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第8話 まずは敵情視察からですわ


 「――なので、これはテストに出すからなー。きちんと板書しておけよ」

 「……」


 ふあ……退屈ですわ。

 異世界の授業は面白いかもと思ったのですが、意外とそうでもありませんでした。


 というより――


 (まだ理解ができませんわ……)


 今は国語という授業なのですが、言葉も話せて文字も書けますが、なんちゃら活用みたいなのがまるで意味不明……恐らくもう少し授業を聞いて勉強すればこの世界の馴染むことができるはず――


 「いえ、まだ帰れないと決まってませんわ!?」

 「どうしたー、神崎? 具合が悪いなら保健室へ行っていいぞー」

 「……すみません、なんでもありませんわ……ありません」

 「そうかー? 五階から落ちたんだから無理するんじゃないぞ」


 (えー、大丈夫?)

 (やっぱり頭を打ったから……)

 (情緒不安定……?)


 ……つい声を荒げてしまい注目を浴びてしまいました。


 「こら、騒ぐなー」


 教師が教科書を丸めて教団……いえ、教壇を叩くと皆さんが静かになり、また退屈な授業が始まります。そういえばわたくしが討滅した教団の方々はお元気でしょうか。


 さて、この世界で生活するため知識は必要ですが、いつ帰れるかわからないため馴染んでおいた方がいいという感情が出てきましたわね。

 ……どこか無意識で『もう帰れない』と考えているのでしょうか。


 向こうのお父様……お母様も心配しているに……


 「って、向こうはどうなっているんでしょう!?」

 「神崎、やっぱり保健室行くかー?」

 「もうし……すみません……」


 病院や家では美子の家族が居たのと困惑で、自分のことしか頭にありませんでした。

 しかし、こうやって静かな場所で考える時間があると、向こうの世界のことがどうなっているのか気になってきましたわね。


 入れ替わっていると考えるのが妥当な線でしょうが『美子』の性格であちらの学校に耐えられるとは思えませんね。

 思うことはあるけれどこちらからアプローチするのは不可能なので戻った時にどうなっているのか少々戦慄しますが一旦保留にしましょうか。


 ……向こうの世界、か。


 わたくしはいい機会かと教科書を立てて人差し指を教師に向けて唇を動かします。


 「……<ブリーズ>」


 呟いた瞬間、わたくしの指から微かな風が巻き起こり生徒たちの間をすり抜けて教師にまとわりつき――


 「おお!?」

 「な!? 先生……!!」

 「そ、そうだったんだ……」


 ――教師の髪の毛がふわりと飛んでいきました。え? あれはいったいなんですの!?


 「えー、先生ヅラだったんだ!」

 「う、うるさいぞ! ほら、授業を続けるぞー!」

 「ぷぷ……カツラかよ、もう歳なんだからあんま変わんねえよな」

 「もう外しとけよせんせー!」

 「これは最後の砦なんだよー!」

 「でも窓、開いてないのになんで飛んだのかしら」


 ……どうやら『かつら』という疑似的に髪の毛があるように見せかける異世界のマジックアイテムのようですわね。あっちの世界の叔父様にいいかもしれません。


 それはともかくどうやら向こうの世界と同じくわたくしは魔法が使えるようで、試すことが増えましたわ。

 涼太との話だとこの世界に魔法は無いらしいですが、これは中身が『わたくしレミ』であることが関係していると思っていいのでしょうか。


 他にも試してみる必要がありますけれど、目立たない魔法は風くらいなので自重しておきましょう。

 瓶底伊達眼鏡の位置を直しながら黒板に目を向けて授業の続きに戻ります。


 「……」


 ◆ ◇ ◆


 「ふう……」


 さて、午前の授業が終わりランチの時間になりました。

 美子の日記によるといつもボッチ飯とかトイレ飯みたいなことを書かれていましたが、今日のところは机でいただくとしましょうか。


 「……さすがにお寿司ということは無かったですわね」


 それでも『もでる』のお仕事が忙しいのにわざわざお弁当を用意してくれることにお母様の気遣いが感じられます。

 罪滅ぼしという側面はありますが、両親にとってそれほどまでに後悔が残る事件だったのでしょう。


 お母様は料理も美味しいので人によっては羨ましい人間だと感じます。

 そんなことを考えながら『ミニはんばあぐ』と呼ばれるお肉や小さいオムレツなどが入ったお弁当に箸という二本の棒を使っていただきます。

 この箸が一番特訓で苦労した気がしますわ。


「……」


 前髪と眼鏡で視線を悟らせずにできるのを利用して周りを見れば、パンやわたくしと同じくお弁当を食しているクラスメイトの姿が見えますわね。

 ふむ、パンも色々と種類があり興味をそそられます。


 「それにしても平民でこうしたお肉が口にできるのは凄いことですわね。……おや?」

 「あの、一緒に食べてもいいかな?」


 周囲を観察しながら食べていると、今朝わたくしに席を教えてくれた女生徒がはにかみながら可愛らしい弁当箱を見せながら声をかけてきた。


 「あ、いいですよ……。ふう、ええ、構いませんわ」

 「……? ありがとう、ここ座るね!」


 少し前の美子を演じようかと思いましたが、記憶が無いと言えば問題ないかと元のわたくしで接することに。


 さて、確か彼女の名前は――


 「里中さん、でしたよね? ごめんなさい記憶が無くてクラスメイトの名前も覚えていないんです」

 「……大変、だったよね……」

 「そのあたりの記憶が無いのでなんともいえないんですけども。……もし良かったら『前のわたくし』がどうだったか教えてもらえると助かるのですが」

 「え、っと……その」


 箸を止めて里中さんは目を泳がせて口ごもる。

 学校の様子はクラスメイトしかわからないのでクラス委員と呼ばれる彼女なら話してくれると思うのだけれど――

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