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第7話 すれ違う想い


颯斗side


俺がオムニバスになってから数日。

その間、特にオミナスやダークエイドヴァルキリーが現れることはなく、七瀬さんは療養に専念できている。

俺は今日も今日とて彼女のお見舞いに来ていたのだが。


「え?退院したぁ!?」


病院のエントランスで思わず、そんな大声を出してしまう。

周囲の視線が俺に集まり、ペコペコして受付の人に向き直る。


「なんで退院したんですか?」

「怪我が治ったからとしか……」

「あんな数日で治るわけないじゃないですか!」


あのレベルの怪我だ。

数日で治るものじゃない。


「ええ。ですので主治医も驚いていました。途轍もない治癒力だと」

「ありがとうございます」


俺はとりあえず、七瀬さんの自宅に向かうことにした。


────────────────────


莉乃side


「はあああああっ!!」

「その程度か?」


氷室さんの攻撃をダークエイドヴァルキリーが受け止める。

助けに入りたいのに体が動かない。


「死ね」


ダークエイドヴァルキリーは無慈悲に氷室さんの体を剣で貫いた。

氷室さんは力無く地面に倒れる。


「氷室さあああああん!!」

「お前のせいだ。お前がアイツを巻き込んだからこんなことになった」

「あぁ…あぁ……」


私はただ冷たくなっていく氷室さんに触れる。


「お前がコイツを殺したんだよ」

「私の……私のせいで……」


すると氷室さんが動き出し。


「七瀬さんのせいだよ……俺がこんなになったのは……」

「あああああああああっ!!」


────────────────────


第三者side


「あああああっ!!」


莉乃はベッドから飛び起きた。


「はぁはぁ……はぁはぁ……」


呼吸は荒く、パジャマも汗でぐっしょりと濡れていた。


「ゆ、夢……?」


莉乃は額の汗を拭う。


「ふぅ……」


深呼吸し、上がった心拍を落ち着かせる。


「……………………」


莉乃は机の上に置いているオムニバスチェンジャーをじっと見る。

そして、己の手をギュッと握る。

すると、満の声が聞こえてくる。


「莉乃ちゃ〜ん!颯斗くんが来たよ〜!」

「わかりました!」


莉乃はそう返事をし、オムニバスチェンジャーを装着して部屋を出る。

その目は何かを決意していた。


────────────────────


「あっ、七瀬さん!」

「氷室さん……」


颯斗は持っていたカップを置き、莉乃に挨拶する。


「大丈夫なのか?」

「はい。これのおかげです」


そう言ってオムニバスチェンジャーを提示する。


「え?」

「オムニバスチェンジャーには装着していると治癒を促進する効果があるんです」

「これにそんな力が……」


颯斗は自身のオムニバスチェンジャーを見ながらそう言う。

莉乃は颯斗のチェンジャーを奪った。


「何すんだよおい!」

「あなたはもう変身しなくて大丈夫です」


莉乃は颯斗にそう言った。


「なんでだよ!」

「私が回復したからです」


颯斗の問いに莉乃は淡々と答える。


「俺は七瀬さんの力になりたい!!」


その言葉に莉乃は目を見開く。

莉乃は強く目を瞑り、颯斗に叫ぶ。


「それじゃダメなんです!!」

「……っ!!」


颯斗は初めて聞いた莉乃の大声に驚く。


「なんでダメなんだよ!!」

「氷室さんはただの一般人です。何の関係もない」

「でも!!」

「もう、いいんですよ」


莉乃は颯斗のオムニバスチェンジャーをギュッと握りしめてそう言う。


「氷室さんが危険を冒す必要はありません。これで話は終わりです」


莉乃はそう言って颯斗に背を向ける。


「ふざけんなよ!!」


頭に血が上った颯斗は莉乃の胸ぐらを掴み上げる。


「君と一緒なら!!俺は!!」

「必要ありません。私は1人でいいんです」

「分からず屋がっ!!」


颯斗は莉乃に手をあげようとする。

その腕を薫が掴んだ。


「颯斗くん。落ち着きなさい。それは超えてはならない一線だ」


薫の言葉にハッとした颯斗は莉乃から手を離し、距離を取る。


「俺は…俺はただ……」


