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第31話 次の手は最終手段になりうるかしら?


 色々と話して収穫があったりましたわね。気づけばお昼時になっていました。

 あの三人、なかなか悪くないですわ。向こうの世界でわたくしによく突っかかって来たヴィクトリアを思い出しますわね。


 それにしても――


「レミ姉ちゃん」

「なんですか、涼太?」

「良かったの? 全部話したけど、まだ全員が味方とは限らないんじゃない?」


 ――わたくしの思考の間に涼太がそんな話を持ち掛けてきました。いい推測ですが、あの三人に話す理由はいくつかあるのでそれを語りましょうか。


「問題はありませんわ。あの三人の内の誰か。もしくは三人とも敵だったとしても、【わたくしの素性】を知ったことにより何らかの形で動きを見せるでしょうし無駄ではありませんわ」

「また誘拐の時のような男達が出て来るとかないかな」


 その可能性はありますが、この場合三人が関わっているなら話が変わりますからね。

 数を増やしてきた場合、わたくしの魔法と体術を見て対応したと考えられる可能性が出てきます。

 まあ、前回撤退させた時、こちらの戦力を見極めてからの増員も考えられるのでこの推測が当たるのは半々といったところですがね?


 とはいえ、少なくともあの三人が【敵】であるなら、今回の会話で警戒を見せてくるでしょう。動きが鈍くなったら、猶のこと。


「出てきたとしてもそれほど脅威にはならないでしょう。魔法も簡単なものしか見せていませんし」

「そうなんだ?」

「その気になれば一軒家を灰に出来ますわよ?」

「えー、それは流石に無いと思うけど」

「ふふ、どうでしょう」


 わたくしが目を細めて笑うと、涼太は苦笑しながら口を開く。


「ま、それをいつ見れるかわかんないけど。でも、ある程度情報が整理できたのは大きかったんじゃない?」

「そうですわね」


 疑惑の三人からそこそこ信頼のできるクラスメイトに昇格しましたし、飛び降りた時点でのアリバイもある。

 学友関係も把握できましたが、美子が他の生徒と遊ぶといったことは無いという話もありましたし。


 そういえば花瓶事件についても分かったことが。

 あの三人が早く登校することは殆どないらしく、置いた人物に心当たりも無いとのこと。だから明日、田中さん……莉愛さんが朝一番に潜入してみるとのこと。

 戦闘力を考えれば彼女が一番いいでしょうということで決まりました。もちろん、わたくしもなるべく早く行くつもりですがここは学校内なのでまだ危険はないでしょう。


「才原の姉ちゃんは複雑そうだったねえ」

「……まあ、中身が美子ではないことを考えると仕方ありませんわ。半信半疑どころか純度100パーセントで別人というのが分かってますから」


 目が悪いから睨んでいるように見えるというのは面白かったですわね。と、言うのもちょっと可哀想なくらい落胆していました。なので今度なにか奢ってあげるということにして濁しました。……元に戻ることが出来るかも分からないですし、ね。


 まあ織子さんには悪いですが今はそれより犯人を突き止めて安心して暮らせるようにするのが先決。


「そういえば、三人とも名前で呼んでってしつこかったね」

「特に有栖さんと莉愛さんですわね。こちらだとスタンダードすぎる苗字らしいから嫌だとか」

「まあ佐藤と田中だしなあ」


 ということで人前では苗字、わたくし達だけで居る場合は名前という区別をつけることで納得してもらいました。


「さて、とりあえず話したいことは話せました。今日は――」

「今日は?」

「『ふぁみれす』というところで朝食と行きましょう。それから町へ繰り出してみましょうか」

「マジで……? 狙われているのに……」


 だからこそ、ですわね。

 休日でも監視しているのかどうか? それを確かめるのもまた一興。

 そんなわけで涼太と土曜日を満喫することに。


「そういえば後から出てきた莉愛さんの妹さん、クラスメイトだそうですね。恋人かしら?」

「ちちちち、違うよ!? クソ、姉ちゃんと違って興味を持つのが厄介だ……」

「ほーっほっほ。わたくしが興味を持てばすべて丸裸にしてあげますわ。ああ、そうだ莉愛さんに連絡して呼びましょうか」

「やめろ!?」


 そんな姉弟の微笑ましいやり取りをしながら『ふぁみれす』へと向かうわたくし達。……さて、今日はなにか起こるかしら?



 ◆ ◇ ◆


「あの子、証拠を握っているはずなのになにも反応が無い……」


 ――暗い部屋の中でスマホの画面を見る人影が苛立ちながら爪を噛む。

 何度か神崎 美子へ接触を試みたが記憶が無い、というのは本当らしいということは分かった。

 しかし『証拠』はスマホの中にあるため、それを見た瞬間に思い出す可能性は高い。だからその前に接触を図ってそれを消すべきなのだ。


「神崎め……」


 追いつめて自殺未遂までいけたのは良かった。だが、スマホを回収しようとしたがすぐに警察が登場し逃げるのが精いっぱいだった。

 放課後はいつの間にか居なくなっていたのでどうしようもなかった。だが、ようやくあの日、廃ビルまで追い込んだのにも関わらず失敗した。

 そのことがずっと心を蝕んでいた。


「仕方ない。力技しかないか。……大丈夫、殺しはしないから、ね?」


 スマホに照らされた口元が歪んでいた――

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