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第25話 反撃開始といきましょうか


「……クソ! あいつら失敗しやがって……! こっちは目的の物を回収したら神崎の奴は好きにしていいってことで雇ったのに台無しだわ」


 暗い部屋の中で指を噛む人影。

 声の調子から若い女性だということが辛うじて分かる。


「それにしても神崎があんなに強いとは思わなかったわね。記憶がないというより別人みたいな……」


 人影は顎に手を当ててそう呟く。

 しかし、すぐに頭を振ってから壁を殴りつけた。


「どうする……? 話した感じ、記憶が無いようだから『あの時』のことを覚えていなさそうだけど、いつ思い出すか分からない」


 誘拐して脅迫、ということを考えていたが今日、それは失敗した。

 バイクに跳ねさせようとしたものの、間一髪というところでそれも叶わなかった。


「せめて学校に来なければいいと思ったのに……飛び降りた時に死んでいれば――」


そう言った時、スマホの画面がパッと点灯して通知が表示された。暗闇でのスマホはよく目立つ。そんなことを考えながら通知を開く。


「……はあ。今は『仕事』をする気分じゃないんだけど……。仕方ない……」


 そして彼女はベッドから降りると、着替えを始める――


◆ ◇ ◆


「誘拐だなんて……。あの件から美子ちゃんの周りでおかしなことばかり起きるわね……。あ、ごめんなさいね」

「お母様の言うことももっともなので大丈夫ですわ。車道に突き飛ばされた時はまさかとも思いましたが、実際キナ臭い感じになってきましたわ」

「うえ!? 美子ちゃんそんなことがあったんですか!?」

「は、初耳よ!?」


 そういえばそうでした。

 自動車を運転しているスミレさんとお母様が驚愕の声を上げてわたくしに目を向けます。


「……やっぱり学校へ行くのは辞めた方がいいんじゃないかしら今度こそなにかが起こりそうな気がするわ……」

「ですよ、美子ちゃん。お母さんを心配させない方が……」

「嫌ですわ。このまま学校に行かなければわたくしは助かるかもしれません。しかし真相を追及しておかないと他に犠牲者が増える可能性が高いですわ」

「でもそれは先生の仕事……」


 お母様の言葉にわたくしは首を振って答えます。


「先生はあまり役に立ちそうにありませんわ。むしろ揉み消そうとしている節もありますし」

「そ、そうなんですか……?」

「まあ、それはいいでしょう。今日のことである程度推測も立ちましたし、若杉さんという警察の協力も得られました。反撃は……ここからですわよ」

「美子ちゃん……、危ないことだけはやめてね」

「うう……」


 約束はできかねますので微笑んで誤魔化しておきましょう。スミレさんもばっくみらーという鏡越しにわたくしを見て驚いておりますわ。


「さ、お寿司……お寿司を食べさせていただければこの状況、きっと打破できると思いますわ」

「美子ちゃんったら。毎日お寿司を食べさせてあげるから学校行くの辞めないかしら」

「……」


 魅力的な提案……

 ですが、少なくとも全て終わるまでは学校へ行く必要がありますからね。

 理由は分かりませんが犯人はわたくしが学校へ来るのを嫌がっている……のではなく、美子という個人になにかあるようだと、狙った誘拐で確信しましたわ。


「いただきますー!」

「姉ちゃんのおかげで寿司が食えるよ……!! 美味い……!」

「ふふ、サーモンは譲りませんわよ」

「速い……!?」

「茶碗蒸しもあるわよー」


 さて、そんな怒涛の一日はお寿司という癒しをいただき、誘拐されそうになった恐怖を乗り越えました。お父様は一時ひっくり返っていましたわね。

 一家の団欒が終わるとお風呂に入り、後は部屋でゆっくりする時間となりました。

 一日を振り返りつつ、わたくしは机に向かいます。


「ふむ、ひとまず明日からの動きを考えないといけませんわね。若杉さんの奥様の情報を得るまで下手に動かない方がいいですが、あの男達がまたやってきたら面倒ですし……」

「姉ちゃん、今、いい?」

「ん? どうしました涼太。開いていますわよ」


 日記を手に他になにかワードが拾えないかチェックしていたところ、涼太に声をかけられ顔を上げる。

 入室を許可するとスマホを手にした涼太が複雑な顔で入ってきました。


「どうしました?」

「ん。今日さ、姉ちゃんが誘拐されそうになって才原の姉ちゃんが来たって話……」


 先ほど夕食時にお父様がひっくり返った時のことを繰り返す涼太。どうしたのかと言葉を待っていると、スマホを差し出して口を開きました。


「……実はその少し前、田中先輩の妹と買い出しに行ってたんだ。そこで才原の姉ちゃん達三人と会ってる」

「ほう」


 それは……結構な情報ですわね。となると、彼女たちは白に近くなりますわね。


 そして――


「で、その時に才原の姉ちゃんや田中さん、佐藤さんの連絡先を教えてもらった。もしその気なら姉ちゃんも登録して連絡してみるのもいいかもってさ」

「素晴らしいですわ涼太。早速連絡してみましょう」

「え!? もう!?」


 怪しかった彼女達は今のところわたくしが不利益を被るような真似をしていない。

 態度は悪いですが、なにかを悟られたくないという感じがします。


「というわけで……」

「あ、俺のからするんだ」


メッセージアプリというものを使いわたくしは才原さんへ。


[こんばんは]


[ああ、アンタか。どうしたの? 美子のこと?]


[ええ、その通りですわ才原さん。わたくしのことです]


[……!? アンタ、美子……なの?]


 直後、『でんわもおど』になり、涼太が頷いたので『つうわ』ボタンを押す。


「ごきげんよう、才原さん」

「ほ、本当に美……きゃあ!?」

「どうなさいましたの?」

「な、なんでもない! ……で、なによ? 昼間の件?」

「それもありますが……。今度のお休みの日、あの二人と一緒にお話をしませんか?」

「話……?」

「ええ。田中さんの家は武道の稽古場みたいですし、四人だけで話がしたいのです――」

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