測はそれなりにできるのですが、彼の方に関してはやはり推測も甘くなるしかできないのですよね。ただ、夫は元助手学生の態度に非常に鈍感であったことは確かだったのでしょうね。それこそ研究一途なひとにはありがちなのですが、昨日そこにあったものが今日もそこにあることには全く頓着しないというか、それが当たり前だというか。だからその辺りも元助手学生は気を遣って片付けとかしていたということなんですね。場所が変わってしまうと混乱するものっていうのが、ああいうタイプのひとにはよくあることなのですよ。たとえ傍から見たら散らかっている様に見えても」
「ああ! それは私のところでもよくあるわ」
マーゴットが頭を抱えた。
「夫はよく書斎に手を出すなと言うんだけど、そういうことなのよね。私から見たら、何で本棚がちゃんとあるのに、本を出して積んだまま机に置いておくのかまるで理解できなかったんだけど」
「調べ物の資料は常に近くにないと、『とっても困る』んですのよ。ずいぶんその辺りは気をつけないと、もの凄く一日のテンポが狂うのですって」
「そういう方を一生懸命サポートしてきたというのに、横からあの女がかっさらいやがって…… って感じなのかしら、それじゃ」
郵政省高官トートルズ氏の夫人パメラが、皆がそれまで何となく予感していたことをずばりと言った。
「嗚呼! パメラ様とうとう口に!」
ルーカス軌道会社社長夫人レイチェルは耳の下で巻いた髪と大きな、だけど繊細な加工がされたイヤリングをさらさらと音をさせ勢いでその場で跳ね、興奮した口調で言った。
「禁断の愛ですよ禁断の! やはりそれが動機ですわ! お姉様への憎しみと先輩への愛がお二人が何処へ行っても見守ることになったのではないしょうか!」
「こほん、レイチェル夫人、さすがにここではそこまでのおはしゃぎはお控えになって……」
「ああごめんなさいマデリーン様…… だって私の周囲ではそういう話題が多かったのですもの……」
「実際どうなのかしら。ともかく私の話はここまでに致しましょう。次はどなた?」
エレノアがそう言うと、皆ポットの茶に湯を足す様に周囲に命じる。
まだまだ時間は長い。
すっとパメラが手を挙げた。
「私が聞いた、手紙に関する話を一つ」