鏑木side
「流石氷室さん!仕事が早い!」
『当たり前だ』
僕は氷川さんと通話しながら、事件の資料を車内で確認する。
では、事件の概要をまとめていこう。
14年前、資産家の森田貞夫が殺害された。
森田はあまりいい噂を聞かない人物だった。
そのため、人間関係は拗れているものが多く、恨みをたくさん買っていた。
その死は、一見すると強盗の犯行のように見えたが、警察の捜査は進展せず、事件は迷宮入りとなった。
森田の遺体が見つかったのは、自宅の書斎だった。
倒れた遺体の周囲には、荒らされた形跡があったものの、金品の明確な盗難は確認されていない。
警察は当初、何者かが金銭トラブルを理由に森田を襲ったと見て、知人たちへの聞き込みを行い、容疑者は上がったが、証拠不十分で犯人を特定するには至らなかった。
容疑者に上がったのは佐藤 忠、村上 京子、大橋 哲也、小林 美香、石井 一郎の5人。
なぜ、この5人なのか。
理由は周辺住民の証言にある。
周辺住民が被害者とこの5人が言い争いをしていたという証言があった。
というのが、事件のあらましなのだが。
「ん?」
おかしい。
明らかにおかしい。
5人が被害者とどんな理由で揉めていたのかが一切表記されていない。
まるで抹消されたような……
『お前も気付いたか?』
「はい。これ、消されてませんか?」
『ああ。どう考えても消されている。何か不都合なことが書かれていたのか、はたまた別の何かか……』
「でも、こんなことが出来るのって……」
『“こっち”の人間だろうな』
「マジっすか……」
僕はショックだった。
『だが、お前ならちゃんと暴けるよな?』
「もちろんです!僕は市民を守るために刑事になりましたから!」
その言葉に氷川さんは軽く笑い、“頼むぞ”と言って電話を切った。
「よし!」
俺は早速容疑者たちに話を聞きに車を動かした。
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莉乃side
「「……………………」」
互いに無言で静かな店内。
聞こえてくるのは時計の針が時間を刻む音だけ。
「喉渇きませんか?」
「は?」
「ここ、喫茶店なので注文していただければ提供しますけど」
「金取るのか!?」
「はい。商売なので」
私の言葉に犯人は唖然としている。
「……コーヒーを1つ」
「甘味もございますが」
「じゃ、じゃあ、パンケーキを」
「ご注文承りました。この縄を切ってください」
「あ、ああ」
そう言って犯人は縄を切る。
この人、本当は優しい人なんですね……
動きの制限が無くなった今、制圧しようと思えば、制圧できる。
だが、今制圧しても何も変わらない。
そう考えた私は大人しく注文された商品を作り始めた。
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鏑木side
僕はまず、佐藤 忠さんの自宅へと向かったのだが。
「佐藤さ〜ん!いませんか〜?」
インターホンを鳴らしても返事が返って来ない。
ドアを叩いても同じである。
「あれ〜……?おかしいな……」
間違ったかと思い、表札を見るが間違っていない。
ドアに手をかけて、ドアノブをひねれば。
「開いてる……?」
僕は警戒を強めつつ、中に入っていく。
「…………誰もいない?」
全ての部屋を見たが、誰も居なかった。
そして、リビングの窓が開いていることに気がついた。
「逃げられた!?」
慌てて、窓の外を見てみるが、人影はなかった。
「クソッ!!」
そんな時、氷室さんから電話が掛かってきた。
「はい、鏑木です」
『おうおう、そのテンションだと逃げられちまったみたいだな?』
「はい……」
『なら、仕方ない。気を取り直して次行け!』
「はい!それで、氷室さんは何か用事があったんですか?」
『ああ。一応、報告しておく。現場の奴らは上からの指示でまともに犯人の要求を聞く気はないらしい。隙を見てSATを突入させるみたいだ』
「それじゃあ人質は……」
『そんなのお構いなしだろうな』
「そんなっ!!」
『そこまでして上は何かを隠したいんだろうな』
「許せないですね……」
『だから、頼むぞ鏑木刑事』
「はい!」
そこで電話は切れた。
僕は軽く部屋を見て回った後に、次の被疑者の元へと向かった。
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第三者side
車を走らせていると。
「うわあっ!!」
目の前にダークエイドヴァルキリーが現れる。
「あ、危ないじゃないですか!」
「知らん。だが、お前がその事件に関わっている以上、生かしてはおけない」
「なんだと?」
鏑木は車から降りる。
「はああっ!!」
ダークエイドヴァルキリーが一瞬で距離を詰め、ダークオムニバスブレードを振り下ろす。
「……っ!!」
鏑木は防御体勢を取る。
しかし、その剣は鏑木には届かなかった。
「貴様……!」
「悪いが、消させない!」
プラネットフォックスフォームの颯斗が受け止めていたからだ。
「君は!?」
「俺のことはいいから事件を解決してください!鏑木刑事!」
「……わかった!!」
一瞬の迷いを見せた後にそう言って車を走らせた。
「チッ。邪魔をするな」
「なんでお前が!この事件はお前とは関係ないはずだ!」
颯斗が攻防を繰り広げながら聞く。
「お前が知ることではない」
颯斗は顔を顰めながら、ダークエイドヴァルキリーと距離を取った。
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鏑木side
僕は一人、古びた商店街の一角にある小さなカフェに向かっていた。
木製の看板には『カフェ・ミルフィーユ』と書かれている。
こぢんまりとした店構えだが、店の中からはコーヒー豆を挽く音が微かに聞こえてきた。
村上京子───14年前、事件で浮上していた人物の一人だ。
当時は捜査の手が彼女にも及んだが、決定的な証拠がないまま、彼女は容疑者リストから外れていた。
再捜査を進めるうちに、彼女が被害者の森田貞夫と金銭トラブルを抱えていたことを知り、僕は改めて話を聞く必要があると判断した。
扉を押して店に入ると、カランと鈴が鳴った。
穏やかなコーヒーの香りが鼻をくすぐる。
店内には客はおらず、カウンター越しに店主らしき女性がこちらを見上げた。
50代前半くらいだろうか。
ショートカットの髪に控えめなエプロン姿。
彼女が村上京子だ。
「いらっしゃいませ。ご注文は?」
笑顔を浮かべた彼女に、僕は警察手帳を差し出した。
