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第26話 敵か味方かそれともモブか、ですわ


「……」

「……」

「あの人たち、まだ神崎さんを……。助けに入った時、ちょっといい人たちだと思ったのに」

「いいのですよ里中さん」


 才原さん達と目が合うと里中さんが不機嫌そうな顔で口を尖らせていました。

 そんな三人がこちらにやってきて話しかけてきました。


「なに見てるのよ美子」

「いえ、なんでもありませんわよ才原さん」

「そのすました顔、気に入らないわねえ」

「きゃはっ! こわーい」

「……」


 わたくしは三人へ目を向けて余裕の笑みを見せる。

 昨日、助けてくれた彼女達へ文句を言う必要もありませんし……。そう思っていると、


「こらー! あんた達また! 生徒指導室へ連れて行くわよ!」

「ふん」

「いーだ! いこ、二人とも」

「……」

「では、また」


 海原先生が教室へ入ってきてわたくしを囲もうとした三人へ詰め寄りました。

 才原さんが先生に視線を合わせた後、すぐにこの場から離れ自席へ。


「昨日、本当にあの子達に助けられたの? またどこかへ連れて行かれそうになったとかじゃない?」

「いえ、本当に助けられましたよ? 誘拐犯は里中さんも見ていますし、ね?」

「う、うん……」

「神崎さんも自分のこと、もう少し考えて欲しいけどね先生は」


 若干、歯切れの悪い里中さん。

 やはりあの三人はあまり好きではないようですわね? そして教卓へ移動する海原先生の背を見守ります。

 先生がたはことを大きくしたくない……いえ、わたくしという『異物』を排除したいという気もしてきましたわね。


「みんな席について。今日は緊急放送朝礼があるからホームルームはその時間に充てられるわ」

「緊急……?」

「いったいなにがあったんだ?」

「神崎さんのこと以来だな……」


 昨日約束した朝礼は放送でやることにしましたか。妥当なところでしょう。

 え? 放送を知っているのかですって? ……テレビを知っておりますから当然ですわ! わたくしもだいぶ慣れてきましたからね。


 そして校長先生による『不審者』の目撃情報が学区内周辺であったため、警察からも注意されているという話をしました。わたくしが関わっていることはもちろん伏せて。

 警察が関わっていることは嘘ではないですし、他の生徒が狙われて困るのは先生方も同じこと。


 そして今日は花瓶も置かれていなかったですが、心境の変化というやつでしょうか? 学校内で特になにか起こることもなく、次の休みまでは静観しようと穏やかに過ごすことにしておきましょうか。


「神崎さん、お昼一緒に食べましょう!」

「ええ、構いませんわ」

「あ、わたしもー」

「私もいい?」


 里中さんは三人を警戒しながらお昼ご飯を誘ってきました。他の女生徒も便乗してこちらへ。


「昨日は大変だったから今日は来ないかと思っていました」

「ふふ、あれくらいではへこたれませんわよ?」

「え? なになに、委員長、昨日なにかあったの?」

「……あ」

「言いにくいこと……?」


 迂闊、という顔で里中さんが口をつぐむ。


「そうですわね……。今朝の朝礼の不審者。アレに遭遇したのですよわたくしと里中さんは」

「え!? だ、大丈夫だったの!?」

「はい。なんとか危機は脱しました。その場に里中さんと才原さん達三人も居まして、慌てて逃げ去りました」

「あれ!? あの三人も……? 仲が悪いんじゃ……」

「です。……あの三人が出てきてからすぐ逃げたし、ちょっと怪しいと思っているんですよね」


 女生徒が卵焼きを口にしながら不安そうに言うと、里中さんが視線を落としてから口を開く。


「おや、そうなのですか?」

「うん。いくら田中さんが空手で強かったとしても三人だよ? 手引きしたとかないかな」

「どうでしょう。……あの三人と話をしてみなければ分かりませんわ」


 すると女生徒の一人が声を小さくしてわたくしへ言います。


「止めといた方がいいんじゃない……? 佐藤さんってあの見かけでしょ? 援交しているって噂もあるよ? 女子高生を攫わせて、とかあるかも……」

「えんこう?」

「わ、私の口からはこれ以上言えないけど……!」


 スマホでこっそり調べてみると、お金をもらって淫らな行為をするということらしいですわね。なるほど、娼婦みたいな感じでしょうか。


「でも噂でしょう?」

「……パパ活も流行っているし、わかんないよー?」


 パパ活……また新しい単語が。

 ふむ、こちらは淫らな行為は無いけど金銭は発生する、か。


「難しいですわね。あまり根も葉もないことを言うとこちらが訴えられますわよ? わたくしが追い詰められたみたいに知らず、襲われるとか――」

「や、やめてよ神崎さん……」

「お、お昼食べよ!」

「……」


 慌てて取り繕う女生徒二人に、黙り込む里中さん。

 その後は『とりあえず』平穏に凄し、帰りはスミレさんの送迎があり誘拐犯も手が出せない状況で表向きはなにも無かったですわ。


 そして――


「こっちだよ」

「周辺に注意を、涼太。後をつけられたりしていたら撒きますわ」

「こんな早朝は誰も居ないと思うけどね。ふあ……」


 ――休日。


 わたくしと涼太は朝早くから田中さんの家へ向かう。

 家が分からないのと、地図あぷりの操作方法が分からなかったので案内をお願いした形ですわ。


 まだ薄暗い道を二人で歩いて行き、歩いて二十分ほどしたところで目的地へと到着。


「……来たわね」

「おっはよー♪ あれ、弟君も? はっはーん、妹ちゃんに会いにきたのねぇ」

「ウチの妹はあげないよ?」

「ち、違いますよ!?」

「勢ぞろい、ですわね。それでは場所をお借りさせていただきますわ」

「いいわ。こっちよ」


 さて、どんな話が聞けるか。面白くなってきましたわね?

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