「飽きましたわ」
まずそうぽつんと言ったのは誰だったろう。
「え、何とおっしゃいました?」
聞きとがめた一人もまた、心なしかその言葉にうきうきと。
そう、皆最近の会話の内容にそろそろ飽き飽きしていたのだった。
ここに集まるのは、皆夫がある程度の地位とお金、もしくは価値ある仕事、そういうものを持っているご婦人達十二人である。
特に資格がある訳ではないが、話し好き、という一点ではがっちりと手を組みたくなる様な。
ただその話にしても、そろそろ同じ様なものなものばかりで食傷気味だったのだ。
と言うのも、常ならば週に一回、二週に一回、という程度のものなのに、ここのところ夫達が議会やら、それに関わる仕事の出張で毎日てんやわんや。
社交が仕事の一部である彼女達は、まあそうなればまた集まって夫達の様子などの情報交換から、雇い人の愚痴まで思い思いに話すのだけど。
この詰め具合で、さすがに話の種が尽きてきたのは確かだった。
遠くから何やら汽笛の様な、よく響く音が聞こえてくる。
「米国の作家の本で、花にちなんだ話を皆一つずつ持ち寄ってみる、というのがありましたけど」
「リットルウィメンの作者のでしたっけ。でも花ではやっぱり知っているものも尽きませんこと?」
食べ物の話、ドレスの話、そういうものは、既に出尽くした感がある。少なくとも今現在の話題性のあるものと言うならば。
「……じゃあ…… 怖い話とか…… どうでしょう?」
普段物静かな一人がそっと口を挟む。
「怖い話」
「私、巷にある推理小説とかも暇な時には面白く読んでいるのですけど、残念ながら、私達の周りにはホームズ氏もデュパン氏も居ない訳ですから、謎が謎で残って怖い話って結構あるのでは?」
「……判ったからこそ怖い話、というのもありますものね……」
ちなみに彼女達は某東の国では「百物語」という形式があることも、そのうちその国を愛してしまった英国人が「怪談」という作品をまとめることも、まだこの時点では知らない。