「村上さんですね。警察の鏑木と申します。十数年前の森田貞夫さんの件で、少しお話を伺いたくてお邪魔しました。」
一瞬、彼女の表情が固まった。
だがすぐに落ち着きを取り戻し、カウンターの内側から出てくると“こちらへどうぞ”と窓際の席を指した。
「また森田さんのことなんですか……あれからだいぶ経ちましたけど」
「ええ、今、別の事件が起きていて、その中でこの事件が鍵を握っているので。確認も含めて、色々と当時のことを少しお聞きしたいんです」
僕はそう言って席に座り、彼女が淹れてくれたコーヒーに手を伸ばした。
心地よい苦みが口の中に広がる。
だが、彼女の視線はどこか鋭い。
僕を試すような目だ。
「村上さんは当時、森田さんと金銭的なやり取りがあったと伺っています。具体的にどういった関係だったのでしょうか?」
彼女は一瞬ため息をついたが、すぐに言葉を選ぶようにゆっくりと話し始めた。
「ええ、確かにお金を借りていました。カフェを開業する時に、銀行から借りるのは難しくて……。森田さんが個人的に融資してくれることになったんです。あの人、意外とそういうところは親切だったんですよ。」
「そうですか。ただ、それがうまくいかなくなったと聞いていますが……?」
少し踏み込んでみると、彼女の表情が曇った。
「そうですね。正直、売上が伸びなくて、返済が滞りました。それで彼が少しずつ厳しくなって……。最後には『店を畳め』とまで言われました。でも、そこまで言われる筋合いはないと思って。お金を返せないのは悪いけど、殺されたこととは関係ありません」
彼女の声にはわずかに怒りが滲んでいた。
「確かに、トラブルがあったと聞いていますが、それだけで疑うつもりはありません。ただ、事件の直前に森田さんと会ったという話も出ていますね。」
「ええ、最後に会ったのは事件の一週間くらい前。彼が家に来て、返済のことでまた怒鳴られました。でも、それ以降は会っていません」
「当時、警察の調べで村上さんにアリバイがない時間帯がありました。その点について、今振り返って何か気になることはありませんか?」
僕の問いに、村上さんは目を細め、記憶を掘り起こすように考え込んだ。
「……あの夜、確かに一人でした。でも、何もしていない。ただ一人でお店の帳簿を整理していただけ。それ以上言いようがありません」
「わかりました。ご協力ありがとうございます」
そう言って僕が立ち上がると、彼女がふっと小さな声で呟いた。
「森田さんは、敵を作るのが上手い人でしたよ。あの人のことを恨んでいたのは私だけじゃありません。」
「他に誰か心当たりが?」
その言葉に、彼女は苦笑を浮かべた。
「その答えを見つけるのが、あなたたち警察の仕事でしょう?」
僕はその言葉を噛み締めながら店を出た。
微かに残るコーヒーの香りと、村上京子の一筋縄ではいかない空気が、胸の奥に重く沈んでいた。
再捜査の道のりはまだ始まったばかりだった。
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次に僕は高級感漂う不動産会社のオフィスを訪れていた。
光沢のある木目調の机、磨き上げられた床、観葉植物が整然と並ぶ空間に、ちょっと場違いな自分がいる気がする。
それでも僕は胸を張って受付の女性に警察手帳を見せた。
「警察の鏑木と申します。社長の大橋哲也さんにお話を伺いたいのですが」
女性は少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに『少々お待ちください』と内線電話で連絡を取った。
数分後、現れたのはスーツ姿の中年男性。
年の割にガッチリした体格で、どこか余裕のある笑みを浮かべている。
これが大橋哲也だ。
「私が大橋ですが……どういったご用件でしょうか?」
「森田貞夫さんの事件についてお話を伺いに来ました」
僕の言葉に、大橋は一瞬だけ目を細めたが、すぐに笑みを取り戻した。
「ふむ、そんなことがありましたね。もう随分昔の話じゃないですか。まあ、どうぞ」
彼は応接室へと僕を案内した。柔らかいソファに腰を下ろし、僕は彼の向かいに座った。
「再捜査ということで、当時森田さんと関わりのあった方々に話を聞いているんです。大橋さんは森田さんとビジネスの取引をされていたと聞いていますが、どんな関係だったんですか?」
大橋は落ち着いた様子で、軽く頷いた。
「ええ、そうですね。彼とは不動産取引のパートナーみたいな関係でした。あの人、資産家でしたから、色々な土地や建物を持っていたんです。私がその管理や売買を手伝っていましたよ。」
「その中で、何かトラブルになるようなことはありませんでしたか?」
僕の問いに、大橋は少し眉を上げた。
「トラブル?いやいや、そんな大したことはありませんよ。もちろん仕事ですから、多少の意見の相違くらいはありましたけどね」
彼の言葉は慎重すぎるほど慎重だった。
でも僕はすかさず切り込んだ。
「当時、森田さんが大橋さんに対して『違法なやり方で利益を得ている』と指摘したという話を聞きました。それについてはどうでしょう?」
その瞬間、大橋の笑みがわずかに硬くなった。
「……それはどこから聞いた話ですか?」
「複数の関係者からです。ただ、事実確認のために伺っているだけですので、もし誤解があれば訂正していただければ」
大橋はしばらく僕を見つめていたが、肩をすくめて笑った。
「確かに、あの人は時々、私のやり方に口を出してきましたよ。でも、それはただの杞憂です。私は法律の範囲内で仕事をしていますからね」
「では、森田さんが『警察に通報する』と話したという噂については?」
大橋の目が鋭くなった。
今までの穏やかな態度が崩れる一歩手前だ。
「鏑木さん。噂なんてものは当てにならないですよ。特に、あの森田さんみたいな偏屈な人が言いふらすことはね」
大橋の声には、かすかに苛立ちが滲んでいた。
僕はその反応を見逃さなかった。
「わかりました。ただ、事件の直前に森田さんとお会いしたという情報がありまして。その時のことを教えていただけますか?」
彼はしばらく考え込むようにしてから、口を開いた。
「確かに会いました。事件の数日前にね。取引先の話をするために森田さんの家を訪ねました。でも、それが何か?」
「その時、森田さんと口論になったという目撃情報もあります。」
すると、大橋は苦笑を浮かべた。
「まあ、少し言い合いにはなりましたよ。彼の方がしつこくてね。でも、それはビジネスの話であって、殺人なんてとんでもない。私はあの晩、帰宅して家族と一緒にいました。それは警察も確認したでしょう?」
彼の声は冷静だったが、わずかな焦りを感じさせた。
