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第39話 ラストワルツ、ですわ


 ――わたくしがこの世界に来てから約一か月。

 いまだに何故ここへ来たのか? 美子の身体に入ったのか? それはまったく解明されていません。


 ですが、美子が追い詰められたことにより自殺を図り、その時どこかへ行ってしまった魂。

 恐らく同時期にドジメイドに頭を割られたわたくしの魂が入ってしまった。


 それは、まあいいでしょう。

 この世界はあちらには無いものがたくさんあり、文化レベルも高いですからね。

 元の世界へ戻ることがあればこの知識は存分に使わせていただきます。


 ……戻れれば、ですが。


 だからこそ、この一連の事件の真相を知らなければならないのです。

 何も知らないまま流されるのはわたくしのもっとも嫌うことでして。


 さて、犯人は一つ大きなミスをしました。

 黙って経過を見守れば良かったのですが、凶悪令嬢の異名を持つわたくしに手を出したことです。

 それ故にこちらが知らなかった情報を提供する羽目になりましたわ。写真にこともそうですが、他人を使うということはそこから漏れるリスクというのをあまり考えていなかったようです。


 ……もう犯人はお分かりですわよね?


 彼女の動機を詳しく聞くと同時に、わたくしの異名の意味を、身をもって知らせて後悔させてあげましょう。


 レミ・ブランディアでした――



◆ ◇ ◆


 若杉警部と出会ってから二日。

 休日明けの月曜日となり、また騒がしい一週間がスタートしました。

 あの後、お寿司を食べてお父様の財布を寂しくさせた後に帰宅。


 両親に事情を聞かれたので説明すると驚かれましたわね。当然ですけど。

 まあ『表向き』は涼太とお出かけをしていただけというのは間違いないので不可抗力を告げると、お母様がボディーガードをつけるべきだと口にしました。

 警部がなんとかすると言っていたと伝えて止めさせましたわ。

 実際、スマホという機器のおかげで、少しのタイムラグはあれどすぐに救援が呼べるというのは心強いと感じますわね。

 というわけで、夜の街のお兄さん方との邂逅、バイク男のことなどを話して昨日は両親のために家に引きこもりました。

 もちろん、ただ引きこもったわけではありませんが――


「おはよう! 神崎さん!」

「おはようございます里中さん。先日はどうも」

「あはは、そういえばそうだったね! あの後、どこ行ったんですか?」

「弟とデパートやカフェへ、里中さんは?」

「私はお洋服を見にかな? ほら、夏が近くなってくるし」


 そう言って胸元をパタパタとさせて暑いというアピールをしてくる里中さん。ふむ、なるほど。


「確かに衣替えという時期ですわね。今度、そういう観点でお買い物へ行こうかしら」

「あ、いいと思いますよ! 今度一緒にお出かけしません?」

「そうですわね……。なら、今日の放課後少し見に行ってみますか? もちろん、里中さんがよろしければですが」


 わたくしが少し考えてからそう言うと、里中さんがきょとんとした顔でこちらを見た後、


「い、行く行く! うわ、誘ってみて良かった!」

「大げさですわよ。あ、でも、土曜日に不審者に襲われましたの。やはり危ないかしら……」

「え!? だ、大丈夫よ! ……多分。あの時は人通りの少ないところだったけど、今度はデパートの中とかなら安心でしょ」


 それはいつの時間軸のことでしょうか。三人組が現れた時? それとも先日のバイク男の時かしら?


「では放課後に……。おや、才原さん達も登校してきましたわね」

「……相変わらず、ですね」

「……」

「にひひ……」

「ふん」


 三人は睨みつけて来たり嫌らしい笑いを浮かべていたりと忙しい顔ですわね。

 学校では親しいことを見せないと決めているためこちらの話を聞きたそうにしている織子へ目を細めて手を振ってあげました。


「……! チッ……」

「おお、怖い……。か、神崎さん煽ったら危ないって……」

「大丈夫ですわ。誘拐犯やバイク男のように懲らしめてあげるだけですからね?」

「……」


 わたくしの言葉に無言になり、笑顔で冷や汗をかく里中さん。

 そのまま自席へカバンを置きに行きました。そこでポケットのスマホが震えたので確認してみると――


『昨日の話、マジなの?』


 と、アプリに織子からのメッセージが来ました。顔を向けずに細目で視線を向けると、相変わらずわたくしを睨みながらスマホを手にしているのが見えました。

 目が悪いからというのは中々可愛らしい理由でしたけど、眼鏡は似合わない、コンタクトレンズという目にガラスを入れるのは怖いと言っていましたわね。

 ……確かに目にガラスは怖いですけど。


『本気ですわ。放課後、わたくしの後をついてきてくれると嬉しいですわ』

『オッケー。大人はちゃんと呼んでる?』

『ぬかりはありませんわ』

『(∩´∀`)∩』

「プッ……」


 急に顔文字というものを出してきて思わず机に突っ伏してしまうわたくし。あの……あの睨みつけているような顔でこの顔文字……くく……


『やりますわね。というわけで残り二人にも一応伝えておいてください』

『……オッケー』


 なぜか不貞腐れている織子が前を向くと、その瞬間先生が入ってきました。


「おはようー。ホームルーム、始めるわよ!」


 さて、それでは終止符を打つための一日を始めましょうか――

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