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第4話 猛特訓ですわ!


 ――神崎 美子

 八月二十二日産まれの獅子座で十六歳。

 私立銀領高校に通う高校二年生で趣味は読書。性格は大人しく、大人しすぎてそこに居るのかいないのか分からないくらいに影が薄い――


 「むう……」

 「とりあえず俺が分かる範囲のパーソナルデータはこんな感じかな? 小学生のころはもっと明るくて一緒にゲームとかしてたんだけど、最近は本当に話さなかったから細かいところまで分からないんだ」

 「ゲーム? 鬼ごっこやかくれんぼとかですの? それとも最後の一人まで戦い抜いたら勝ちというバトルロイヤルとか? あれは好きでしたわ。実力勝負でしたし」

 「んー、それはまた今度! って、最後の物騒だね……!? とりあえず姉ちゃん、眼鏡無くて平気なの」


 わたくしは夕食の『おすし』というものがくるまで涼太と会話をすることに決め、彼も承諾してくれました。

 とりあえず高校に復帰するという目的ができましたけど、わたくしレミわたくし美子のことを知らなさすぎるので、少なくとも周辺の情報は得ておくべきだと悟ったからです。

 まあ、記憶喪失という便利なカードがありますので、危ない時は容赦なく切るつもりですけれど。


 「視力はいいですわよ。眼鏡……は、ここには無いみたいですわ」

 「あー、飛び降りた時に壊しちゃったかな? でも見えているなら大丈夫そうだね、それじゃこの世界の常識から始めようか」


 涼太は笑顔で部屋を出て行ったあと、本を大量に持ってきてわたくしに教授を始めました。


 ――世界の歴史、日本という国、外国、生活のルールと常識、政治に司法、娯楽に、ご近所トラブルからごみ捨て方法まできっちりと聞き入れた結果――


 「――この『ぽてち』というじゃがいもを揚げたもの、美味しいですわね。それと『こーら』をもう一杯ください。色付きの本もあるとは……向こうとは文化レベルが本当に違いますわね」

 「レミ姉ちゃん馴染むの早すぎだよ……はい、コーラ」


 ――わたくしはこの世界がとても過ごしやすいものだと痛感しました。

 ベッドに寝転がりながら『まんが』という書物を読みながらコーラを受け取り、話を続けます。


 「ありがとう涼太。それにしても決闘が犯罪扱いとは驚きましたわ」

 「僕は決闘で物事を解決している方にカルチャーショックだけどね。あと、馴染み過ぎじゃないかな?」

 「そうでしょうか。郷に入っては郷に従えということわざがあるのでしょう」

 「確かにさっき教えたけどさ」


 涼太は苦笑しながら言葉を返してきました。

 こうなると慌てても仕方がありませんし、むしろこれほどいい環境なら考える余裕すら生まれます。


「向こうはこちらでいう中世に近い常識や生活環境ですし、領地争いや国家間戦争は五十年に一回はどこかで起こるような場所ですからね」

 「戦争はこっちでもあるけど、そっちより酷いからなあ。というか、お嬢様ってもっとおしとやかなものだと思ったけど……」


 と、涼太が首を傾げたので、『こーら』を一口飲んでから話を続けます。


 「学院の子もだいたいこんな感じですわよ。ただ、わたくしは物事をハッキリさせないと気が済まない性格なので、学院の子達からは恐れられていましたわね。つけられたあだ名は『凶悪令嬢』ですわ、笑っちゃいますわよね?」

 「はは、かなりキツイ感じだったんだ……。それにしても、レミ姉ちゃんはどうしてこっちに来たんだろう? 本当の姉ちゃんもよく分からないし」


 そこで涼太がどうしてこっちの世界にきたのか、という疑問を口にし首を傾げました。


 「最後に何をしていたのか覚えてない? 学院の人から恨まれていて実は……とか」

 「学院の人間はわたくしを畏怖しておりましたので……いや、逆恨みという線もあるのかしら? だけど――」


 わたくしはこめかみに指を当てて目を瞑りよく思い出してみることに。そしておぼろげに最後の時が浮かぶ――



 ◆ ◇ ◆


 休日の昼下がり――


 「さて、ピアノレッスン後はお茶ですわ。あらシャーロ、今日も精が出るわね」

 「あ、お嬢様! 私のような者に声をかけていただけるなんて恐縮です!」

 「ふふ、あなた達メイドが居なければこのお屋敷はこんなに綺麗ではありませんもの、よろしくお願いね」


 わたくしが声をかけたのは一年ほど前に入った若いメイドで、確か学院はおろか、学校すらも通えない貧乏な娘でしたの。

 ただそんな境遇でも明るい子で、すれているところも無かったからメイド長とお父様の面接を経て働くことができました。

 確かに性格は良かったんですけど、問題がひとつだけありまして……


 「それでは、ごきげんようお嬢様」

 「ええ、ありがとう」


 大きな壺を磨き始めたシャーロを見ながらその問題は出なかったことに安堵し後ろを通り過ぎるわたくし。


 しかしその時――


 「あ、ああ!? おっ!? よっ!? どっせーい!」

 「う……!?」

 「ああああああああ!? お嬢様! た、大変……! 旦那様! 奥様! 誰かー! お嬢様が――」


 ――思い出しました……わたくし、シャーロのドジで頭に壺を叩きつけられて意識を失ったのですわ……。

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