莉乃side
「氷室さん……っ!?何故、あなたがここに……っ!?」
あまりの衝撃で持っていたヘルメットを落としてしまう。
「生徒の避難を、と思って……。というか、七瀬さんバイク乗るんだ」
「え、ええ。免許も取ったので」
私は財布を取り出し、中から免許証を取り出す。
「ですが、この学校はバイクでの登校を認めていないので、徒歩で来ていますが。……いやいや、そうでありません!氷室さん、今見たんですか?」
「……バッチリ」
氷室さんは少し間を開け、バツが悪そうにそう言った。
「私としたことが……」
私は頭を抱えた。
「いいですか?今日見たことは忘れてください」
「え?無理でしょ」
「えっ」
「だって、あんなにすごいの見せられて忘れられるわけないでしょ!」
鼻息荒くして語ってくる。
「これは遊びじゃないんです。あなたが危険に及ぶので、忘れた方が身のためです」
「じゃあ、俺も巻き込んでよ!」
「話を聞いていましたか?あなたに危険が及ぶと言ったのですよ?」
「うん、聞いてたよ?でも、俺は知ってしまったから。七瀬さんが一生懸命頑張って戦ってること。だから、見て見ぬふりなんて出来ない」
真剣な表情で言ってくる。
そんな様子に私は思わず、“はぁ〜……”とため息を吐く。
「わかりましたよ」
私は予備のヘルメットを氷室さんに投げる。
「乗ってください」
「その前に連絡入れとく」
氷室さんはスマホを少し弄り、ヘルメットを受け取った。
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「まさか、男を連れ帰るとは……」
キトゥンに戻り、開口一番におばさんがそう発する。
「初めまして!俺、氷室さんの同じ高校の生徒会長やってる氷室 颯斗です!」
「莉乃ちゃんのおばの西村 満よ」
「おじの西村 薫だ」
「ねぇねぇ、莉乃ちゃん?もう彼氏が出来たの?おばさんちょっと寂しいな〜!」
「そういうんじゃないですって!」
氷室さんが慌てて否定する。
「私、お茶淹れてきます」
私は奥のキッチンへと向かった。
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颯斗side
七瀬さんは自分がお茶を淹れると言って奥のキッチンへと向かった。
「1つ、聞いてもいいですか?」
「なぁに?」
「七瀬さんのご両親は……」
俺の質問に薫さんと満さんの表情が曇り、奥にいた七瀬さんも一瞬、動きを止めていた。
「それは……」
満さんが何かを言おうとした時。
「死にました。事故で」
お盆に湯呑みに入ったお茶を乗せた七瀬さんがそう言った。
「ごめん」
「いえ、謝る必要はありませんよ」
「え?」
「事故は事故でも故意的な事故ですから」
なんだかそれ以上聞くのは憚られる。
「せっかく来てくれたんですし、お話しますよ」
「無理しなくても……」
「別に無理はしていません」
七瀬さんにそう言われれば、引き下がる他なかった。
「私は両親に殺されかけました」
「えっ……」
「先ほど、事故は事故でも故意的な事故だと言いましたね?」
俺は頷く。
「いわゆる、心中ですよ」
「なっ……!?」
「私が小学校に上がる前の話です。父が運転する車が山道を走っていて、そのまま車ごと転落しました。その時に両親は死に、私は意識不明の重体でした」
「七瀬さん……」
「それから私は、昏睡状態に陥りました。目が覚めたのは事故から7年ほど経った時です。今から2年前くらいと言った方がわかりやすいでしょうか。目が覚めた私を引き取ってくれたのが、おじさんとおばさんだったわけです。それから、私は必死に勉強して、遅れた分を取り戻し、バイクの免許も取りました。そして、今に至るというわけです」
七瀬さんは表情ひとつ変えることなく、淡々とそう語った。
「お茶が冷めてしまいましたね。淹れなおして来ます」
そう言って再び奥へと入っていった。
「七瀬さん……」
色々と思うところはある。
そんな重苦しい雰囲気の中、薫さんが口を開く。
「何故、あの子の両親が一家心中を考えたのか、その理由はわからない」
「そうなんですか?」
「あまりにも突然だったから。おしどり夫婦なんて呼ばれてたのにね」
俺はなんとなく胸騒ぎがした。
この一件は本当に心中だったのだろうか。
「そんなことよりも、だ」
「え?」
「莉乃は本当に最近、世の中を知り始めたんだ。だから、これから経験するのは莉乃にとって未知のものだ。だから、颯斗君。莉乃を支えてやってくれ」
