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第14話 大・変・身! ですわ


 ――翌日、わたくしは学校を休んでお母様と一緒に出掛けることにしました。


 お母さまはいつも朝食を仕込んでお仕事へ出かけるのですが、わたくし達より朝が早く、いつも学校へ行く時間なら朝、顔を合わせることがありません。

 その際『お迎え』が来るようになっているようで、学校を休んだわたくしはそのお迎えに来た『くるま』に乗っているところです。


「相変わらず便利な乗り物ですわね。向こうの世界にも欲しいですわ」

「向こうの?」

「ふふ、そういう『設定』なのよ。物語が好きな子だから」

「そういうわけでは……まあ、いいですけど」


 両親はそう言ってわたくしの発言を『まねえじゃあ』という方に説明する。

 後部座席に座るわたくし達を、車の『ばっくみらー』からこちらを見てきたマネージャーの彼女と目が合うと微笑みながら言う。


「それにしても娘さん、元気そうで良かったです。あ、私は『春日 スミレ』です。お母様のマネージャーをやっています! 24歳、彼氏募集中です!」


 ウインクをしながらぺろりと舌を出す彼女はいわゆるお調子者という印象を受ける。お母様は困った顔でいつも通りだと小さく呟いた。


「自己紹介、ということは初めましてでいいみたいですわね。美子です、以後お見知りおきを」

「あ、はい、初めまして! 彼氏募集中は華麗にスルー……。それと随分と古風な話し方をされるんですね……? これも設定ってことですか?」

「それでいいですわ」


 初顔合わせということはわたくしに関しての情報は持っていませんわね。『美子』は外にもあまり出ないような子みたいでしたし、学校以外で調査をするのは難しいかしら? 

 そんなことを考えながらスミレさんに適当に返事をして場を収めると、彼女から話を振って来た。


「今日は学校、お休みなんですか? それに娘さんを事務所に連れて行くなんて初めてじゃないです?」

「そうなのよスミレちゃん! 美人のママに似ている自分もそうなりたいって言うの!」

「いえ、オシャレをしたいなと――」

「ゆくゆくはママのようなモデルになるとまで言ってくれたのよ! 私、娘と共演というのが夢だったのだけど、あなた達の言い方で言うと『キタ』わね」

「いいですね、いいですね!」


 お母様は光悦した表情でスミレさんの座っている座席をポコポコと叩いていますわね。嬉しそうに語っておりましたので、あえて止めずとも良いかと窓の外に目を移す。


 外は良い天気ですわ。

 ただ、ガラス窓に映るわたくしの姿は地味なメガネをかけた如何にも暗そうな美少女。しかし、お母様の娘だけあって良い素材をしていますわね。


 さて、今日はこの地味子を変えるためお母様の手を借りようと出てきたわけですが、わたくしは『美容院』という場所へ行く予定でした。

 しかし、昨日夕食時に復活したお母様へその話をすると、どうせ休むなら仕事場へ来た方が早いとのことでこうなりましたの。

 そもそも『もでる』というお仕事は自身の美貌を使って衣装やメイクの新作を発表したり、雑誌の『しゃしん』を撮って載せるといった体を使ったものだそうです。


 向こうの世界ですと貴族で見た目が良ければお金持ちと結婚することがほぼ確定なので自分でお仕事をするのは平民の女性だけなんですよね。

 だけどこっちの世界は女性も率先して働くことは基本だと涼太が言っておりました。

 そして美貌を持っている者しかなれないトップクラスの職業……それがモデルとのこと。ならばオシャレの最先端だと考えたわたくしは言われるままついてきたというわけですわね。


「さ、着いたわ行きましょう美子ちゃん」

「ええ」

「いやあ、そういう家庭いいですねえ。私と同じくらいに結婚して高校生の娘さんもいる……うう、彼氏……」


 しばらく進んでいると、とあるビルの駐車場という場所に自動車を止め目的地に到着したことを告げてくる。降りてからビル内へ入っていくと、飛び降りたというビルとは違い、清潔感のある明るい内部が目に入ります。


