「改めて名乗らせてもらう。"俺"はこういう者だ」
再び大友刑事 (苦虫を噛み潰したような顔をしている)が警察手帳らしきものを提示したが、十年も前に見たものと中身が違っている。以前見たものはダミーだったか、月日を経て変更されたのかは知らない。とにかく、その警察手帳は、以前"巡査部長"と書いてあったはずの階級の箇所に、"
「……脅すような真似をしてすみません。大友刑事。僕は六樫木街灯です」
「まったくだ。実に不愉快だと"俺"は訴えている」
大友刑事の視線が、自己紹介を促すようにのどかたちの方へと向いた。(濁都については既に知っているようすだったが、まあ流れだろう。)のどかはまだ苦しそうにしながらも、空元気を出して名乗りをあげた。
「えっと!私、花向のどか!いつぞやはお世話になりました!」
「灰皿濁都だ。ウチの兄妹に手を出した奴らを探している」
濁都の言葉に、大友刑事は眉を顰める。
「……報復か?」
「その特捜六部ってのが何だかは知らねぇが、アンタも警察の端くれなら、俺たちの主義は理解してるだろ?」
大の大人を、ちいさな少女が挑戦的に見上げて鼻で笑う姿は中々見られないものである。
「それとも、犯人が見つかっても殺すなって言うのか?」
「――いや、それを決めるのは"俺"ではない。上が決めることだ」
――そして、現段階では、殺害命令が下されている。
と、なんとも意外に、日本的ならぬ物騒なことを言い出すではないか。
なんて――。
日本が宣戦布告をして、軍事国家になった時点で、この国があの〈
なので、僕もあまり驚かない。
ただ、警察はあくまで正義の警察なので、表面上は殺害していないと取り繕うだろう。このような危険な事件は秘密裏に処理されるのだろう。
「"俺"たちはそのために集められた警察の、政府の裏方だ。そして、上は使えるコマは使う。のどかを保護するなら、上は人材としても特捜六部で使うはずだ」
「……のどかを危険な目に遭わせるつもりなんですか?」
いえ――遭わせ続けるつもりなんですか?
僕が訊ねると、大友刑事は唇を噛んで、それから、
「"俺"だってうんざりし続けている。ああもううんざりだ。まったくうんざりだ」
と、ひどく怠そうに答えた。
その雰囲気を打ち消すように、昼永さんが口を挟む。
「だからこその妥協案やんなぁ。嬢ちゃんのことが心配なら、いっちょ男気見せて街灯くんが守ってあげればええ話やろ。な?――で、今特捜六部が追うとる事件がご名答やから、濁都くんもウチにくれば一緒に事件を追えることになるで?」
なるほど。つまり、三人なかよく一緒に特捜六部に入ることになるらしい。大友刑事の言っていた「一度に叶う」というのはこういうことだったのだろうと、僕はこのときようやく思い至った。
僕はのどかを見やる。自慢のツインテ―ルがちょっと乱れてしまったのどかは、新たに生えた狐耳をぴこぴこさせつつも、僕の出す結論を待っている。
――お前、自分で考えろよな。
ちょっと苦笑して、僕は結論を出した。
「分かりました。行きます」
「俺も行くぜ」
僕に続いて、濁都も即答した。濁都は是が非でも仇討ちをする、そんな覚悟の瞳をしていた。
僕だって選択肢なんてない。どうあがいてものどかが妖狐として変化してしまったという事実が覆せない以上、僕は彼女を守るために、傍を離れるわけにはいかないのだ。
まあ僕何もできないけど。
「……そういえば街灯、お前、特技とかあるのか?」
よりによってこのタイミングで、さっそく濁都が痛いところをついてきた。
「特にない」
沈黙。
「あ、あえて言うならっていうのはないのか?何か」
「ない」
「学校の得意科目は」
「どれも平均ちょい下」
「駄目じゃねぇか!!」
盛大なツッコミをくらってしまった。
そうなのである。僕の弱点は、突出した才能がないことなのである!
ここまで最弱の座をほしいままにしている僕が窮地を何度も経験してきてその度切り抜けてゆけているのは、まさしく運のおかげに他ならないだろう。言っていて悲しくなってきた。
だが、想像していた反応とは違い、大人両名は大して落胆もせず、僕のことをちらりと見て、問題ない、と返すのであった。ただし、大友刑事はあまり気乗りしなさそうに眉根を寄せているのに対し、昼永さんは楽観的な顔をしている。
「いざとなったら
「
――まあ、とにかく、
と、昼永さんはパチン、と手を叩いて。
「どうぞよろしゅう。ようこそ太陽の黒点、日の丸旗の下に集う同志、"特捜六部"へ」
と言った。