颯斗が何か言いかけたが、莉乃は何も言わず、踵を返し、自分の部屋へと戻っていった。


「七瀬さん……」


────────────────────


颯斗side


七瀬さんが去っていった後、俺は再びカウンター席に腰掛ける。


「何やってんだろ……」


最後のは完全に俺が悪かった。

七瀬さんには何の非もない。

だけど……


「なんでなんだよ……」

「莉乃がああいう顔をする時は大抵何かあった時だ。1人で何かを抱えている。そんな顔だ」

「そうですか……」

「とりあえず、今日は帰ったほうがいい。きっと無駄だから」

「そうします」


俺は財布からコーヒー代を出す。


「ごちそうさまでした」


それだけ言って七瀬さんの家を後にした。


────────────────────


莉乃side


私は自室のベッドに寝転がっていた。

すると扉がノックされるが、答える気力も湧かない。


「入るわよ」


そう言って入ってきたのはおばさんだった。


「……なんですか?」

「なんで颯斗くんにあんなことを言ったの?」

「おばさんも氷室さんの味方ですか」


おばさんに背を向けて突き放すように言う。


「別にそんなんじゃないよ。ただ、なんの説明もなく急に取り上げてどうしたのかなって思っただけさ」

「それは……」

「説明してくれないとわからないものだよ」


おばさんにそう諭され、私は口を開く。


「実はここ最近、ずっと同じ夢を見るんです」

「夢?」

「ダークエイドヴァルキリーに負けて、氷室さんが殺される夢です」

「……………っ!」

「それから怖くてたまらないんです。私のせいで氷室さんが殺されちゃうんじゃないかって。戦いの中で死んじゃうんじゃないかって」

「莉乃ちゃん……」

「だから、彼を巻き込みたくないんです。彼には彼を大事にしてくれている家族がいる。無理に戦う必要はないから」

「そっか。じゃあ、そのことを伝えたらいいんじゃない?」

「どうやって……?」

「それは自分で考えないと!せっかく、初めてお友達と喧嘩したんだから!」

「そうですね……」

「それと、颯斗くんがやりたいっていうのなら、やらせてあげてもいいと思うよ。オムニバスになった瞬間、命を賭ける覚悟は出来ているはずだから。でも、それがないのなら辞めさせて」

「……わかりました」


私はどうやって話を切り出せばいいかを一晩中眠らずに悩んだ。


────────────────────


第三者side


翌日の学校。

颯斗は自席に座り、少し暗い表情をしていた。


「あっ!おはよう、七瀬さん!」

「宮田さん、おはようございます」

「あれだけ凄そうな怪我だったけどもう大丈夫なの!?」

「はい。病院の人とかおじさんたちが少し過保護なだけです。それに、怪我には慣れているので」


莉乃はそう言って自分の席に座る。

颯斗との会話はない。


「(気まずい……)」


公人はそう感じていた。


「(昨日のこと、謝らないと……)」


颯斗は内心そうは思いつつも、近づかないでくださいオーラ全開の莉乃に話を切り出せないでいた。


「ちょ、ちょっといいか?颯斗」

「なに?」


空気に耐えきれなくなった公人は颯斗を呼び、教室から出ていった。


────────────────────

颯斗side


俺は公人に屋上のドア前の階段に連れ出されていた。


「なんだよ」

「どうした?」

「何が」

「七瀬さんと一切喋ってないけど、何かあったのか?」

「それは……」

「喧嘩でもしたのか?」


公人の言葉に頷きながら階段に腰掛ける。


「でも、なんで七瀬さんがああ言ったのかわからなくて……それで、頭に血が上って手を出しそうになった」

「それまた随分と深刻な喧嘩だな」

「手を出しそうになったこと、謝りたいんだ。でも、七瀬さんからなんかこう、“話しかけるな”って感じの雰囲気が出ててさ……声を掛けられなくて……」


俺の言葉をひとしきり聞いた公人は俺の隣に腰掛ける。


「スッゲェ分かる」

「え?」

「今日の七瀬さん、“私は1人で大丈夫”みたいな感じがするよな〜……あんな雰囲気出してるのに挨拶出来る宮田はすごいと思う。お前は気付いてないと思うけど、七瀬さん、お前の方チラチラ見てたぜ?」

