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第44話 凶悪令嬢たる所以をお教えしましょう


「……」


 月明かりが照らす屋上は静かで、微かに吹く風が制服のスカートを揺らしていた。

 しばらく佇んでいると、不意に背後の扉が開く音が聞こえてきました。


 振り返るとそこには――


「れ、連絡を貰った時は冗談かと思ったけどまさか本当にいるなんて!? というかこんなところでなにをしているの……!」


 ――わたくしの担任である海原先生がやってきました。


「すみません海原先生、学校での相談をしたいと思っていまして」

「ここで!? ……もう遅いし送っていくから早く下に――」

「貴女ですわね?」

「え?」


 海原先生がわたくしの下へ歩いてくるのを言葉で制止させる。その態度を見て呆けた生返事を返す彼女に、もう一度、微笑みながら尋ねます。


「この一連の騒動……美子が飛び降りることになった黒幕は先生、貴女ですわね?」

「はあ? なにを言っているの神崎さん。その喋り方といい、頭を打ったのはやっぱりまずかったのかし――」

「まあ、証拠になりそうなものや貴女自身は存在を隠して通しているからその態度も分からなくはありませんが。里中さんを脅していたのは見当がついています」

「……」


 その言葉に愛想笑いを浮かべたまま口を噤む海原先生。

 そう、このわたくし『達』の担任こそ、この事件の真犯人だったのです。


「そもそも、里中さん一人でできる犯行ではない、というのは分かっていました。必ず協力者がいるはずだと」

「ちょ、ちょっと待って!? それがどうして私になるの? 私は先生よ?」

「そこですわ。先生だからこそ、わたくし達のことを知っているからこそ、あなたなのです」

「……?」


 訝しんでいる彼女にカラクリを話してあげましょうか。


「里中さんがギャル化している写真を見た際、実行犯は彼女で間違いないと思っていました。学校へ復帰してから、わたくしに対するアプローチが雑でしたからね。そして先ほどの告白。騙されて『援助交際をさせられそうになった』という人物が犯人ではないかという考えに至りました」

「それが私? それはちょっと浅はかというか、動機がないわ。探偵ごっこは今度聞かせてもらいますからもう帰りましょう?」

「動機は……ありますわ」

「……」


 自信をもって答えるわたくしに海原先生は口を噤んでこちらと目を合わせてくる。ようやく聞く態度になったと判断したのでそのまま続けますわ。


「貴女は言っていましたわね? なにかあれば里中さんを頼りなさい、と。それと同時に『教師になる前はモデルになりたかった』そうおっしゃっていましたわね」

「それがどうしたの」

「ちょっと調べたのですが、先生は昔、モデルの『おーでぃしょん』を受けていたそうですわね。結果は良くて二次面接で落選」

「うるさいわね……」

「その後、何度か受けたけれどもどれも落ちた。そして最後にお母様の事務所でも受けたことがあった」

「うるさいって言ってんのよ……!!」


 激高した海原先生が飛び掛かって来た。

 ですが所詮は女の細腕で戦いの経験も無いような人間。わたくしはすぐに腕を取ってから地面に伏せさせる。


「お母様もその時に審査員をしていたみたいですわね。その時になにか言われたのでしょうか? それでお母様を恨んでいる。矛先は娘である美子へ、というのが動機でしょう?」

「ふん……。そうね、それは事実よ。私はどこへ行っても落ちていたわ。だから高校を出て大学を卒業してきちんとした職についた。恨んでいるとして……そもそも、この件についての証拠は? ここまでするんだから私が神崎さんが飛び降りることになったという証拠はあるんでしょうね?」

「それは、もちろん」

「……!」


 わたくしの言葉に表情を歪めて首をこちらに向けて来た。まさか、という感じですが、いくつかおかしかった点を口にする。


「まず、妙だったのは花瓶ですわ。あれを仕込める人間は実のところそう多くないのです。早朝かと思いましたがあれは学校内に誰も居なくなった後、教室に置いたのでしょう?」

「……」


 早く投降しても置かれていた花瓶。あれは間違いなく先生である彼女にしかできない所業だと思いました。


「次に貴女の行動。これは日記にあった『先生は助けてくれない』というワードから観察しておりましたが、確かに支えるフリはしているのですが、結果的に美子やその周辺を貶めようとしていますわね?」

「なにを……」

「学校へ来るな、と行ったことやあの三人をどうしても悪者に仕立て上げようとする発言……。織子達とのことは『知っている』のでしょう。自分や里中さんに目がいかないようスケープゴートにしてうやむやにしようとした」

「それでも証拠としては弱いんじゃないかしら? 離しなさいよ……!」

「おっと」


 強引に肩を動かしてわたくしの手から逃れる海原先生。少し距離を取って一瞬、苦悶の表情を浮かべた後、ニヤリと笑う。


「それでもそれは推測に過ぎないわね。私が里中さんを使って神崎さんを陥れたってことにはならないわよね?」

「まあまあ、焦ることはありませんわ。ここからが面白くなるんですもの」


 海原先生の笑みに対してニヤリと返すわたくし。さて、次は貴女が追いつめられる番ですわ、海原先生。

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