「……」
「オッケー、問題なさそうだ」
朝は目立つからという理由のせいか、相変わらず付近にマスコミの姿は無いですわね。
ただ、両親の方には待ち伏せがあったようで夜こっそりリビングで話していたことを聞きました。
正直、ゴシップというものを売りにできるようなお仕事があるというのはわたくしにとっては驚きです。
一介の女子高生の自殺未遂。それを第三者がほじくり返すという神経が疑われますもの。
『てれび』で犯罪のことを伝えているのはいいと思うのですが、なにかあって自殺まで追い込まれたのに傷口に塩を塗り込むような真似をするというのは腹が立って仕方ありませんわね。
向こうの世界でも新聞はありましたが国がどうとか政治的な話や盗賊や魔獣が増えたといったものが多かったですし、よほど有名でなければ個人の記事なんて出ませんから。
「……ま、この世界に慣れないといけませんわね」
「なに? 姉ちゃん」
「なんでもありませんわ……おや」
「ん? あの人……才原の姉ちゃんだ」
「一人で登校しているのは意外ですね」
「あ、こっち見たよ。前に見たのは小学生の時だったけど美人になってる……へへ」
涼太が愛想笑いをして才原さんに手を振ると口をへの字にして目を細めてからすぐに前を向いて歩き出しました。
「あらら、仲良かったのにね」
「それは過去の『美子』なのでわたくしには分かりませんけど。それではまた。気を付けるのですよ」
「オッケー、というか姉ちゃんこそ気を付けてよ。……どこで誰が見ているか分からないからね」
「ええ」
まだ開店していないお店の近くで登校中の風景に似つかわしくない格好の人物やカメラを持った集団にそれを乗せたと思われる大きな車、と。
注意深く見れば意外と追われている感じがありますわね。
「こちらに近づいてこなければ別に構いませんけど」
わたくしは気にした風な様子をみせず才原さんの後を追うように登校。
途中でモブ……いえ、佐藤さんと田中さんと合流するのを目にし、いつもの三人になりましたわ。
ふむ、面白くないという顔をしていますわね。
昨日の感じだと佐藤さんはクールな感じでしたが、田中さんは『ぎゃる』という人種で明るいというかうるさい感じ。
才原さん達と合いそうにない感じがするんですがあれはあれでバランスが取れているということかしら?
「おはよう神崎さん。なにを見て……って、あの三人ですか」
「おはようございます里中さん。今日は早めに家を出たので机に花瓶を置かれることはないと思いたいですね」
「あはは、そうですね! なにかあったらすぐに相談して、学級委員長の私が解決するから。……記憶をなくす前はよく話をしてくれたんだよ?」
「……そうでしたか。わかりましたその時は必ず」
「うん!」
昨日と同じく委員長の里中さんは笑いながら先に校舎へと向かっていく。里中さんが本当にそうであれば助けてくれる人がいた、ということになりますわね。
――となると。
「ますます美子が自殺をしようとしたことが不思議ですわ……」
親兄弟、教師に里中さんと相談できる人物は多かったと思う。
両親にイジメられているというのを言い出しにくいとしてもクラスで助けてくれる人がいるなら頼るべきですもの。
まあまだ二日目ですし原因を探る余地もあるのでゆっくりやっていきましょうか。
◆ ◇ ◆
「……ふう」
そんな決意をした二日目の午前中は、特に誰かに話しかけられることもなく時間が過ぎていき、お昼休みになりました。
里中さんも忙しいようで今日はお昼を誘ってこなかったため、一人でお弁当を広げるため中庭へと向かうことにしました。
あの三人も休憩中などでこちらをチラチラ見てくるのですが絡んでくることはありませんでしたね。
「なにかを感じ取ったのでしょうか? このままですと真相に近づけない気がしますし、こちらからアプローチをかける必要があるかもしれませんね」
とりあえず容疑者が場を静観するならこちらから動くべきですわ。
そして納得がいくまで調査をし、明確な『敵』がいるなら今後も同じことができないよう徹底的に潰す。
向こうの世界でもわたくしに悪意をもって近づいてきたものは確実に排除してきました。そこでついた二つ名は『凶悪令嬢』。
学院で最凶を誇ったわたくしの手で『美子』をここまでした者には報いを受けてもいませんとね。
ここにわたくしが来たのはそれを解決してほしいという美子の願いなのかもしれません。
「とはいえ、才原さん達が犯人であれば『やった』という証拠が欲しいですわね。彼女たちの態度はほぼ黒ですが証拠がなければ断罪できませんもの」
彼女たちはもう二、三日泳がせておいて今日のところは状況の確認に行きましょうか。
(見て、あの子よ……)
(ああ、自殺の。よく学校に来れるわね)
(昨日、テレビ局の人にインタビューを迫られたわ。迷惑よねえ)
(記憶が無いみたいな話だぜ)
(それ嘘らしい――)
……報道はされていましたから
「くく……」
お弁当を食べ終わって教室へ帰ろうとしたところで嫌らしい笑みを浮かべた男子生徒が足を引っかけようと、足を投げ出すのが見えたので、
「……」
「ぐあ!? な、なにしやがる!」
「なに、とは?」
「足を踏んだだろうが!」
「あら、気づきませんでしたわ。どうして椅子に座っているはずなのにわたくしが足を踏めるのでしょうか?」
「いでぇ!? わ、悪かったから足をどけてくれ!」
「よろしい。では、ごきげんよう」
背後から『なんだあいつ』『気持ち悪い』といった負け惜しみが聞こえますが気にしないでいいでしょう。
あれは悪意と言えるほどのものではありませんので犯人ではないでしょう、ちょっとした好奇心といったところですか。
そんなアクシデントがあったものの無事に放課後まで過ごすことになり、帰り支度をしているところで里中さんに話しかけられました。
「帰るの? 先生に送ってもらった方がいいんじゃない、かな」
「いえ、少し寄るところがありまして、このまま脱出させていただきますわ」
「大丈夫? ……ってどこに行くの?」
「わたくしが落ちた、という場所へ」
「え……」
「それでは、ごきげんよう」
里中さんを置いて廊下へ出ると下駄箱から校舎裏へ回り、昨日乗った
わたくしを探しに先生が移動しているであろうことを見越しての行動は功を奏したようですわ。
「さて、確か工事中の『おふぃすがい』の『びる』でしたか」
涼太と練習して使えるようになったスマホの地図あぷりを起動しながら足を廃ビルに向ける。なにか手がかりでもあると良いのですけど。