「はい」
「あの子、感情を顔に出さないし、すっごくクールでしょ?でも、今すごくウキウキしてるのよ?」
「そうなんですか?」
「友達がお家に来てくれて嬉しいのよ、きっと」
「おばさん、勝手な推測はやめて」
少しムスッとした表情の七瀬さんがお茶を出してくる。
「……………それで、さ」
「はい」
「色々と教えて欲しんですけど」
「莉乃ちゃん、まさか!?」
満さんは手で口を抑えている。
「私がオムニバスであるとバレてしまいました」
「おいおい……」
「氷室さん、改めて謝罪させてください。巻き込んでしまい、すみません」
「いやいや!知りたいって首を突っ込んだのはこっちだし!」
「あなたは私が守ります」
「それじゃ、男として格好がつかないじゃん」
「男としてどうこうのレベルを越えています。本当に危険なんです」
そう言う七瀬さんの目は真剣だった。
「今からオムニバスについてのことをお話します。ですが、無闇矢鱈に行動しないでください。何かあれば、お店、もしくは私の携帯に連絡をください」
「わ、わかった」
そこまで言われて疑問を持った。
「俺、七瀬さんのLINE持ってないわ」
「らいん?そんな機能があるんですか?」
そう言って七瀬さんが取り出したのは。
「ガラパゴス携帯っ!?」
「え?」
「おばあちゃん?」
「失礼ですね。私はれっきとした高校2年生です」
「だよね!?スマホじゃない衝撃にちょっと感覚がおかしくなるところだった……」
「それで私の番号なんですが……」
「ああ、はい」
俺は七瀬さんの電話番号をゲットした。
ふと、七瀬さんの方を見れば、少し口角が上がっていた。
「笑った……」
「へ?」
「今、笑ってたよね!?」
「笑ったかどうかはわかりませんが……う、嬉しかったです」
「えっ!?」
「は、初めて友達の電話番号を知れたので……」
ほんの少し、頬を赤らめて言う七瀬さんにこちらも頬が赤くなるのを感じた。
「青春ねぇ〜!」
「青春だな」
「「か、揶揄わないでください!」」
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俺と七瀬さんは奥の和室で互いに向かい合っていた。
「これが“オムニバスチェンジャー”です」
そう言って腕につけていたブレス型のアイテムを机の上に置く。
「ほうほう」
「オムニバスに変身するためにはこの“アビリティカード”を2枚スキャンします」
「1枚じゃダメなの?」
「はい。1枚だと変身に必要なエネルギーが足りず、カードが燃え尽きます」
「やばっ」
「アビリティカードには相性のいい組み合わせが存在しています。私はそれらを“ハーモニーフォーム”と呼んでいます」
「なるほど。じゃあ、さっき使ってた2枚はハーモニーフォームなの?」
「はい。さっき使っていたのはリアクターとナイトのカードですね」
スッと差し出される。
「アビリティカードって全部で何枚あるの?」
「27枚です」
「それで今手元にあるのは5枚です」
そう言って残りの3枚を差し出してくる。
先ほど倒していたスパイダーに加え、クレイドール、ケルベロスの3枚だった。
「ちなみにハーモニーフォーム以外の組み合わせは出来るの?」
「はい。一応は」
「なんだか含みがある感じがするね?」
「まぁ、組み合わせ次第では弱体化したり、強すぎて制御出来ないみたいな組み合わせもあるそうです。そもそも、生と無の組み合わせじゃないと変身が出来ませんし」
「そうなんだ」
「全ておじさんから教えてもらったことですけどね」
七瀬さんは苦笑しながらそう言う。
「七瀬さんは何と戦っているの?」
「学校に現れた怪物の名前はオミナスと言います。オミナスはアビリティカードを元に生まれることが多いです」
「そうじゃない奴も居るってこと?」
「はい。完全な怪物も現れることがあります。アビリティカードを元にしたオミナスは依代を必要としています」
「だから、倒してカードに吸収したら先生が現れたのか」
「その通りです。完全な怪物のオミナス、私はオリジンオミナスと呼んでいるものは倒せば跡形もなく消え去ります」
「オリジンオミナス?」
「はい。アビリティカードの力よりも多種多様な力を持っていますから、おそらくオリジンオミナスを元にアビリティカードを開発したのではないかと思っています」
ある程度把握した俺はずっと聞きそびれていたことを口にする。