「わかりました。ありがとうございます。ただ、今後も確認したいことが出てくるかもしれませんので、その時はご協力をお願いします」
そう言って僕は立ち上がった。
大橋も同じく立ち上がり、再びあの余裕の笑みを浮かべた。
「もちろんです。捜査、頑張ってくださいよ。」
だが、彼の視線には何か奥底に隠しているものがあるように感じられた。
僕はオフィスを出た後も、その笑みの裏にある秘密を探ろうと頭の中で組み立てを始めていた。
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午後の空気が肌寒い中、僕は閑静な住宅街の一角にある、小さなアパートの前で立ち止まった。
そこに住んでいるのが小林美香───十数年前に森田貞夫の秘書を務めていた女性だ。
当時、彼女は森田との間に深刻なトラブルを抱えていたとされている。
チャイムを鳴らすと、玄関の内側から足音が近づいてくる気配がした。
やがて扉が少しだけ開き、隙間から30代半ばくらいの女性が顔を覗かせた。
セミロングの髪が頬にかかり、どこか疲れたような瞳が僕を見ている。
「どなたですか?」
「警察の鏑木と申します。森田貞夫さんの件で少しお話を伺いたいのですが。」
僕が警察手帳を差し出すと、彼女は少し戸惑いながらも、やがて扉を開けた。
「中に入っていただいても構いませんが、散らかっていますよ」
彼女の言葉通り、室内は雑然としていた。
洗濯物が畳まれたまま積まれ、机の上には書類が散らばっている。
僕はスーツの裾が汚れないよう気をつけながら、椅子に腰を下ろした。
「突然お邪魔してすみません。再捜査が始まりまして、改めて当時の関係者にお話を伺っているんです」
「もう14年も前の話でしょう?私には関係ないと思いますけど」
彼女はそう言いながら視線を逸らし、タバコを取り出した。
火をつける仕草がどこかぎこちない。
「そうおっしゃるかもしれませんが、小林さんは森田さんの秘書をされていましたよね。しかも、当時辞められた理由が彼とのトラブルだったと聞いています」
僕の言葉に、彼女は一瞬だけ眉をひそめた。
「確かに辞めました。でも、それが殺人にどう関係するんですか?」
「まだそこまでは分かりません。ただ、森田さんが小林さんに対して不適切な行為をしていたという話がありまして」
その瞬間、彼女の顔に怒りが浮かんだ。
「不適切?……あの人は私にとって人生最悪の上司でしたよ。セクハラなんて日常茶飯事でした。最初は我慢してましたけど、だんだんエスカレートしてきて……。それで辞めるしかなかったんです」
彼女の声には憎しみが滲んでいた。
僕は彼女の気持ちを刺激しないよう、できるだけ穏やかに質問を続けた。
「そうだったんですね。当時、警察にも相談されなかったんですか?」
「無理でしたよ。森田さんは権力もお金もある人でしたから、私が何を言ったって誰も信じないでしょう。だから泣き寝入りするしかなかった」
「それでも、その後に何か接触はありましたか? 例えば事件の直前とか……」
彼女はタバコの火を消し、視線を落としたまましばらく黙っていた。
そして、重い口調で口を開いた。
「最後に会ったのは事件の一週間くらい前。森田さんが急に私に連絡してきて、『会いたい』って言われたんです。なんで今さらと思ったけど、話を聞くだけならと思って行きました」
「その時、何を話したんですか?」
「……謝りたいって言われました。『悪いことをした』って。でも、私にとっては遅すぎましたよ。そんなの、何の意味もない」
「その後、もう会っていないんですね?」
「ええ、会っていません。事件が起きたと聞いた時も、正直、驚きよりも……少しだけほっとした自分がいました」
彼女の声が小さくなり、部屋の中に静寂が広がった。
僕は慎重に次の質問を投げかけた。
「事件当時、小林さんのアリバイが曖昧だったと記録があります。その点について、何か思い出したことはありますか?」
彼女は一瞬顔を上げたが、すぐにまた視線をそらした。
「……あの夜は一人でした。家でお酒を飲んで、泣いて、それで寝てしまった。証明できるものなんてありません」
「わかりました。ただ、小林さんは森田さんを恨んでいたという話もあります。その気持ちが事件に影響した可能性も考えられますが……。」
僕の言葉に、彼女は鋭い目つきで僕を睨んだ。
「恨んでましたよでも、だからって殺すなんてできません。それに、森田さんを憎んでたのは私だけじゃないはずです」
「どういう意味ですか?」
「……あの人の周りには、私みたいに傷つけられた人がいっぱいいたはずです。調べればわかるんじゃないですか?」
その言葉を最後に、彼女は口を閉ざした。
僕は礼を言ってアパートを出たが、彼女の語った『ほっとした』という言葉が頭の中で何度も響いていた。
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僕は大通り沿いにある高層ビルの前に立っていた。
石井一郎───十数年前に森田貞夫と関わりがあったと言われる政治家だ。
地元での影響力も大きく、その人脈を使って森田とビジネスを行っていたという。
警察の調査では、石井の周囲にも不穏な噂があり、その関係が事件に絡んでいる可能性がある。
ビルのエントランスを通り過ぎ、セキュリティを抜けてようやく石井一郎のオフィスに辿り着く。
室内には広いデスクと豪華な装飾が施され、品格が漂っている。
少し待っていると、扉が開き、現れたのは50代半ばの男性、石井一郎だった。
黒いスーツを身にまとい、少し白髪が目立つが、まだ若々しさが感じられる。
「おや、警察の方がどうして? どういったご用件でしょうか?」
「失礼いたします、石井先生。私は警察の鏑木と申します。森田貞夫さんの事件についてお話を伺いたくてお邪魔しました」
石井は少し驚いた様子を見せたものの、すぐにその表情を引き締めて微笑んだ。
「なるほど。森田さんの件ですね。あれからずいぶん経ちましたが、どうぞお座りください」
僕は言われるがままにソファに腰を下ろした。
石井も席に着き、紅茶を差し出しながら会話を始めた。
「森田貞夫さんとは長い付き合いでした。私と彼は政治とビジネスを繋ぐ立場で、いくつかの事業で協力していましたね」
「ビジネスパートナーとしての関係だったと?」
「ええ、そうです。森田さんはかなりの財力を持っていた。彼の持つ土地や建物を利用した事業が多くありました」
僕はその答えを聞きながら、脳内でメモを取る。
確かに、石井のような人物が森田と関わっていた可能性は高い。
