「きゃあ!」
そう悲鳴を上げたのはウェブル伯爵夫人ポーレット。
少し抑えたピンクのドレスがよく似合う二十歳くらいの若夫人。
肩の辺りが大きく膨らんだ袖がほっそりした身体にはやや気合いが入りすぎている様にも感じられる程。
「それって…… あの、妹さんご夫婦は既にお亡くなりになっていて、その幽霊が……」
おずおずと、でもはっきり発言したのはクレイグス商会の奥方フレア。
孔雀の羽混じりの扇で口元を隠してはいても、興味津々なのはその前のめりの姿勢でよく判るというもの。
「さあどうでしょうね…… もしかしたら、エレノア様がその時幻覚を見ていたという可能性も」
そう言うのはサーチェス夫人シャーロット。
彼女は高名な医師の妻だった。
「でもその時御夫君も一緒に見ていらしたのでしょ? だとしたら、やっぱりお二人の霊が……」
「でもだったら、どうしてお二人の元にわざわざその都度出てくるのかしら」
「そこはやっぱり、お二人のことを愛していたからではないかしら」
そう言って胸の前で手を組むのは文学博士兼作家のエッセン氏の夫人マーゴット。
「亡くなってからもお二人のことが心配になって、行き先についていらしたのだわ!」
「そうかしら」
エレノアは首を傾げ、軽く目を伏せる。
「妹はいつも姉のことを見下していたのよ。なのに先に結婚相手がとんとん拍子に決まったことで何処か関係がおかしくなってしまったの」
「どうして?」
「だって、妹は自分の方が絶対に良い縁談がやってきて、皆から祝福されて、それから幸せになると思っていたのよ。だから、姉の結婚相手が誰であれ、自分には目もくれず、姉と意気投合して、すぐに結婚に至ってしまったというのがもの凄く気に食わなかったのよ。だからこそ、当てつけの様に助手学生と結婚したんだわ」
「ちょっと待って」
そう言い出したて手を挙げたのはドレイク伯夫人ローズマリー。
「じゃあ助手学生はどうして妹の方と結婚したのかしら」
「さあそこなのよ」
エレリアはすんなりした人差し指を立てる。
「助手学生はともかく夫への執着が激しかったのですの。それは夫自身さほど気付いていませんでしたけど、普通さすがに殿方が裁縫キットを持っているなんて、……いえ、軍では結構そういう方いらっしゃいますわね」
「そうね。自分の持ち物が破れたら自分で繕うことも必要になるし。結構士官学校とかでも自分のことは自分でと徹底するものよ」
せんでしたけど、普通さすがに殿方が裁縫キットを持っているなんて、……いえ、軍では結構そういう方いらっしゃいますわね」
「そうね。自分の持ち物が破れたら自分で繕うことも必要になるし。結構士官学校とかでも自分のことは自分でと徹底するものよ」
ダズウッド陸軍大佐夫人ブリジットは大きくうなづく。
「だけどさすがに普通の裕福な研究者上がりの方が、しかも妻持ちの方が持っているのは不自然ではありませんか?」