「これは美しいですわ」

「そうでしょうそうでしょう。社長はデザイナーもされていて装飾などを手掛けているんですよ」

「今日は碓氷さんが居るはずだからスミレちゃん、美子をヘアスタイルルームへ。私は社長とお話をしてくるわ。使用許可は貰っているから大丈夫」

「承りました! えっと、今日のスケジュールは九時からスタジオ入りです。京子ちゃん待ちですね」


 スミレさんがすまほを片手に確認事項を告げると、頷いてから軽い足取りでこの場を離れた。


「こっちですよ美子ちゃん」

「ありがとうございます。それにしてもお母様はもういい歳ですけどまだモデルはできるんですのね」

「そりゃあもう! 逆にあの年齢であの美貌ですよ? 熟女系のファッションを着こなせるのは貴重なんです」


 というものらしいです。

 若者がやるもの、というだけではなく年齢によってコーディネートが変わるのは分かる気がしますわね。向こうのお母さまとわたくしが着るドレスが違うのと同じだと思えば――


 ……お父様、お母様……向こうはどうなっているのでしょうか?


「――い」


 わたくしが居なくなったことになっているのか? それとも代わりに――


「おーい」

「ハッ」

「はは、随分ボーっとしていたわね」

「申し訳ありません。えっと、あなたは……?」

「私は碓氷 楓よ。あなたのお母さんからヘアメイクをして欲しいって頼まれたの。……ふうん、なるほどいいわね」

「神崎 美子ですわ。よろしく楓さん」


 向こうのことを考えてつい上の空になってしまいましたね。ヘアメイクというウスイさんと握手を交わす。

 髪の毛はメイドがやってくれましたが、こっちでは専用のスタイリストという者がいるそうですわ。興味深い。向こうで職を増やすことができるかもしれないと思っていると、肩を掴まれて椅子に座らされた。


「碓氷さんのヘアメイクを受けられるなんて羨ましいですね」

「ふふ、夢実さんの頼みだからね。それじゃどういう髪型にしようかしら?」

「そうですわね、この黒い髪は十分キレイですししっかり整えてもらえればいいかもしれません。髪型は基本をストレートでも長ければアレンジはできますし」

「そうね。腰までは要らないだろうから肩甲骨あたりまで切るわ。前髪ぱっつん……は似合わないから自然な感じで……」


 小さく呟きながら碓氷さんはわたくしになにか色々と着せていき、指で髪を掬い『わお。絹みたい』と口にする。


 そしてしばらく髪を触った後、イメージが出来たのかハサミを手に笑顔で滑らせていく。


「わお」


 今度はわたくしがそう言う番で、サクサクと切っていく碓氷さんの腕はまさにプロ。スピードがあるにも関わらず痛みを感じない。切られていることすら目を瞑ればわからないくらいですわ。


 そして――


「これは……!」


 素晴らしい!

 見事なバランスで切られた髪は鏡で見てもキレイですわ。まるで先日、涼太と見たアニメで『けんじゅう』を使う相棒キャラのような髪型になりましたわ。前髪も眉ほどの位置で自然な感じに。


「完璧ですわ」

「あれ、眼鏡が無くて見えるの?」

「ええ。これは飾りみたいなものですから。前髪と眼鏡で相手に視線を気取られないためのものでしたが、この髪型ならもう必要ないでしょう」

「よーし、次は私の番ですね! 若者向けファッションはこのスミレさんにお任せを!」

「よしなに」

「よしなに!?」


 そこから和気藹々とファッションショーが始まり、色々と着させていただきました。こちらの世界は動きやすい服装があっていいですわね。タイツとショートパンツの組み合わせはとても良かったですわ。


「まあ、美子ちゃん……! キレイになって!」

「あ、神崎さん。一緒に写真撮ってくださいよー!」

「も、もちろんよ!」

「ふふ、お母様嬉しそうですわね」

「名前の通り、夢だったからよ。はい、チーズ」


 ――そんな一幕があった後、この世界でのメイク方法を教えてもらい『すたじお』というところでお母様のお仕事を見ておりました。


 ……なぜかわたくしも『しゃしん』を撮られたのですが、なんだったのでしょう。


 そして自宅へ帰ると、涼太が驚愕の顔で開口一番叫びました。


「姉ちゃん凄い変わった……!」

「大・変・身! ……ですわ」

「そんな古い特撮の決め台詞レベルじゃないよ!?」


 ま、これで準備は整いました。明日の学校が楽しみですわね?

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