ビジネス上の繋がりがあったというだけではなく、そこに金銭的なやり取りが絡んでいた可能性も十分にある。
「石井先生、森田さんと最後に会ったのはいつでしょうか?」
「事件の前々週ですかね。私はあの時、政治的な支援を求められていました」
石井は少し顔を曇らせながら答えたが、その表情に微かに動揺の色が浮かんだように見えた。
「具体的に、どんな話をされたのでしょう?」
「それは、まあ……ビジネスの話が主でした。土地の売買や、事業に必要な資金の調達についてです」
僕は一呼吸おいて、慎重に次の質問を口にした。
「森田さんと金銭的なトラブルがあったと聞きましたが、その点については?」
「トラブル?そんなものはありませんよ。事業の進行において多少の調整はあったかもしれませんが、私は全て合法的に行動してきました」
その言葉には強い自信が感じられた。
しかし、僕はそれを疑っている。
石井一郎は地域の有力政治家として、裏の顔を持っている可能性が高い。
それを証明する材料があればいいが、今はまだ何も確証がない。
「石井先生、そのトラブルに関してですが、警察に通報したことは?」
「通報?もちろんありません。あの時はただの事業上の問題です。いちいち警察に頼ることなどありません」
その瞬間、僕はふと思い出した。
数ヶ月前に、石井の政治団体が不正な資金提供を受けているという噂が広まっていた。
そのことを知っていた。
もちろん、証拠はなかったが、信憑性は十分に高かった。
「ちなみに、事件当時のアリバイについて伺いたいのですが」
「アリバイ?ああ、あの晩は家にいましたよ。家族と一緒に食事をして、その後はゆっくりと過ごしていました。誰もが確認できるはずです」
石井はすんなりと答えたが、その目には焦りが見え隠れしている。
あまりにもスムーズすぎて、逆に不安を覚える。
「わかりました。ありがとうございます、石井先生」
石井は僕を見つめながら、静かに言葉を返した。
「鏑木さん、あまり深く追い詰めない方がいい。あの事件、もう終わった話じゃないか」
その一言に、僕は背筋がゾクっとした。
石井の言葉には不穏なものが感じられた。
彼が何かを隠していることは確かだ。
部屋を出た後、僕はその言葉を反芻しながら歩いた。
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僕はオフィスを出て、ふと手にしたスマートフォンを見つめた。
大橋哲也の名前を検索するたびに、黒い噂がどんどん出てくる。
これまでの僕の直感が言っている、何かが隠されている。
だが、どうしても一歩踏み込んだ証拠を掴むことができない。
その時、僕はふと思い立ち、氷室さんに電話をかけることにした。
氷室さんは昔からこの手の案件に関しては鋭い嗅覚を持っている。
しばらく沈黙があった後、電話が繋がった。
「氷室さん、鏑木です!」
『おう、どうした?』
氷室さんの声は、いつも通り落ち着いていて、冷静だ。
だがその裏に隠された圧倒的な存在感が、僕の背筋を伸ばさせる。
「大橋哲也について、ちょっと調べてみたんですが、どうにも怪しいことが多くて……」
『大橋か……。あいつ、相当手練れの奴だ。お前が気にしているなら、確かに調べてみる価値があるな』
氷室さんは少し黙った後、続けて言った。
『俺も前々から大橋の周りを調べてた。ちょっと前に、かなり巧妙な詐欺事件に関わっているって話を聞いた。あいつのやり口は、言葉巧みに相手を信用させてから一気に金を搾り取るタイプだ』
「それがどういう形で森田貞夫の事件に繋がるのかが見えてこないんですよ」
『そいつの手口に、過去に暴力団との繋がりがあったこともある。それを裏で操っている可能性もある。そうなると、金や権力が絡んだ形であいつの周囲に不穏な影が広がるわけだ』
氷室さんの言葉を聞いて、僕は少し驚いた。
詐欺だけでなく、暴力団との繋がりまで疑われているというのは、かなり大きな問題だ。
これは事件に関わってくる可能性が高い。
「でも、いまいち証拠が掴めないんです。詐欺の証拠も、暴力団との関係を証明する物的証拠も」
『証拠は一朝一夕で見つかるものじゃない。だが、少しずつ繋がっていくはずだ。今は慎重に進めろ』
氷室さんの言葉には、何とも言えない力強さがあった。
だが、それにしても大橋哲也が絡んでいるとなると、かなりやっかいだ。
僕は頭を整理しながら、次に石井一郎についても聞いてみることにした。
「それと、石井一郎についても少し教えてもらえますか?」
『石井か…。あいつも相当クセのある奴だな。汚職疑惑があるって話は聞いているが、証拠は出てこないんだ』
「汚職ですか?」
『まあ、あいつは何度も怪しい金の流れがあったって話はある。政治家として裏でどれだけ金を動かしているか、目を光らせている連中がいっぱいいる。でも、今のところ決定的な証拠は掴めていない。警察内部でも噂は広がってるが、まだ手が出せない状況だ』
氷室さんの言葉を聞き、僕は改めて二人の関係が深いことを感じた。
この事件がどこまで広がっているのか、まだ見えてこない部分が多い。
だが、二人の人物に共通するのは、どちらも表向きには清廉潔白な顔をしている点だ。
それが逆に、何かを隠すための巧妙な仕掛けなのかもしれない。
「わかりました。ありがとうございます、氷室さん」
『気をつけろよ、鏑木。あいつらは簡単に引っかからないからな』
氷室さんの言葉に僕は頷いた。
彼のアドバイスを胸に、僕はもう一度、大橋と石井の背後に潜む真実を暴くために、調査を続ける決意を固めた。
どこかで必ず繋がるはずだ。
それがどんな形であれ、この事件の核心に迫るには、今はただ一歩ずつ踏み込んでいくしかない。
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捜査は順調に進んでいるように思えたが、依然として大きな手がかりをつかむことができずにいた。
大橋哲也の詐欺に関する情報を集めるため、僕は次々と詐欺の被害者たちに話を聞きに行った。
だが、どれも薄っぺらい証言ばかりで、肝心の犯人像に迫る手がかりが見つからない。
疲れを感じ始めた時、立ち寄ったコンビニで一人の女性に目を留めた。
コンビニのATMにいたその女性は、なんだか様子がおかしい。
手に持った封筒から中身を見て、何か確認するように素早くお金を数えている。何度も数え直し、顔を上げたとき、ちらっと僕と目が合った。
その瞬間、僕は直感的に感じた。
何かが違う。
僕はその女性がレジを終えた後、後を追い、コンビニの出口で声をかけた。
「すみません、お話を少し伺ってもいいですか?」