「ねぇ、七瀬さん。なんで七瀬さんはオムニバスになったの?どうして戦うの?」
俺の質問に七瀬さんは眉を下げる。
「オムニバスになった理由は、亡き父が求めていたからです」
「え?」
「私が意識を取り戻して、少しして心中の事実を聞かされました。そして、おじさんから遺書を渡されたんです。そこに書かれていたんですよ。“オムニバスになれ”と」
「……お父さんに言われたから命を危険に晒してでも戦うのか?」
俺の言葉に七瀬さんは首を横に振る。
「私がオムニバスになった理由と戦う理由は別です。私が戦うのは、おじさんやおばさんを、大切な人を守るために戦うんです」
「それが七瀬さんの戦う理由……」
「もちろん、その中にはお友達の氷室さんも含まれていますよ」
「そっか!俺はてっきり、“世界を守るためですよ”とか言うのかと思ってたんだけど」
「女子高生が世界を守るだなんて、重たすぎますよ」
「それもそうだな」
それだけ聞いて、俺は七瀬さんの家を後にした。
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莉乃side
翌日。
私は朝早く、学校に来ていた。
何をするか。
「よし、準備運動もバッチリですね」
そう、ランニングをするためだ。
オムニバスになることを決めてから私は体を鍛えていた。
普段なら別のランニングコースがあるのだが、そこを走っていると学校に遅刻するので運動場を走ることにした。
走ることは別に苦ではない。
むしろ楽しい。
「ふぅ……今朝もいい汗をかきました」
走り終わった後、私は学校のシャワールームで汗を流し、教室で制服に着替えようとしていた。
「あっ」
「えっ」
ちょうど体操服を脱ぎ、下着姿になっていた時、氷室さんが入ってきた。
「わ、悪い!!そういうつもりじゃなかったんだ!!」
氷室さんは慌てて後ろを向く。
「何をそんなに慌てているのですか?」
「いやいや!!慌てない理由がないでしょ!?」
本当になぜ慌てているのか私には理解できない。
「変な氷室さんですね」
「あんたの方が変だよっ!」
終始何を言っているのか分からなかったが、とりあえず着替えを終えた。
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颯斗side
「着替え終わったのか?」
「はい。終わりましたよ」
俺は大きなため息を吐いて七瀬さんを見た。
「随分と早いようだが、何をしていたんだ?」
「日課のランニングです。いつものコースだと、学校に遅刻してしまいますから」
「そっか……まぁ、いいけど。七瀬さん、今度からは更衣室で着替えてくれ」
「何故ですか?」
「目に毒だからだ」
「そうですか。確かに、私の体はあまり女性らしいとは言えませんからね」
七瀬さんは服を捲る。
その下は引き締まった体が……って、そうじゃないだろ氷室 颯斗!
「服を捲るのも禁止だ」
「そうですか。わかりました。以後、気を付けます」
頭を下げてそう言ってくる。
「それで、氷室さんは何をしているのですか?」
「俺は生徒会だよ。まだ、残ってる急ぎの仕事があってな」
「なんですか?お手伝い出来るものならしますよ」
「う〜ん、多分七瀬さんは知らないから無理だと思う」
「そんなことはありません」
「じゃあ、文化祭って知ってる?」
「それは……っ!!」
おっ、これは知ってる反応か?
「なんですか?」
「知らないんかい」
「はい。存じ上げません」
「まぁ、学校がやるお祭りみたいなものだ」
「そうなんですね!」
「ああ。俺は今からそれについて色々と話し合わなきゃならない」
「そうですか……」
明らかにシュンとしてるんですけど!?
え?なに!?
どうするのが正解なんだよ!!
俺には分からねえよ!!
「あ〜…えっと……一緒に行く?」
「いいんですか?」
「まぁ、三人寄れば文殊の知恵って言うし、3人以上いるけど……七瀬さんなら、新鮮な意見を聞けそうだから!」
「よろしくお願いします」
そう言う七瀬さんの目は輝いていた。
To be continue……
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次回予告
「文化祭、出し物を決めるぞ〜!」
「燃えてきた〜っ!!」
「ありがとうございます」
「必ず成功させましょう」
「お前ズルいって!」
「よかったな!」
第3話 文化祭への準備