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第27話 不器用というのは手が付けられませんわね


「あら、これはいい場所ですわね。気が引き締まります」

「ありがと。はい、座布団」

「あたしお菓子持って来た~♪」

「道場に持ち込むなって」


 田中さんの家にある『道場』に才原さん達と涼太、そしてわたくしの五人が集まり、あてがわれた座布団という敷物に座る。


「……大丈夫、食べていいよ」

「やった」

「お父さん……! いつもはめちゃくちゃ怒るくせに!」

「ふふ……莉愛が友達を連れてくるなんて久しぶりだからな。警察に呼ばれた時は震えたが、その子を助けたそうじゃあないか」

「あっち行け……クソ親父!! こっちに来ないように依子をちゃんとカットしておいてよ」

「おおお……寂しいよ莉愛ぁぁぁぁ」


 と、熊のような田中さんのお父様がフェードアウトし、顔を赤くした田中さんが戻ってきました。乱暴に座布団へ腰かけると、才原さんが咳ばらいをしてわたくしと目を合わせてきました。


「……で、ここにわたし達を集めたのは?」

「ハッキリさせておきたかったからですわ」

「はっきり? って、どういうことぉ?」

「あなた達がわたくしの敵ではない、ということをです。最初は態度があまりにも酷いと思っていたので、飛び降りた原因が三人だと思っていました」

「なにを……!!」


 静かに答えるわたくしに激昂する田中さん。それを才原さんが黙って制止する。佐藤さんは口元に笑みを浮かべて楽し気な様子ですわね。


「続けて」

「ええ。しかし、先日の誘拐事件で助けてくれたのを鑑みて恐らく『違う』と判断したのです。記憶が無いので復帰登校以前のわたくしとあなた達がどう接していたのかわからない。そのあたりを聞きたいと思っています」

「あー、記憶がなきゃわかんないよねえー」


 佐藤さんが髪の毛を指先でくるくると絡ませながら口をつく。それに頷くと、才原さんが手を上げて質問を投げかけてきました。


「……聞いていい? 美子、あんた記憶が無いってのはわかるけど、いくらなんでも変わりすぎよ。本当に……美子、なの?」

「……」

「姉ちゃん……」


 訝しげに聞いてくる才原さんに対して目を細めるわたくし。涼太が心配そうに呟いたところで彼女へ返します。


「……わたくしは美子であって美子ではありませんの。名をレミ。レミ・ブランディアという、こことは違う世界に居た人間ですわ」

「「「……!?」」」

「い、いいのかい姉ちゃん」


 息を飲む三人。

 これは必要事項だと判断したので特に問題がないので、涼太を手で制止して続きを告げる。


「驚くのも無理はありません。が、これは事実。なので記憶が無くなったのではなく――」

「美子はどこ……!! どこにいるの!」

「……」


 真実を告げると、才原さんが必死の形相で詰め寄ってきました。どうやらわたくしの予測は当たっていたようですわね。


「……残念ですが、どこへいったのかはわかりません。この体にはレミ……わたくしの記憶しかありません」

「そ、そんな……」


 瞬間、崩れ落ちる才原さん。


「マジ、なの……?」

「別世界って……へへ、冗談でしょ、美子、ちゃん……美子ちゃんが壊れたぁぁぁうわぁぁぁぁ」


 残る二人もさすがに頬を引きつらせて冷や汗をかいておりますわね。佐藤さんにいたっては泣き崩れる始末。


「驚くのも無理はありませんし、信じられないのも無理はありません。ですが、これは真実です。その証拠に……<ファイア>」

「手から火……」

「ま、魔法ってやつ?」


 田中さんと佐藤さんはなんとか声を振り絞り、才原さんは焦燥した顔でわたくしの出した火を見て目を丸くしました。魔法が使えるのはこちらの


「というわけで、ここに居るのは美子であって美子ではありません。だから詳細を聞く必要がある、ということですわ」

「なるほど……どうりで口調がおかしいと思ったわ……」

「いや、もっと突っ込んで欲しいところだけどさ……」


 田中さんが腕組みをしてそういうと涼太が頬を掻きながら苦笑する。ま、それほど話が出来なかったからというのはありますから、その暇もありませんでしたし。


「ごめん……」

「ん?」

「ごめん……美子……わたしがちゃんと見ていたらこんなことには……。うぐ……ふぐ……」

「織子が号泣!?」

「ごめんんんんん!」

「わ」


 感極まった才原さんが顔をぐしゃぐしゃにしてわたくしに抱き着いて大泣きを始めました。


「織子、あんた……じゃない、美子のこと大事に思ってたからね」

「そのようですわ。ということは才原さんは美子を守っていた……ではどうして飛び降りるまで追い詰められたのでしょう?」


 さて、これで話の中心に入ることができました。

 まだ白に近いグレーというところですが、才原さんの反応を見るにこの三人が『美子』へ酷いことをしていたということは無さそうですわ。


「それなんだけど、私達も詳しいことが分からないのよ。なにかを隠していたのは間違いない」

「だけどそれを教えてくれなかったのよねえ」

「隠していた……?」

「ずび……うん。なにかに怯えているのは分かっでいだから放課後、一緒に帰っていだの」

「鼻をかんでください才原さん」

「ふぐ……」


 世話が焼けますわね。

 ただ、これで少し見えてきたこともでてきましたわ。


「日記には『先生は助けてくれない』とありましたが心当たりは?」

「あー……。相談はした、みたいなことを言っていた気がするー。本題はあたし達には教えてくれなかったんだよね。巻き込むからって」

「誰かに……ストーカー、とか?」


 顎に手を当てて考える涼太。狙われていた、という意味では当たっていますが――


「そういえば才原さん、わたくしが心配ならどうして睨んだりしていたのです?」

「ふあ……!?」


 わたくしが背中をさすりながら問うと、びくっと身体をこわばらせて変な声をあげました。


「ああ、レミじゃわからないか。織子、あんまり目が良くないからじっと見ると睨んでいるように見えるのよ」

「そそ。だから前の席にいるでしょ?」

「や、やめて二人とも!? 知らない人に言っちゃだめだって!?」


 ふむ。どうも悪態をついているのは照れくささを隠しているという感じのようですわね。


「なんと可愛らしい」

「う、うるさいわね……!! 美子の身体を乗っ取ったやつに言われたくないわ!」

「わたくしも困っていますからおあいこというやつですわ。だからこそ、飛び降りた理由を知り、犯人を突き止めたいと考えています」

「う……。そうね……美子……」


 わたくしの真面目な顔に涙を引っ込めて俯く。とりあえず才原さんはこれでいいでしょう。納得がいかないというのは分かりますが。


「時に里中さんはいつもあんな感じなのですか?」

「え? 委員長? まあ、そうね。おせっかいというかそんな感じかな」

「飛び降りる前には『美子』とどれくらい関わっていたかわかりますか?」

「そうねえ――」


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