女性は驚いた顔をしたが、すぐに警戒心を解いて僕に微笑んだ。
「ええ、どうしましたか?」
「あなた、今お金を多額に引き出したようですが、何かお困りごとはありませんか?」
僕は穏やかな声でそう尋ねた。
女性は一瞬、表情を曇らせたが、すぐに言葉をつなげた。
「えっと、それは、ただの支払いのためです。別に特別なことはありませんよ」
「支払い?」
僕はさらに一歩踏み込んで尋ねた。
だが、女性の表情はどこかぎこちなく、少し浮かない顔をしている。
「その支払い先、何か怪しい感じがしませんか?」
女性の目がわずかに揺れるのを感じた。
しばらく黙った後、彼女は少しだけ話し始めた。
「実は……。少し前に、ある人からお金を支援してほしいと言われて、それを代理で引き出しているんです。渡す場所も、何だか怪しい場所なんですけど、落ち込んでいた私を励ましたり、応援したりしてくれて断れなくて……」
その言葉に、僕は内心で警戒心を強めた。
明らかに何かがおかしい。
これが詐欺である可能性が高い。
僕はすぐに行動に移ることを決めた。
「その受け取りの場所は、どこですか?」
女性はしばらく沈黙してから、小さく答えた。
「駅前のカフェです。そこに行って、お金を渡すだけです」
「わかりました。そこに行きましょう」
僕は女性に付いて行くことに決め、後をつけた。
駅前のカフェに到着すると、女性は店の中に入る前に一度振り返った。
少し不安そうな顔をしている。
店内に入ると、僕は目立たない位置に座り、様子をうかがった。
間もなく、女性が小さな袋を手にして誰かを待っている様子が見えた。
しばらくして、店のドアが開き、男が入ってきた。
男は女性の元に歩み寄り、袋を受け取ろうとした。
その瞬間、僕は立ち上がり、男に近づいた。
「待て」
男は一瞬で振り返り、動揺の色を隠しきれなかった。
僕は即座に男に手錠をかけ、静かに言った。
「詐欺の受け子として現行犯逮捕する。」
男は何も言わず、手を拘束されながらも逃げようとしなかった。
僕は女性に振り向き、確認した。
「この男、あなた知ってますか?」
女性は一瞬戸惑い、顔を歪めながら首を振った。
「いえ……知りません」
「そうですか……」
僕は男を連れ出し、カフェの外に出た。
男は黙ったままだったが、確実に詐欺グループの一員だ。
今回は現行犯逮捕だったため、証拠が揃っている。
僕は一度深呼吸して、次にするべきことを考えた。
これが単なる一つのピースに過ぎないと感じる。
しかし、確実に大橋哲也や他の関係者に繋がる手がかりになったことは間違いない。
これで少しずつ、事件の全貌に迫れるはずだ。
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男を署に連行し、取り調べを始めたが、所詮受け子だ。
証言は少なく、上に立つ真の犯人たちに繋がる情報は引き出せなかった。
それでも、僕はあきらめるわけにはいかない。
事件の背後に何が隠れているのか、少しずつでも明らかにしなければ。
次に向かったのは、石井一郎の秘書である東宮美穂だった。
彼女は何度も電話口で緊張した様子を見せ、僕に会うことに同意した。
石井の汚職に関する情報が出始めている今、何かしらの証拠を掴めるかもしれない。
オフィスビルの一室で、東宮美穂は待っていた。
彼女は若干顔色が悪く、目元には疲れがにじんでいた。
僕が部屋に入ると、すぐに席に座り、静かに僕を見た。
「東宮さん、今日はお話を伺いに来ました。」
「はい……」
彼女の声はかすかに震えていた。鏡のように冷静で、いつも完璧に見える秘書が、何かを抱えている。
それが、僕の直感に引っかかった。
「石井一郎に関して、何か知っていることがあれば教えてください」
東宮美穂は少し目を伏せ、深く息をついた。
彼女の表情が一瞬硬くなり、その後に緩んだ。
「実は、私、石井さんに脅されています」
その言葉に、僕は驚いた。
これまでの予想とは全く違う方向に話が進んだ。
「脅されている?」
「はい…。私、石井さんの汚職に関わっているわけじゃないんです。けれど、彼が言ってきたんです。私が知っていることを話せば、家族の命が危ないって」
東宮美穂は震える手でコップを握りしめ、目をつむる。
目の前に広がるのは、彼女が抱えている恐怖そのものだった。
「家族の命が…?」
「はい。私には小さな弟がいて、両親も高齢です。石井さんは、私がもし何かを話すなら、家族を危険にさらすと脅してきました」
「それで、黙っていたんですか?」
「最初は、黙っていれば、何も問題がないと思ったんです。でも、もう限界なんです。彼がどんどんエスカレートしていって、もう恐ろしさが消えません」
東宮美穂の目から涙がこぼれるのが見えた。
彼女がどれだけ追い詰められているのか、痛いほど伝わってきた。
確かに、石井一郎は単なる政治家ではない。
彼が持つ権力や影響力を思えば、その言葉が脅しではなく、現実となってしまうのも無理はない。
「わかりました。あなたが黙っていた理由も理解しました」
僕は静かに言った。
これからどうするべきか、考えながら、彼女の話を深く受け止めた。
「東宮さん、家族を守るためにできることは必ずあります。」
僕は彼女に向き直り、決意を込めて言った。
「このままでは終わりません。必ず守ります」
東宮美穂は顔を上げ、驚いたように僕を見つめた。
「でも、どうして私に?」
「なぜなら、あなたが正直に話してくれたからです。そして、今のあなたが必要としているのは、信じられる誰かです」
僕はすぐに同期の麒麟に電話をかけた。
彼は捜査に関しては頼りになる仲間だ。
僕が話した内容を伝えると、彼は即座に反応した。
「わかった、鏑木。今すぐ動いて東宮さんの家族を保護する」
電話を切った後、僕は再び東宮美穂を見た。
「麒麟があなたの家族を保護します。今、すぐに手を打ちますから安心してください」
東宮美穂は一瞬だけ表情をゆるめたが、すぐにまた不安げな顔をして口を開いた。
「本当に…大丈夫ですか?」
「ええ。大丈夫です」
僕はしっかりと答えた。
麒麟がすぐに動いてくれれば、家族は安全だ。
今は、石井一郎の汚職を暴き、東宮さんが再び脅されることのないように、全力で守ることが僕の使命だ。
─────────────────────────────────────
時間が少し経ち、僕が東宮美穂と話している最中、同期の麒麟から連絡が入った。
電話越しに伝えられた言葉は、僕を安堵させるものだった。
「鏑木、佐藤さんの家族は無事に保護した。もう心配しなくて大丈夫だ」
僕は深く息をついた。
これで東宮美穂が安心して証言できる環境が整った。