「え?」

「多分、仲直りしたいんだろうな。お前、さっき“七瀬さんから“話しかけるな”って感じの雰囲気が出てる”って言ってたけどお前も大概だったぞ」

「……まじ?」

「ああ。大マジだ」


俺は尚更頭を抱えた。


「お前と七瀬さんは似た者同士だ。戻ったら勇気を出して話しかけてみろよ。きっと仲直り出来るさ」

「そうだな……ありがとう!」


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莉乃side


私が氷室さんとどう仲直りしようかと考えていると、宮田さんが話しかけてくる。


「ねぇ、七瀬さん」

「……なんでしょうか?」

「どうかしたの?」

「え?」

「いや、今日の七瀬さん、ちょっと変だなって思って」

「変、ですか?」

「うん。なんか、“話しかけないで”って感じのオーラ出てるし」

「えっ」


そんなつもりはなかった。

ただ、どうやって仲直りするのかを考えていただけだ。

結局決まらずに眠れなかったけど。


「まぁ、どうせ会長と喧嘩でもしたんでしょ?」

「そうですけど……なんでわかるんですか?」

「2人の雰囲気見てればわかるよ。クラスのみんなも気付いてるよ?」

「みなさんに心配をかけてしまいましたか……」

「でも、すぐ仲直り出来るよ!だって2人は似た者同士だから!」

「似た者同士……?」

「そう!互いに悩みすぎて“話しかけるな”オーラが出てるだけ!きっと会長も仲直りしたいって思ってるはずだから!」

「頑張って話しかけてみます」

「うん!」


宮田さんは私の頭を撫でた。


「ちょっ…何を……!?」

「反応が可愛いからつい!」


────────────────────


第三者side


莉乃と宮田の話が終わり授業など色々忙しく、放課後を迎える。

クラスメイトは遠巻きに様子を見ている。


「「あの!」」


2人が同時に声を上げる。


「七瀬さんが先にどうぞ」

「で、では、僭越ながら……」


莉乃はそう言って席から立ち上がる。

その瞬間。


「…………っ!」


莉乃は倒れた。

教室がざわつく。


「七瀬さん!!」


颯斗はすぐに駆け寄る。

宮田や公人も駆け寄る。


「とりあえず保健室に連れて行け!!」

「ああ!!」


颯斗は莉乃を背負い、保健室に走った。


────────────────────


「ただの睡眠不足による貧血ね」

「そうですか……」


保健室に連れてきた颯斗はそれを聞いて安堵する。


「しばらく安静にしていれば回復するわ」

「ありがとうございます」

「じゃあ、私、ちょっと職員室に用事あるから七瀬さんをお願いね?」

「わかりました」


そう言って保健室の先生はベッドの周りのカーテンを閉め、出ていった。


────────────────────


それから30分後。


「───っん、う〜ん……」


莉乃が目を覚ました。


「氷室さん……」

「七瀬さん!」

「ここは……」

「保健室だ!急に倒れちゃったかた……」

「そうですか……(あれ……?寝ていたのにあの悪夢を見ていない……?)」


莉乃は自分の手元を見て、理由をなんとなく察した。


「手……」

「え?あ、ああ!!そういうつもりじゃないんだ!」

「……ありがとうございます」

「え?」

「私、ずっと悪夢を見ていたんです。あなたがダークエイドヴァルキリーに殺される悪夢を」

「……っ!」

「だから、もう戦ってほしくない。そう思ってオムニバスチェンジャーを取り上げました」

「俺は!!」

「私はあなたを守りたいんです!!ですが……あなたは違う……」

「ああ。俺は君を助けたい。ずっと1人で戦ってきた君を」


しばらくの間沈黙が流れる。


「ごめん。昨日、君に手をあげようとして」

「いえ、私こそすみません……何の説明もなく取り上げてしまって」

「ねぇ、七瀬さん。君が俺を守るって言うなら、俺が君を守る。これでどう?そうすれば、七瀬さんの目的も達成出来るし、俺も目的も達成出来る!」

「本当に無茶苦茶ですね……私はあなたに戦って欲しくないのに……」

「どっちにしろダークエイドヴァルキリーから狙われてるから戦おうが戦わまいが危険なのには変わりない。それに、一度首を突っ込んだなら、最後までちゃんと関わる!中途半端は嫌なんだ」

