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第22話 舐めてもらっては困りますわ

「大人しくしろや……!!」

「……!」

「腕を掴んで口を塞ぐんだ」


 大声を出して助けを呼ぶのは簡単ですが、その隙に捕まるのは避けたい。

 なのでわたくしは回り込まれないように下がりつつお腹の出ている男の手を払う。

 こっちは感情に任せて襲い掛かってくるので御しやすいですが、もう一人のリーダー役みたいな肩幅の広い男は不気味ですわね。


「こちらは連れが居ます。戻ってきたら警察へ連絡されますわよ」

「その前に捕まえればいい」


 ……怯まない、か。


 手慣れていると思っていいのでしょうか? それにしてもわたくしを捕まえる理由がわかりませんわね。

 自殺に失敗した女生徒を誘拐するというのはリスクが高いと思いますが――


「ハッ!」

「ぐあ!? な、なんだ……こいつ。聞いていた話と違うぞ、地味な陰キャって話だった……ぐえ!?」

「情報が古いですわね。<アイスニードル>」

「……!? 空中に氷の矢、だと?」


 お腹の出ている男の脛を蹴り飛ばし、怯ませてから魔法を使う。

 肩幅の大きな男がわたくしの魔法を見て初めて動揺を見せる。距離を取るため二人の足元へアイスニードルを飛ばしておく。


「うお……!?」

「チッ、切り裂かれる……!」

「今……!」

「こいつ……ぐあああ!?」


 ハイキックで顔面に一撃を叩き込むとお腹の出ている男の首が気持ちいいくらい吹き飛んでその場に転がりましたわ。


「あと一人」

「……」


 まだ諦めないようで腰を低くして一気に飛び掛かってくる態勢になる。この体では大人の男性が本気でタックルを仕掛けてきたら止めようがありませんわ。

 相手のダッシュと同時に左右どちらかへ回避するかウインドボムで吹き飛ばすのが最善でしょうね。


 すぐに最適解を導き出し、右手に魔力を込める。正面なら魔法を決め打ちですわ。

 そう思っていると、男の身体にグッと力が入るのが見えた。その瞬間、こちらも身構えて迎撃の態勢に入ると――


「だーれかー! こっちに怪しい男がいまぁす!」

「誘拐だ! 誰か来て!」

「あんた達そこを動くんじゃないわよ!」

「おや……!」

「チッ、これは予想外だ……!」


 わたくしの後ろにある道の角から才原さんと田中さんが大声を上げながら走ってくるのが見えました。佐藤さんはひらひらと手を振りながら大通りの方へ声をかけているようです。


「っと、それはともかく待ちなさいな! <アイスニードル>!」

「ぐっ……!?」

「素早い……!」


 見た目に違わず腕力があるようで、お腹の出ている男を引きずるようにしながら大きな車へ乗せ、わたくしが吹き飛ばした男を押し込むと扉を閉めるのもそこそこに、


「出せ……!」

「逃がしませんわ……!!」

「美子、危ない!」


 わたくしが手を伸ばした瞬間、鉄の棒のようなものが振るわれ、目の前を通り過ぎる。才原さんが引っ張ってくれなければ頬にぶつかっていたかもしれません。


「ナンバーを……! くそ、曲がったか」

「うおお、大丈夫、美子ちゃぁん? 如何にもって感じの誘拐なんですけど!?」

「心当たりはありませんわね。ありがとうございます才原さん。もう大丈夫ですわ」


 田中さんはスマホを取り出してなにかしようとしてそれができなかったようで舌打ちを。才原さんはわたくしを抱きかかえて尻もちをついたまま答えてくれます。


「あ、うん……。ケガは?」

「問題ありません。それよりあなた方はどうしてここへ?」

「カフェでお茶をしていたんだけどぉ、そこでちょうど委員長と美子ちゃんを見つけたのね。織子が話があるってことだから追いかけてきたんだよー」

「そうでしたの。助かりましたわ」


 佐藤さんが説明をしてくれ、なるほど向こうも話しがしたかったのかと納得する。 

 そこで田中さんが周囲を見ながら口を開く。


「そういえば委員長は?」

「飲み物を買いに行くとどこかへ」

「そうなんだ」

「あ、戻ってきたよ。おーい!」


 そこで佐藤さんが去っていた方向から戻ってくる里中さんを見つけて手を振り、何事かと慌てて近づいてきた。


「ど、どうしたの?」

「どうもこうも、今、神崎が誘拐されそうになってたのよ」

「誘拐……!? だ、大丈夫……だったんだよね……ここにいるし……」

「巻き込まれなくて良かったですわ。里中さんを守りながらだと御するのは難しかったかもしれません」

「……というかあんた、ちらっと見ていたけどどうして――」


「おーい、大丈夫かい君たち?」


 その瞬間、やじ馬たちが集まってくるのが見え、その中に警察の方がいらっしゃり、声をかけられた。


「警察……」

「どうする織子?」

「事情を聞きたいから交番まで来てくれないかな?」

「ええ。申し訳ありませんが、皆さんお願いしますわ」


 わたくしがそう言うと気まずい顔をしながら三人が顔を見合わせており、里中さんは緊張気味に口を開きました。


「い、行きます! 話をしないと、ね!」

「仕方ないわね」

「乗りかかった泥船だもんねえ」

「沈むじゃない、それ」


 ということで交番へ行くことに。

 おっと、その前に警察の方へ言っておかなければならないことがありましたわ。


「すみません。この場に一人、応援を呼んでもよろしいかしら?」

「応援……? 構わないけど……」

「警部の若杉という方です。ちょっと自殺未遂の時に知り合いになったもので」

「「「……!」」」

「け、警部……」

「ええ。それでは、行きましょうか」


 動揺が見られる四人をよそに、わたくしは警察の方の後についていくことに――

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