彼女はもう、石井一郎の脅しから解放されたのだ。
佐藤美穂が僕に向き直り、手のひらを差し出した。
「これ……」
彼女は小さなUSBメモリを握りしめていた。
それを差し出す手はわずかに震えているが、決意が感じられた。
「これは……」
「石井さんの汚職の証拠です。」
僕はすぐにそのUSBを受け取った。
彼女の目には一瞬の迷いが見えたが、同時に“もう終わりにしないと”と言いたげな強い決意も感じた。
「ありがとうございます、東宮さん。君が勇気を出してくれたおかげで、事件は終わりに向かいます」
僕は深く礼を言い、佐藤美穂を警察に連れて行き、保護を完了させた。
それから、急いで同期の西宮に連絡を取り、USBメモリを持って彼のもとに向かった。
西宮の部屋に到着し、USBを渡すと、彼女はすぐにコンピュータを起動させ、解析を始めた。
西宮は情報解析のエキスパートで、数分も経たないうちに画面に証拠が映し出された。
「これだ……」
画面には、石井一郎を含む幾人かの政治家や企業関係者との密接なやり取りが記録されていた。
横領や裏金のやり取りが記録された書類、さらには賄賂の受け渡しに関する詳細な証拠がきっちりと押さえられていた。
「間違いない、これが石井の汚職の証拠だ」
西宮の言葉通り、これで石井一郎が汚職に関与していたことが確定した。
すぐに麒麟に連絡を取り、石井一郎の逮捕に動くよう指示を出した。
「麒麟、石井一郎の逮捕を頼む。証拠は整った。」
「了解だ、鏑木。すぐに動く」
その後、僕は更に一歩踏み込んだ調査を行った。
西宮の解析によって、受け子の男が大橋哲也の会社に勤務していることが判明した。
その情報をもとに、大橋の会社に関する資料をさらに調べると、思いもよらない事実が浮かび上がってきた。
大橋哲也が詐欺の主犯格であるという証拠が見つかったのだ。
「大橋が……主犯格だと?」
西宮はスクリーンに映し出された資料を見て、驚いたように言った。
「氷室さんの言った通りだ。この情報はかなり重大だ。大橋が詐欺を指揮していたことを示す証拠がここにある」
その瞬間、僕は決意を固めた。
大橋哲也を逮捕し、事件を一気に解決する。
これで、すべてが繋がったのだ。
「麒麟、すぐに大橋の逮捕に動いてくれ。」
「わかっている。今すぐ向かう。」
少しして、麒麟から連絡が入る。
「大橋は逮捕された。証拠も揃っている」
これで汚職と詐欺は解決だ。
だが……。
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大橋哲也と石井一郎の逮捕が済んだ今、僕の仕事はまだ終わっていなかった。
次に追うべきは、佐藤忠だ。
彼がどこに隠れているのか、それが今の僕の最大の課題だ。
取り調べは他の刑事に任せ、僕はすぐに佐藤忠の行方を追うことにした。
西宮には助けを求め、彼もすぐに動き出す準備を整えてくれた。
彼は情報分析のプロだ、頼もしい仲間だ。
「西宮、佐藤忠の行方を掴むために、防犯カメラの映像を調べよう。お前が得意だろ?」
「もちろん。ボクが周辺のカメラを調べるから、お前はカメラを持っている住民に交渉してこい」
その言葉通り、西宮と僕は町の端にある佐藤忠の自宅周辺へ向かう。
住宅地を歩きながら、僕は一軒一軒の家を見回し、相手が協力してくれるかを確かめていた。
幸いなことに、数件が防犯カメラを設置していた。
「すみません、お話ししたいことがあります」
僕は一軒の家の前に立つと、飼い犬を散歩させている主婦に声をかけた。
最初は警戒していたが、僕が捜査中の警察官であることを伝えると、協力的な態度を見せてくれた。
「防犯カメラの映像を見せていただけませんか?」
「ええ、もちろん」
その主婦は躊躇なく、映像を再生してくれた。
僕と西宮は映像を確認する。
周辺を歩く人々が映る中、見慣れた顔が映り込んだ。
佐藤忠だ。
「これだ!」
西宮がすぐに声を上げる。
映像の中で、佐藤忠が映っている。その動きや歩き方が、まさに西宮が解析した通りの人物だった。
彼がカメラに映っていた時間帯は、僕が佐藤忠の自宅に着いた数十分前だった。
「よし、これで確証が取れた。」
僕は西宮の言葉を信じて、すぐに次の行動を決めた。
佐藤忠はここを離れ、逃げていた。
映像の中では、彼が急いで周辺の路地に向かって走り去る姿が映っていた。
「西宮、解析してくれ。彼がどこに向かったのか、追跡してくれ」
「わかった。解析する。」
西宮はすぐに映像を静止させ、歩き方の特徴や周囲の建物を細かくチェックし始めた。
彼の頭の中で、映像が瞬時に整理され、次に進むべき場所が絞り込まれていく。
「こっちだ」
しばらくして、西宮が指をさした。
映像の中で佐藤忠が通り過ぎた場所を見つけ、次に向かうべき道が分かった。
僕はその指示に従い、急いでその場所へ向かうことを決めた。
「佐藤忠、逃がすわけにはいかない」
僕の胸の中には、再び焦りが湧き上がっていた。
あの男が逃げる理由が何かを知っているからだろう。
彼がこの町を離れた理由を突き止め、ついに彼を捕まえる。
そのためには、どんな手段でも使わなければならない。
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佐藤忠の足取りを追うのは麒麟に任せ、僕は次に森田貞夫の家に向かうことにした。
森田の家は、町外れにある静かな一軒家だった。
僕が到着すると、すぐに中に案内された。
家の中は整頓されていて、特に目立ったものはなかったが、全体に冷静で落ち着いた雰囲気が漂っていた。
「こちらが殺害現場です」
警察の担当者が、事件が起きた部屋を指差す。
部屋に足を踏み入れ、資料と照らし合わせながら僕は慎重に状況を再確認した。
その時、ふと何かが引っかかった。
何度も見返してきた資料の内容と、現場で見た光景がどうしても一致しない。
「当時のままなんですよね?」
「はい」
手に取った資料の内容に目を通しながら、再度部屋を見回すと、ある異常な点が目に入った。
それは、机の上に残された微細な痕跡だ。
「これは……っ!!」
僕はその痕跡を指差した。
それは、微細な筆跡が残っていた。
明らかに他のものとは異なっている。
普通の手が触れることのない部分に、繰り返し使われたもののような跡が残っていた。
すぐに思い当たった。
「この痕跡……」
資料の中にあった一つの情報が頭をよぎった。
森田貞夫が殺害されたその瞬間、何かが残っていたわけではない。
だが、この跡が示しているのは、明らかに手を頻繁に使う職業に関連している。
