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第40話 真実の下へ


 今日の一限は現国、二限は数学に三限目は英語といつも通りの日常をこなしていくわたくし。

 休憩中は少しだけ興味を失ったもののクラスメイトが話しかけてきて、昼食は里中さんと一緒に食べる……そんな平和な学校生活。


 本来であればこれが正しい姿なのでしょう。

 友人たちと楽しくおしゃべりをして、放課後は好きなことをする。勉強を頑張っていい大学に入る。部活で結果を出しプロになる。

 少なくとも向こうの世界のように魔物に怯える必要も、それを倒すために冒険者という何でも屋にならざるを得ない、ということもない。

 自分のやる気次第で何者にもなることができる、素敵な世界。


 美子もその中の一人だったのにも関わらず輪から外れてしまった――


「どうしたの神崎さん? 空を見ながら微笑んでいなかった?」

「いえ、なんでもありませんわ。行きましょうか」

「うん!」


 先に出ていたわたくしへ声をかけてきたのは里中さん。今から約束通り、町へ繰り出して衣替えのための服を買いに行くため歩き出す――


◆ ◇ ◆


「で、あたし達はあの二人を追うってことね?」

「そうなるね。……まさか委員長とは」

「美子ちゃんの閻魔帳には誰の名前も無かったのよねぇ? スマホに残っていた写真もいいんちょっぽくないんでしょ?」

「らしいけどね」


 ――昨晩、レミコから連絡を貰った時は耳を疑った。委員長……里中が黒幕だとハッキリ言ったから。いつも笑顔を浮かべてみんなの世話をする彼女が美子を追いつめたらしい。


 正直、里中は気に入らない女だけど、それはわたし達が『いわゆる素行不良』タイプの生徒だからだ。

 人に構いすぎる節がある彼女はただ、ただ、うっとおしいのだ。

 まあこっちが拒絶の意思を見せれば踏み込んでくることはないんだけどね。


 それでも、正義のおせっかいとも言うべき態度を貫いていた里中が何故、美子を追いつめたのかが繋がらない。その部分はレミコが回答をしてくれなかったので不明のまま。


 その答えが今日わかるのだとメッセージが朝、届いた。


「いやあ、一昨日の今日でもう突撃するとかレミちゃん怖いねえ、莉愛」

「……でも気持ちはわかるよ有栖。レミは口も手癖もわるいけど、美子のために怒っているんだよ。だからケリをつけられると判断したからすぐに行動に移したんだ」


 『手合わせをしたあたしにはわかる』とバトルマンガのキャラみたいなことをドヤ顔で言う莉愛。わたしはそれを見ながら呆れた顔で目を細めると、鞄を持って席を立つ。


「ありゃ、もう行く?」

「そうね。GPSはつけさせてもらったけど、見失うのは勘弁したいし。レミはともかく、あの体は美子のものだから傷がつかないようにしないと」

「あんた神崎のこと好きすぎるでしょ……」


 莉愛に『百合マンガの相方じゃないんだから』と言われて口を尖らせるわたし。

 だってあの子、放っておいたら勝手に抱え込んで潰れちゃうんだよ? わたしが守らないといけないんだ。


「あ、待ってよ~」

「なにをむくれてるのよ」


 でも、今日で終わる。少なくとも、美子を陥れた人間に報いがあるのだ。

 わたしはスマホの電話帳に載っている『若杉警部』の名前を表示させながら彼女達の後を追った――


◆ ◇ ◆


「あ、このお店も神崎さんに似合いそうな服があるんだよ」

「まいりましょう」

「やっぱりいいわね、ここ。こういうのはどう?」


 駅前まで出てきたわたくし達は早速デパートへ向かい、中にある服を扱うお店で物色を始める。

 白地に薄い青の生地を合わせたワンピースに、ミントグリーンのスカートなど、夏らしいものを押し付けてくる。


「悪くないですわ。でも少し明るすぎませんか?」

「神崎さん、優しい系の顔だからこういうのに麦わら帽子が似合うと思うんですよねー。あまり好きじゃないです?」

「……そうですわね。わたくしとしてはこういうのがいいかもしれませんね」


 そう言って手に取ったのは肩が赤く、全面が黒い上と、同じ色をした、わたくしの世界でもあったようなフレアスカートを手に取って体の前へ当ててみる。

 すると里中さんは目を丸くして口を開く。


「……意外。どちらかといえばダークな感じよそれ? 前みたいに引っ込み思案だったとしてもちょっと合わないかも」

「そうでしょうか? 他人の見ているものと本人の視点はまた違うと思いますわ。外面を着飾っていて、内面は……なんて人も多いんじゃないでしょうか」

「そんなこと――」

「里中さんにはこういうのもいいかもしれませんね?」

「……!」


 わたくしはちょっと胸元の空いた服で、有栖さんのようなギャルが着そうな上着とミニスカートを手ににっこりと笑い掛けます。

 その瞬間、また目を見開くが今度は拳を握り、冷や汗が大量に浮かび上がってきました。わたくしは特に異に介さず、次の服へ目を向ける。


「おや、どうしました? やはりこれは恥ずかしいですか?」

「え、ええ、そうね……。ふ、服はこれくらいにして。アクセサリーかコスメを見に行きましょうか!」

「そうですか? わたくしはお供しますよ。ああ、最後に一か所だけ一緒に行きたいところがあるのですがよろしいでしょうか?」

「は? え? あ、ええ、構わない、ですけど? 行きたいところがあるなら最初に言ってくれれば良かったのに」

「うふふ、最後でいいんですよ。わたくしの用事なので、ね?」


 そのまま服のお店を出ると、雑貨へ赴き、次はお化粧品を売っているお店へ移動。一度休憩を挟んでカフェへ寄ったところで日が暮れてきました。


 ――さて。

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