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救済のオムニバス
Tokugawa
現代ファンタジースーパーヒーロー
2024年09月17日
公開日
54,785文字
連載中
氷室 颯斗(ひむろ はやと)は生徒会長ではあるが、普通の男子高校生である。
そんな彼の通う庵原高校に1人の転校生が現れる。
名前は七瀬 莉乃(ななせ りの)。
彼女のことをあまり気に留めなかった颯斗だったが、ある日の帰り道、怪物に襲われた莉乃を守ろうとし、彼女の秘密を知ることになる。
そんな颯斗は莉乃と協力して世界を守ると決意する。
そして、そんな彼らを待ち受ける運命とは……。

第1話 2人の出会い、始まりは突然に


入り組んだ街の片隅に、ある喫茶店があった。


「行ってきます」

「そうか!今日か!」

「はい。行ってきます」

「行ってらっしゃい!」


1人の少女が、制服を身に纏い、喫茶店を出た。


「(私の学校生活が始まる!)」


表情にこそ出ていないが、内心ウキウキである。


「うああっ!」

「きゃあっ!」


彼女は曲がり角でぶつかる。


「いたた……」

「ごめん!大丈夫!?」

「はい……」


彼女は差し伸べられた手を取り立ち上がる。


「じゃあホントごめん!俺、急いでるから!」


そう言ってぶつかった彼、氷室 颯斗は走り去っていった。


「慌ただしい人でしたね……」


そう言って、スカートを軽く叩いた。

そんな彼女の名は七瀬 莉乃。

またの名を、“オムニバス”

