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第17話 一つ一つ慎重に聞いてみましょうか


 わたくしの変わりように興味を持ったクラスメイト達が周囲に集まってきた昼下がり。

 向こうの学院でも令嬢同士のティータイムを思い出しますわね。


 三回に一回はわたくしに挑んで――


「神崎さん、どうしたの?」

「え? ああ、少し考えごとを。それでみなさんに聞きたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」

「えー、なんかお嬢様っぽい喋り方ー。神崎さんってそんな感じだったんだ」

「そうだったかもしれませんし、そうじゃなかったかもしれませんわね」

「それで、聞きたい事って? 俺達でわかることがあるか、だけど……」


 男子生徒が頬を掻きながらそう言い、他の方も『確かに』と難しい顔で頷く。

 やはりコミュニケーションを取っていなかった『美子』を知る人間の方が少ないようですわね。


「では、分かる範囲でお答えくだされば。まず、わたくしのことから聞かせてください。わたくしに友人らしい人は居ませんでしたか?」

「そうね……。私、一年の時、同じクラスだったけど覚えていない? ……そう。こんな言い方は悪いけど、髪で顔が隠れていて表情は分からなかったし、話しかけてもあんまり返事はなかったわ。お昼はどこに行っていたのやらってね」

「あたしは二年で初めて知ったよ。隣のクラスだったんだけど、目立たなすぎ」

「モデルの娘だなんて知らなかったよな」


 と、概ね『美子』がまったく目立たない子だったと口を揃えてわたくしへ言う。

 この認識は涼太や両親とも一致するので『いんキャ』という存在だったのは間違いないと。


「正直、クラスで話したことがある人ってそれこそあの三人くらいじゃない?」

「ふむ」

「……逆を言えばあの三人に絡まれているから、近づきにくいというのがあったかも」


 やはり鍵はあの三人のようですね。

 はみ出し者というのはどの世界でも忌み嫌われるものですから、美子というなにを考えているかわからない子と同様、近づきたくないというのは分からないでもないですわね。


「そういえば……あの三人に絡まれているとみなさんおっしゃいますが、どういった話をしているか知っている方は居ますか?」

「ううん。お昼休みとか放課後に神崎さんの席に来てから取り囲んで連れて行くの。授業には神崎さんだけ帰ってくることが多かったわ」


 里中さんが困ったような顔で回答をくださいました。

 ということは美子を含めた四人がどこでなにをしていたかは誰も知らない可能性が高い。

 それこそ、放課後に連れ出して屋上へ一緒に行く、ということもできる。傍目に見れば仲良し四人組に見えるでしょうし。

 さて、では次に――


「一年の時からあの三人は一緒なのですか?」

「そうね。中学はみんな別だったみたい」

「そうそう、わたくしと才原さんは同じ中学だったらしいのですそのことを知っている人は居ませんか? 才原さんとは……いえ、どうでしょう」

「え、そうなの?」


 ――わたくしと才原さんの関係を聞いてみることにしました。あえて中学二年生までは仲が良かったという話は避けて。

 なにか知っている人がいるかと思ったのですが、同じ中学の人は別のクラスで才原さんのことは知っている、程度とのこと。


「中学の時はあんなに派手じゃなかったと思うけど……友達じゃなかったしなあ」


 その同じ中学の方は頭を掻きながらよく覚えていないと口にし、『あ、居た居た』というレベルの知名度。

 素行は悪くなかった、と考えても良さそうですかね? すると里中さんが指を立ててから眉根をひそめて誰にともなく言います。


「ということはもしかして才原さんと神崎さんは顔見知り? だから絡んでくるんですかね」

「っても今は記憶が無いんだよな?」

「ええ」


 これ以上は面白い情報を聞けそうにはありませんわね。

 結局三人のことはなにも分かりませんでしたが、逆に『隠れてなにかをしていた』ということは間違いない。

 怖い相手なのかもしれませんが大人しく付いて行くというのはわたくしには理解できませんが。

 あの三人が放課後に残っていれば話をしてみましょうか。


「あ」


 そこでわたくしはふとポケットにある『あれ』を思い出し、机の上に置く。


「あれ? それってイヤリング? つけるの?」

「片耳だけ?」

「拾ったんです。キレイだったのでつい。誰かこれが売っている場所を知りませんか?」


 あの時、廃屋の屋上で見つけた星形のイヤリングを出して彼らの反応を見てみる。

 もし、この中に犯人が居るのであればと思い折角たくさん人が集まっているのだから、炙り出しというのをやってみようかと考えましたわ。

 日記と先生の態度で学校でなにかあったというのは恐らく間違いないのですが、三人組には証拠が無い状況。

 もしかしたらあの三人以外の可能性もあり得ますしね。考えが凝り固まってしまうと真実を逃してしまうことがありますからね。


 ……表情や仕草で怪しい人間はいないでしょうか?


「男には理解できねえー。イヤリングとか邪魔だろ?」

「だからモテないんだけどさ?」

「うるせえ!?」

「どこにでも売ってそうだけど……」

「あそこかなあ、アクセサリーばっかり扱ってるとこ」


 ふむ、喧騒はあっても動揺している者はいない、か。まあ別のクラスの生徒ということもありますし。


「これ、どこかで見たことがあるんだけどどこだったかなあ……」

「あら、ご存じなのですか里中さん?」

「うん。ね、ちょっと借りてもいい? 知っている人が居ないか友達に聞いてみます」

「いえ、それは大丈夫ですわ」


 そう言って手を伸ばす里中さんがイヤリングを手に取る前にわたくしが回収しポケットへ。


「そう? ……あ、もうお昼終わりますね」

「やば!? また後で話そうね!」

「ふふ……お嬢さま喋り……新鮮……」

「美人だよな……」


 見ればお昼もあと少しに差し迫っていた。

 バラバラと席に戻っていく皆さんと里中さん。彼女が離れた時、近くの生徒をちょっとと声をかけて小声で呼び留めました。


「ん? なあに?」

「大したことではないのですが、二回花瓶がわたくしの席にあった件です。置いたのをみた人はいないのでしょうか?」

「んー、多分。……そのままにしておいたのは、ごめんね……。もしあの三人だったら目をつけられると怖いなって」

「……あの三人はわたくしより早く来ていましたが、何時くらいかわかりますか?」

「そこまでは……」


 そう答えて申し訳なさそうに手を振って席へ。

 イヤリングの持ち主が犯人ということにもなりそうですが、さて。


 魔物を倒す方が楽ですわね、と、戻ってこない三人の席を見ながらそんなことを考えるのでした。

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