目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
14あんてなテスト


「やっぱり見込みがあるなぁ」

「予想を上回る受信感度アンテナの低さだ。ここまで才能がないのも珍しいと"俺"は驚嘆している」


 えっ。

 なにこの反応。

 ちなみに上記は、僕らが仲良く警察所有の特殊施設〈コラージュ〉に向かい、(豆腐のような家と高い壁と有刺鉄線といういかにも怪しげな施設である)、さっそく変な実験室に通されて、頭に変な機械を被されて、濁都、から次の僕のコメントである。ちなみに濁都は「予想計算通り」とのコメントをもらっていた。


「おい、その"受信感度アンテナ"ってなんだよ?」


 こらえきれなくなって濁都が訊ねる。僕は重い機械をちょうど脱いだところであった。

 問いには大友刑事が答えた。


「神の声を聞いたり、共振する才能だ。それを受信感度アンテナという。これが高ければ高いほど魔術的センスが高い傾向にあるな」


 ――って、だめじゃんっ!

 とセルフツッコミする僕に、大友刑事が「悪いことばかりではない、」と注釈を入れてくれる。


「どうも近頃の不審な事件は例の黒い電波塔から発信される電波のせい、……でもあると"俺"の研究により特定できた。受信感度アンテナが高ければ高いほど、その電波に影響されやすい。つまり、トチ狂いやすいということだ」


 ――ちなみに"俺"は訳あってお前と同じく受信感度アンテナが非常に低いようだ。

 とさらに続けて説明してくれる。

 そうか、大友刑事も受信感度アンテナ低いのか。そう思うと、これは個人差的なものなのか、僕が本当に劇的に才能が無いのかちょっと分からないな。後者じゃないといいけど。

 とにかく、受信感度アンテナというものは、高すぎても、低すぎてもいいというものではないらしい。といったところで、あの重たい機械を被せられていたのどかが、ショートせん勢いでプシューと測定機械を点滅させていた。大友刑事もさすがにうろたえ、昼永さんはせっかくしまっていた九本の尾をまた出現させていた。


「これは……」

「そ、測定不能……やねぇ……」


 まじかよ僕の幼馴染超主人公じゃん。

 しっぽも耳もしまい方が分からないのでしまい忘れたままぽかんとしている、未だ現状を把握できていない受信感度アンテナMAX、測定不能の幼馴染、僕の愛すべき最高の友達は、とりあえず一呼吸おいて、「おなかすいた!」と言ったのだった。(耳としっぽとしまい方は教えてもらった。)



  ■■



「まあそういうわけや。聞いての通り、ウチらが扱うんは受信感度アンテナ関連で狂った奴らのオシゴトやねぇ」

「……それは食事中にする話じゃねぇだろ」


 説明を終えた昼永さんに、文句を言いたくなったのは濁都だけではなかったろう。と思ったけれども、大友刑事とのどかは普通に食事を続けている。ガツガツと。

 場所は同じく〈コラージュ〉。食堂。

 昼永さんの話というのは、まあ今回追っている事件についての持っている情報である。どうしてあの時、あの黒い電波塔の近くにいたのか。もちろん受信感度アンテナの強いやつを捕まえるためのパトロールでもあってもいいが、今回に限っては違う。今回頻発している事件――黒い電波塔付近での誘拐・失踪事件を追っているうちに、警察の情報網から犯行は新興宗教団体通称I団であることが判明し、むごい (略)拷問を試み、現在教団のアジトを吐かせているところらしい。そして、僕らが遭遇したのは、その時間つぶし。拷問のあいまに、もう一匹かからないかと、パトロールがてら、電波塔の近くで信者を待ち構えていたところだった――とのこと。

 そこで。


「――おい」


 大友刑事が、ぎょろりと、不機嫌そうに言葉を挟んだ。


「I団じゃないだろう。正式名称で言え。正式名称で」


 どういうことだろうと昼永さんを見ると、露骨に目を泳がせている。


「え、え~?なんでなん?そんな必要ない思うけどなぁ?ええやんこれで――」

「きちんと言え、I団ではなく、い――」

「うわーっ!いややー!篤弘はんの口からその言葉聞きとうなぃーっ!!」

「"俺"は正式名称を好むようだ。I団ではなく〈逝け逝けレッツGO!団〉と」

「ぎゃぁぁあ――っ!!」


 昼永さんが椅子から転げ落ちた。食事中に下品である。

 濁都は吹き出しかけて咳払いで誤魔化し、のどかは笑いどころが分からず首を傾げていた。うん。さすがそれでこそ僕らののどかだ。


「で、その〈逝け逝けレッツGO!団〉が今回の事件の犯人で間違いないんですね?」


 僕が素知らぬ顔で話を続けて念を押すと、昼永さんが地面にうずくまって頭を抱えた。どうやらダサいネーミングに弱いらしい。

 大友刑事が答える。


「ああ。逃げ延びて警察に駆け込んだ被害者が咄嗟に爪で犯人の皮膚を引っ掻いた。そこから鑑定ができてな」

「はいはーい!」

「なんだ。"俺"は質問を許す」


 のどかが口に入れたものをやっと飲み込んで訊ねた。


「なんで鑑定でそこまで分かるの?コーアンがマークってやつ?」


 ありうる話だ、と僕は思った。さすがに情報面だと警察には叶わない。警察の公安リストに載っているデータと合致した可能性も無きしにもあらずだ。今時の警察がどこまでのデータを持っているのかは知らないが……。

 しかし濁都は深く考え込むような顔をしていた。

 それから、僕に耳打ちして、「これは叡智マインド持ちの仕業かもしれない」と可能性の話をした。

 大友刑事はその会話が聞こえていたのかいないのか、表情を変えないまま、


「今はまだ詳細について話せない、と"俺"は下している」


と淡々と告げた。

 大友刑事が腕時計を確認する。僕は携帯を確認した。朝の七時。すっかり朝食になってしまった。


「もう一時間もすればアジトの場所も出るだろうと"俺"は推測している。そうしたら出発する。仮眠をとっておけ」


 はい。はーい!おう。と、僕ら子供陣から三者三様の返事がきた。

 一応十八である僕とのどかは、無断外泊をしてもあまり目くじらは立てられない。濁都は……何歳なんだろう。まあ不良だから、無断外泊くらい今更かもしれない。

 僕らがいそいそと仮眠室に向かおうとしていると、その背に、昼永さんが声をかけた。


「せや、気ぃつけぇ。受信感度アンテナ高い子は、それだけ狂いやすくて、裏切りやすいっちゅーことや」


 僕は一瞬振り向いた。

 その一瞬、大友刑事の苦々しい顔が映った気がした。


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?