これは彼と彼女が紡ぐ物語────


────────────────────


颯斗side


曲がり角で女の子とぶつかった後、俺は急いで学校の生徒会室に向かった。

今日は挨拶運動の日だ。


「悪い!遅れた!」

「全く……しっかりしろよな?」


呆れた様子で言ってくるのは、生徒会副会長であり、俺の親友の久我 公人。


「それで?遅刻の言い訳くらいは聞いてやろうじゃないか」

「曲がり角で女の子とぶつかっちゃってさ!」

「それは随分と少女漫画チックな言い訳だねぇ?」

「公人、お前絶対信じてないだろ」

「さぁ?どうだろうね」

「ったく……」

「随分と楽しそうね?」


その声に先ほどまで仲良く雑談していた俺たちが凍りつく。

入口の方に視線をやれば、そこに立つのは生徒会書記の工藤 美香がいた。


「遅刻したくせにいい度胸ね?」

「怒られてや〜んの!」

「公人?あなたもよ?挨拶運動開始までほとんど時間がないのよ?それなのに何を楽しそうに雑談してるのかしら?」

「「さ、さーせん……」」


俺たちは頭が上がらない。

こんな感じで毎回怒られてばかりだ。


「とりあえず、行くわよ!」

「「は、はい!」」


俺たちは挨拶運動へと向かった。


────────────────────


莉乃side


曲がり角で男性とぶつかった後、私は学校へと向かった。


「ここが、今日から私が通う学校ですか……」


なかなかいい学校だ。

制服も可愛いし。

朝早いためか、未だ誰もいない正門を潜り、まず職員室を探した。


「職員室、職員室……」


しばらく、彷徨い。


「迷ってしまいました……」


どうしたものだろうか。

完全に迷子だ。

学校で迷子とか、なかなかに目も当てられない。

……いや、初めて来たのだから仕方がないだろう。

もう少し粘ってみるか。

そう思っていると。


「どうかしたの?」


背後から急に声をかけられ、思わず身構えた。


「ああ、ごめんなさいね?別に驚かそうと思ったわけじゃないの」

「い、いえ。こちらこそ勝手に驚いてしまってすみません……」


ペコリと頭を下げて謝罪する。

こういう時はちゃんと謝罪するべきだとおじさんが言っていた。


「それで、どうしたのかしら?何か困っているみたいだったけれど?」

「職員室が分からなくて」

「そう!職員室なら、この廊下を真っ直ぐ言って階段を登って2階に着いたら左に曲がるとすぐよ」

「ありがとうございます」

「いいえ。私は工藤 美香よ。よろしくね?」

「七瀬 莉乃です。よろしくお願いします」

「あ!ごめんなさいね!私、ちょっと馬鹿どもを連れてかなくちゃならないの!だから、ここで失礼させてもらうわ!」


そう言って工藤さんは足早に去っていった。


「私も行きましょうか」


工藤さんに教えてもらった通りに、私は移動し、なんとか職員室にたどり着けた。


────────────────────


第三者side


挨拶運動も終わり、朝のホームルームが始まろうとしていた。


「よ〜し、みんな席につけ〜!」


先生に言われ、全員が席に着く。


「今日もホームルームを始めるぞ〜!」


教室内は普段よりも騒ついていた。


「(なんでみんなソワソワしてんだ?)」


颯斗は理由がわからず困惑していた。

すると、1人の男子生徒が。


「先生!今日転校生が来るってホントですか?」


手を挙げて先生へと問うた。


「転校生?」

「あれ?颯斗は知らないのか?噂では今日、転校生が来るって話だぞ?」


颯斗の前の席にいた公人がそう言ってくる。


「もしかしたら、今朝ぶつかった女の子だったりしてな!」


公人は楽しそうに笑い、颯斗は苦笑いを浮かべていた。


「どうなんですか?先生!」

「まぁ、そう焦るなって!転校生がいるのは本当だから!」

「マジか!」

「可愛い子来い!!」

「えぇ〜!イケメンがいい〜!」


生徒の反応は十人十色だ。

そんな中、先生が生徒たちを宥める。


「落ち着け!今から入ってくるんだから入りづらいだろ?」

「「「は〜い!」」」


全員が素直に静まる。


「では、入って来なさい」

「失礼します」


そう言って丁寧に教室の引き分け戸を開けて入ってくる。


「可愛い〜……」

「やっば、惚れたかも……」

「めちゃくちゃいい子そうじゃん……」

「(待て待て!!急いでて顔はよく見えていなかったけど、あの子、多分ぶつかった子だよね!?そんな少女漫画展開なことあるか!?いや、ワンチャン人違いって可能性もある。っていうか、可愛いなおい!?)」


これまた生徒の反応は十人十色であり、颯斗の心中は穏やかではなかった。


「では、名前を書いて自己紹介をお願いできるかな?」

「はい」


莉乃は落ち着いた返事をし、美しい字を黒板に走らせる。


「皆さん、初めまして。私は七瀬 莉乃と言います。よろしくお願いします」


莉乃はそう言ってペコリと頭を下げた。


「じゃあ、席は……」


先生が席をどうするか決めている間、莉乃は教室を見渡す。

そこで、今朝ぶつかった颯斗がいることに気がついた。


「(あの人は確か……)」

「ちょうどアイツの隣が空いているな!」


先生は颯斗の隣を指差す。


「……っ!?」

「あそこで問題ないか?」

「はい」


莉乃は言われた通り、颯斗の隣に移動する。


「あなた、今朝私とぶつかりましたよね?」

「あっ、やっぱり?」

「はい」

「まさか本当に少女漫画的展開だったとは……」

「少女漫画、ですか?」

「え?七瀬さん、知らないの?」

「はい」

「“いっけな〜い!遅刻遅刻!”

““うわあっ!””

“どこ見てんのよ!”

そうしてぶつかって、その後、学校で

“あ!お前はあの時の!”

“非常識な人!”