どうしても思い出せなかったが、気づいた瞬間、その“癖”の持ち主が誰であるかがわかった。
「これは…佐藤忠の職業の特徴だ」
佐藤忠は昔から手に職を持つ人物で、職人として細かい作業を長年続けてきた。
特に、木工や細工を扱っていたため、手がよく動く特定の動作が習慣になっている。
僕はその癖を以前、他の事件の現場で見たことがあったのだ。
木工職人の手の使い方は独特だ。
特に、道具を使う時の動きに癖が現れる。
佐藤忠の特徴をよく知っていた僕は、この部屋の微細な痕跡が、その職業に関連するものだと確信した。
木工職人に特有の動作、それがこの殺害現場でも現れていたのだ。
「そういうことだったのか!!この痕跡は、佐藤忠が犯行に関与していた証拠だ!」
僕はすぐにその場で立ち止まり、資料と現場を照らし合わせていった。
そして、どこかで見覚えのある道具が近くに置かれていたことに気づいた。
それもまた、佐藤忠の作業場で使われていたものだ。
「間違いない、佐藤忠が関与している」
この事実を元に、すぐに捜査を進めなければならない。
森田貞夫の死の背後に、佐藤忠が関わっているのは明白だ。
僕は再度、現場の詳細を確認した後、捜査本部に向かう決心をした。
これで事件は一気に動き出す。
そう思っていたのだが、14年も前の事件のため、証拠が集まらず、佐藤忠の自白ではないと犯行を立証できない。
そんな中、事件は想定外の事態を迎える。
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颯斗side
「はぁはぁ……!!」
俺はダークエイドヴァルキリーと死闘を繰り広げていた。
「まだだ!!」
俺は惑星型の光弾を放つ。
「甘いな!」
『ダークジュエル!』
『ダークハンマーヘッドシャーク!』
『絢爛の暗黒狩人!ダークジュエルシャーク!』
「はあああああっ!!」
左手の巨大なハンマーで光弾を弾き飛ばす。
「ぐああっ!!」
弾かれた光弾が俺にヒットする。
「こんなのはどうだ?」
ダークエイドヴァルキリーはカードをスキャンする。
『ダークジェット!』
『ダークスパイダー!』
『蒼空の暗黒糸使い!ダークジェットスパイダー!』
「はああああっ!!」
糸で俺を絡め取る。
「ぐっ!!」
「ハーモニーフォーム以外持ち合わせていないお前などただの雑魚だ!」
そう言ってダークエイドヴァルキリーは俺を蹴り飛ばす。
「がああっ!!」
俺は地面を転がった。
「ハーモニーフォームが強いんじゃないのかよ……!!」
「確かに強い。お前も聞いているはずだ。それ以外のフォームには相性が良すぎるカードもあるとな」
確かに言っていた。
それに、ハーモニーフォーム以外があることによって戦略が大きく増える。
「なんで俺のには無いんだよ……!!」
「それはお前が知る必要はない」
「クソッタレ……!!」
俺はダークエイドヴァルキリーと会話している間にUFOマジシャンフォームになり、移動能力で彼女の背後を取った。
「甘いわ!!」
「なんだと!?」
ダークエイドヴァルキリーは俺の足を掴み、振り回す。
「うあああああっ!!」
「ふん!!」
そのまま投げ飛ばされ、俺は地面を転がる。
「くっ…ぁ……!」
俺はそのまま強制変身解除した。
「フッ。お前の相手もこれくらいでいいだろう」
「なん、だと……!?」
「もう全て終わった」
そう言ってダークエイドヴァルキリーは姿を消した。
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森田貞夫の家での気づきから、僕はすぐに麒麟に連絡を取った。
佐藤忠の足取りを追うために、もう一度彼の動きを追ってみるべきだと思ったからだ。
麒麟はすぐに動き、連絡をくれるだろうと思った。
そして、まさにその通りだった。
数分後、麒麟から電話が入る。
「鏑木、佐藤忠の足取りを掴んだ。今、ネットカフェにいる」
「ネットカフェだって?」
「そうだ。最近、よく利用してるみたいだ。今、店員に確認したところ、そこの一室にいる」
「了解だ、今すぐ向かう!」
僕はすぐに車を走らせ、ネットカフェに向かう。
店に到着すると、麒麟が入り口で待っていた。
「鏑木、こっちだ」
麒麟と一緒に店内に入り、店員に佐藤忠の部屋を案内してもらう。
部屋番号を確認し、僕たちはその部屋に向かって足早に歩いた。
お互いに緊張感が漂う中、僕たちは無言でそのドアの前に立つ。
「開けるぞ」
麒麟がノックをし、店員が扉を開けてくれる。
目の前に現れたのは、佐藤忠が座っているはずの部屋。
しかし、その部屋には予想外の光景が広がっていた。
佐藤忠の姿はもうなかった。
代わりに、無惨に倒れた彼の死体が床に横たわっていた。
部屋の隅には血痕が広がり、彼が最後にいた場所を物語っている。
「こ、こいつ……!」
麒麟が声を漏らし、僕も呆然とその死体を見つめる。
佐藤忠は何者かに殺され、ここで命を落としていた。
死因はおそらく頭部への一撃。
おそらく凶器は重い物か、鋭利なものであろう。
明らかに死後の時間も経過しているように見える。
僕はすぐに状況を整理しようとするが、心臓が早鐘を打っているのを感じた。
こんなところで殺されるとは、まさに予想外だ。
僕はすぐに警察に連絡を取り、現場を確保してもらうよう指示した。
「ここで何があったんだ?」
麒麟が無言で部屋を見回しながら言う。
血痕、倒れた佐藤忠の姿、そして何も持っていない彼の手。
これだけではまだ何もわからない。
だが、確かに何かおかしい。
「まさか、誰かが佐藤忠を殺して隠したのか?それとも……」
僕は思わず口に出して言葉を続けるが、麒麟が首を振った。
「わからない。けど、誰かが佐藤忠をここに連れてきたことは確かだ。」
僕はしばらく無言で死体を見つめた。
全ての証拠が新たに浮上してきた。
佐藤忠が殺されたという事実、そしてそれに繋がる誰かの影。
何が本当で、何が隠されているのか。
今後、さらに捜査を進めなければならないと強く思った。
「警察が来るまでここを離れない。誰かがこの現場に残していったものがあるはずだ。」
麒麟は黙って頷き、僕と共に死体の周りを確認し始めた。
次々と浮かび上がる新たな疑問と、深まる謎。
この死体が全ての鍵を握っているのか、それとも佐藤忠が何かを知っていたから殺されたのか。
僕は次の手を打たなければならない。
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佐藤忠の死体を見つけ、現場を調べるために僕はすぐにネットカフェの防犯カメラの映像を確認しようとした。