「氷室さん……」


すると、莉乃の電話が鳴る。


「はい」

『莉乃ちゃん!オミナスが街に現れたって情報があったわ!』

「わかりました」


莉乃と颯斗は帰る旨のメモを残して、現場へと向かった。


────────────────────


「そこまでだ!」


既に人々は捌けており、この場には莉乃と颯斗、それからオミナスとダークエイドヴァルキリーしかいない。


「来たか」

「ダークエイドヴァルキリー……!」

「七瀬さん」

「私はあなたを犠牲にする気はありませんよ。“颯斗君”」

「……っ!ふっ、こっちも犠牲になる気はないぜ。“莉乃”!」


2人はカードをスキャンする。


『リアクター!』

『ナイト!』


『UFO!』

『マジシャン!』


「「オムニバスチェンジ(!)」」


チェンジャーの外枠を回転させる。


『灼熱の騎士!リアクターナイト!』

『未確認の手品師!UFOマジシャン!』


「キエエ!!」


襲いかかってきたマグネットオミナスを見て、2人は外枠を回転させる。


『リアクターナイト!』

『UFOマジシャン!』

『『フィニッシュ!』』


「「はああああっ!!」」


2人の蹴りは飛び込んできたマグネットオミナスに炸裂し、爆散させる。


「なに!?」

「マグネットか……」


颯斗がカードにオミナスの力を吸収してそう呟く中、ダークエイドヴァルキリーは激昂する。


「なんなんだお前達は!!」

「知りたいなら名乗ってやるよ!」

「え?」


颯斗は耳元で莉乃に伝える。


「わかりました。そんなにやりたいのならやりましょう」


莉乃は渋々頷いた。


「エイドヴァルキリー!」

「エイドバスター!」

「2人揃って!」

「「救済のオムニバス!!」」


2人は決めポーズを取る。


「これでいいんですか?」

「そうそう!一回でいいからこういう名乗りをやってみたかったんだよね〜!」

「そうですか……」

「ふざけるな!!」

「ここからはおふざけなしだぜ?」


2人はカードをスキャンする。


『ジュエル!』

『ハンマーヘッドシャーク!』


『マグネット!』

『ライオン!』


「「オムニバスチェンジ(!)」」


チェンジャーの外枠を回転させる。


『絢爛の狩人!ジュエルシャーク!』

『磁力の百獣王!マグネットライオン!』


「参ります」


2人はダークエイドヴァルキリーに飛びかかる。


「はあああっ!!」


莉乃はダイヤモンドのようになっている左手のハンマーでダークエイドヴァルキリーを殴り飛ばす。


「がはあっ!」

「どこに行くんだよ!」


颯斗が手を出すと、磁力によってダークエイドヴァルキリーが引き寄せられる。


「はあああっ!」


そして、ライオンのエフェクトエネルギを纏ったパンチを放つ。


「ぐああっ!!」


ダークエイドヴァルキリーは地面を転がる。


「それ、磁力じゃないのでは?」

「確かに!どっちかって言うと引力だよな」


そんなツッコミを入れる。


「じゃあ、そろそろ決めますか!」

「そうですね」


2人は再び外枠を回転させる。


『ジュエルシャーク!』

『マグネットライオン!』

『『フィニッシュ!』』


「はああああああっ!!」


莉乃は出現した巨大な宝石をハンマーで叩き、砕かれた宝石がダークエイドヴァルキリーにヒットする。


「ぐああああっ!」

「はあああああっ!!」


さらに、左右から鉄の塊に挟まれ、颯斗からライオンのエフェクトエネルギーを纏った蹴りを受ける。


「ぐあああああっ!!」


ダークエイドヴァルキリーは地面を転がる。


「この恨みは必ず……!」


そう言ってダークエイドヴァルキリーは姿を消した。


────────────────────


「なんとかなりましたね」

「そうだな」


少し、互いに沈黙して。


「これからよろしくお願いします。颯斗君」

「ああ。こちらこそ。莉乃!」


2人は固い握手を交わしたのだった。


          To be continue……


────────────────────


次回予告

 「入れ替わってるぅ〜!?」

 「仕方ありません」

 「これが男性の……」

 「颯斗君も私の体を堪能していいですよ」

 「やめろぉ!!」

 「言い方をどうにしかしてくれ!」


第8話 俺が君で、私があなた!?


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