みたいな感じのやつだよ!」


莉乃は手を顎に当てて考える。


「全くわかりませんね……」

「そ、そうか……」

「それではお隣失礼しますね」

「え?あ、うん!」


莉乃はそう言って席に着いた。


「(やっば。めっちゃいい匂いするんだけど。なんでこんな女子っていい匂いするんだよ!勝手に匂い嗅いで大丈夫か!?セクハラとかにならないか!?)」


颯斗の心中は大荒れだった。


「じゃあ、朝のホームルームを終わるぞ〜!」


こうして朝のホームルームは終わった。


────────────────────


莉乃side


私は現在、ピンチを迎えていた。

ホームルームというものが終わった途端、沢山のクラスメイトが私の席に押しかけて来たのだ。


「ねぇねぇ!七瀬さんの好きな食べ物は!?」

「好きなタイプは!?」

「LINE教えて!」

「SNSとかやってる!?」


流石に厩戸王ではないので、全員分の言葉を聞き取って返事を返すのは厳しい。

どうすれば、いいかと悩んでいると。


「コラコラ!七瀬さんが困ってるでしょうが」


左斜め前の席の少女漫画さんが助け舟を出してくれた。

これはありがたい。

少女漫画さんの言葉にクラスメイトは素直に引く。


「ありがとうございます。少女漫画さん」

「しょ、少女漫画さん!?」

「ブフッ!」

「おい、笑うなよ!」

「慌ただしいさん、何か可笑しかったでしょうか?」

「あ、慌ただしいさん!?」

「ブフッ!」

「おい、笑うなよ!」

「お互い様だろ?それよりも、確かに自己紹介をしてなかったね。僕は久我 公人。よろしく、七瀬さん」

「俺は氷室 颯斗だ。よろしくな。氷室」

「先ほどもしましたが、もう一度。七瀬 莉乃です。久我さん、氷室さん、よろしくお願いします」


私は座礼をする。

これで友達が出来た。

嬉しい。


────────────────────


放課後。

とは言っても、お昼前だ。

今日は午前授業だったようで、昼前に下校出来た。

家である喫茶店キトゥンのドアを開ければ、カランコロンと爽やかな鈴の音がなる。


「おっ!おかえり〜!」

「ただいま、おじさん」


笑顔で私を迎えてくれるのはおじさんの西村 薫だ。

両親のいない私を引き取って育ててくれている。


「莉乃ちゃん、帰ってたんだ!おかえり〜!」

「ただいま、おばさん」


奥からひょっこり顔を出してくるのはおばさんの西村 満だ。

おじさんの奥さんであり、この店の経理担当である。

女の私から見ても美人である。


「私も手伝います」

「いいのか?」

「はい」

「そっか!そりゃ助かるよ!」


私は2階の自分の部屋に荷物を置き、学校の制服からお店の制服に着替え、長い髪の毛をひとつ結びにする。


「相変わらず可愛いわね!」

「ありがとうございます」


するとお店のドアが開かれる。


「「いらっしゃいませ(!)」」


────────────────────


お店の手伝いを初めて、1時間ほど経った頃。


「莉乃ちゃん、ちょっといい?」

「はい」


私はおばさんに呼ばれて奥へ行く。


「どうしました?」

「反応があったわよ」

「どこですか?」

「莉乃ちゃんの学校の方!」

「わかりました。すぐに行きます」

「気をつけて!」

「はい」


私はお店の外に停めてある私のバイクに跨り、ヘルメットを被る。

そして、学校に向けて出発した。


────────────────────


颯斗side


俺たちは生徒会の仕事があり、生徒会室に残っていた。


「ふぅ……これで大体の仕事は片付いたな」

「お疲れ様」


そう言って美香は俺と公人にジュース投げ渡す。


「「サンキュー」」


そのジュースを飲もうとした瞬間。


「「「きゃあああああっ!!」」」


外から悲鳴がする。

何事かと思い、窓の外を見れば、蜘蛛の怪物が生徒を襲っていた。


「なんだよあれ!!」


俺は居ても経っても居られず、生徒会室を飛び出す。


「ちょっと待ちなさいよ!」

「2人は他の生徒の避難を頼む!俺は校庭の生徒を避難させる!」

「危なくなったら逃げろよ!」

「わかってるって!」


俺はサムズアップして、校庭へと走った。


────────────────────


校庭に出れば、蜘蛛の怪物が生徒を糸でがんじがらめにしていた。


「クソッ!!」


俺はすぐさま糸を引きちぎる。


「早く逃げて!」

「「「はい!」」」


これで全員逃がせた。

後は俺だけだ!!

俺は全力で走り、建物の影に隠れた。

蜘蛛の怪物がこちらに向かって歩いてくる。

マズいな……

そう思った時だった。

バイクの音が聞こえ、蜘蛛の怪物を轢いた。


「グアアアッ!!」

「今回は蜘蛛ですか」


そのバイクから降り、ヘルメットを外した人物に見覚えがあった。


「七瀬さん……?」


────────────────────


莉乃side


「せっかく楽しい学校生活が始まったんです。邪魔をしないでください」


私は2枚のカードを取り出し、腕についているオムニバスチェンジャーにスラッシュしてスキャンする。


『リアクター!』

『ナイト!』


「オムニバスチェンジ」


私はオムニバスチェンジャーの外枠を回転させる。


『灼熱の騎士!リアクターナイト!』


私は騎士のような姿に変わり、ところどころに炎のディテールが入っている。


『オムニバスブレード!』


右手にはオムニバスブレードと呼ばれる剣が握られていた。


「グギゴゴ……!!」

「エイドヴァルキリー。さぁ、救済の時です」


私はそう言って飛びかかる。


「はあああっ!!」

「グアアッ!!」


私の一撃を喰らい、蜘蛛の怪物、スパイダーオミナスは地面を転がる。


「キシャアアアア!!」


スパイダーオミナスは糸を放ってくる。

私はオムニバスブレードにリアクターカードをスキャンして柄頭を引く。


『リアクター!』

『リアクター!ブースター!』


「はあああっ!!」


横一直線に剣を振れば、糸は全て燃え尽きる。


「ッ!?」

「これで終わりです」


私はオムニバスチェンジャーの外枠を回転させる。


『リアクターナイト!フィニッシュ!』


私はオムニバスブレードを下から上に斬りあげる。

すると、炎の斬撃が発生し、スパイダーオミナスを真っ二つにした。


「グアアアアアッ!!」


そして、スパイダーオミナスは爆散した。

私は1枚のブランクカードを取り出し、投げる。

するとスパイダーオミナスはカードに吸収され、人が現れる。

カードは自動的に手元に戻ってきた。


「スパイダーですか」


私は変身を解除する。


「大丈夫ですか?」


私は元に戻った人に駆け寄ってそう言う。


「ここは……」

「学校ですよ。先生」


スパイダーオミナスになっていたのは担任の先生だった。


「仕事しないと!!」


先生は起き上がってそう言う。


「ありがとな、七瀬!」


先生は走り去っていった。


「とりあえず、一件落着ですね」


私はバイクに乗って帰ろうとすると。


「七瀬、さん……?」


建物の影から氷室さんが出てきた。


             To be continue……


────────────────────


次回予告

 「まさか、男を連れ帰るとは……」

 「巻き込んでしまい、すみません」

 「そういうんじゃないですって!」

 「あなたは私が守ります」

 「初めまして!」

 「それが七瀬さんの戦う理由……」


第2話 彼女がオムニバスになった理由


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