しかし、店員に頼んで見せてもらうと、驚くべき事実が発覚した。
「すみません、あの…今日の午前中の映像が無いんです。」
「無い?」
店員が申し訳なさそうに言った。
僕はすぐに店員の携帯からカメラシステムにアクセスを頼み、映像を確認しようとしたが、どうやらカメラ自体が壊れていたらしい。
「壊れた?」
「はい、昨日からおかしかったんですけど、今朝完全に動かなくなって…。でも、今日はそれに気づかずに普通に営業してしまっていました。」
「そうですか……」
僕は不審に思いながらも、仕方なくその場を離れることにした。
防犯カメラが壊れていることには納得できなかったが、今はそれ以上深追いする時間もなかった。
店員が言っていた通り、部屋の中には何も怪しいものは見当たらなかった。
部屋自体は綺麗で整理されており、特に乱れた様子もなく、何の痕跡も見つけることができなかった。
「どうしてこんなことになったんだ……」
僕は思わずため息をついた。
死体の周りには何も証拠が無く、佐藤忠の死因もすぐには明確にできなかった。
すべてが謎のまま、残されたのはただの死体だけだった。
その時、先輩刑事の片山さんが現場にやって来た。
片山さんはいつも冷静で、僕よりもずっと経験豊富なベテラン刑事だ。
彼は一歩現場に入ると、すぐに僕に言った。
「鏑木、お前、あんまり手を出すな」
「え?どういうことですか?」
僕は片山に驚きながら聞き返す。
彼の口調から、何かただ事ではないことが感じ取れた。
「今回の事件は被疑者が死亡した時点で、実質的に終了だ。お前が何をしても、これ以上進める意味が無い」
「え、でも……!!」
僕は声を荒げた。
佐藤忠が犯人だという証拠はまだ掴んでいない。
さらに、この事件の背景に何か大きなものが隠されていることを直感的に感じていた。
「なぜですか!?納得できません!!」
片山は僕の反応に一瞬黙った後、ゆっくりと話し始めた。
「お前も分かっているだろうが、こいつはただの一市民じゃない。ああいう奴らの裏にあるものは、簡単には触れるべきじゃない。」
「裏にあるもの?」
「分かってないな。お前はまだまだ若いから、言っても分からないかもしれないが…」
片山は言葉を選ぶように、慎重に話を続けた。
「佐藤忠の死が示すものを追っていけば、誰かを巻き込むことになる。あんまり深く調べると、お前の命を危険に晒すことになるぞ」
「命を危険に晒す……?」
僕はその言葉に驚き、思わず自分の胸を抑えた。
片山の言葉は重く響く。
これまで何度も危険な現場に立ち会ってきたが、今まで感じたことがないほどの恐怖を覚えた。
「お前は警察として捜査するのはいいが、この案件に関しては…少し考えろ。すべてがただの殺人事件に見えても、裏にあるものは深すぎる」
片山の表情は硬いままだった。
彼の真剣さが、僕の心に重くのしかかってくる。
「分かりました、でも……」
「お前は本当に自分が何をやっているか分かってるのか?俺たちが見えないところで、何が動いているか考えてみろ」
片山の言葉に、僕は言葉を失った。
なぜ、こんなにも強い警告を片山が発するのか、僕にはその理由がまったく理解できなかった。
ただ一つ言えることは、佐藤忠の死の背後に、大きな力が絡んでいることを感じざるを得なかった。
僕は困惑し、片山を見つめながら、彼の言葉の意味を噛み締めていた。
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第三者side
鏑木がキトゥンに戻った頃、時刻は21時を回っていた。
すでにSATの用意はされており、突入する気満々だ。
「真犯人は彼の父親じゃない!」
鏑木は指示を出そうとする刑事に声をあげる。
「そんなものは知らん!!」
「は?」
「突入!!」
刑事は鏑木の言葉を聞かず、突入させた。
「おい!!」
そして、次の瞬間、発砲音が聞こえた。
そのタイミングで颯斗も死闘を終えて戻ってきていた。
発砲音が聞こえた直後、聞こえていたSATの隊員たちの動く音と声がぴたりと止んだ。
「どうした!」
刑事がSAT隊長に声を掛ける。
『人質が、犯人を庇い、弾丸を受けました……』
「「「……っ!!」」」
刑事以外が目を見開く。
「そんなことはどうでもいい!被疑者を確保しろ!」
そう言って通信を切った。
「ふざけんなぁっ!!!!」
鏑木は刑事を殴り飛ばす。
「人の命が掛かってるんだぞ!?どうでもいいわけないだろ!!」
それだけ言って鏑木は中へと突入した。
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中に入れば、血を流して倒れている莉乃がいた。
「大丈夫!?しっかりして!!」
SAT隊長は犯人を取り押さえているため仕方ないが、他の隊員は莉乃に全く目を向けない。
「早く救急車!!」
鏑木は止血しながら叫ぶ。
だが、隊員は誰1人として動かない。
「俺が呼びました!!」
颯斗は大声を張り上げて言う。
「死んじゃダメだ……!!氷室さんと約束したんだ……助けるって!!」
救急車が到着するまで、鏑木は必死に止血しようとしていた。
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颯斗side
犯人は確保され、事件は幕を閉じた。
立てこもり犯に、父親が犯人ではなかったと伝えた時、彼は泣き崩れたそうだ。
そして、しきりに“良かった良かった”と言い続けていたらしい。
「全く…お前も無茶しすぎだぞ」
SATの隊長は謝罪に来た。
気が動転した犯人が莉乃を人質にしようとしたところを無力化するために弾丸を放った。
しかし、莉乃は“やめて”と言って、犯人を庇った。
莉乃の言葉が届くよりも早く発砲してしまったことで、結果的に莉乃を撃ってしまったというのが真実らしい。
それにしても今回の一件で、警察がかなりきな臭くなった。
父さんも鏑木刑事も同じように感じているらしい。
まだ何かありそうだ。
「早く目を覚ませよ」
俺は病院のベッドで眠る莉乃にそう言った。
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第三者side
「もうすぐ会えるね。莉乃ちゃん」
新たな人物が莉乃達に迫ろうとしていた。
To be continue……
─────────────────────────────────────
次回予告
「久しぶり莉乃ちゃん!」
「季節外れもいい加減にしろ!」
「誰です?」
「カ、カブトムシ……っ!!」
「何者だ!!」
「アナザーヴァルキリー!」
第15話 過去の友との再会