「
「ひぇー」
「うわぁー」
悲しいかな、僕らは下っ端Aの見回りルートに入っていたらしい。見つかってしまった僕とのどかは、いかにもここのボスらしい、ひとりの少女の前に突き出されてしまった。
少女。
長髪の黒髪と鳶色の目。
他の組員と揃いの、迷彩の特攻服。
だが、どちらかというと、服に着られてしまっている感覚が否めない。そんな幼さの残る顔立ちの、中学一年生くらいの少女。
「ほう……森の中をうろついていたって?」
少女が無邪気に微笑み、近寄って問う。が――、どうも、その桜色の唇から零れる言葉が外見と正反対にそぐわない。
ちぐはぐだ。
狂っている。
声変わりした、深く低い、男性の声なのである。
ポカンとしている僕とのどかに、ご丁寧にもそれを察したか、少女は自己紹介を述べてくれた。
「これは失礼したな。俺は
僕は慌てて頭を下げた。
「あっ、六樫木街灯です」
のどかもそれを真似て倣う。
「あ、花向のどかです」
街灯にのどかか、そうかそうか――と、濁都は柔和に笑い、それから、突然凍てつかんばかりの笑みに変えて、
「――それで、あそこで何をしていた?」
と、僕たちに訊ねた。
沈黙が流れる。
……マズイ。
どうこの状況を打破すべきか……。僕の頭はそれでいっぱいいっぱいだった。
現在両手首と両足をロープで拘束され、膝をつかせられている。見張りはすぐ傍に二人。だめだ、走って振り切れる自信は無い。よりによって、よりによってな人たちに目を付けられてしまった。どうにかしなければ、どうにか考えて、考えて、この状況を――
「――遊びにきたの!」
「……は?」
突然ののどかの言葉に、濁都の顔から微笑が消える。驚きというか、素っ頓狂、という表情になる。
のどかはなおも繰り返す。
「だから、黒い電波塔に遊びにきたの!我ら黒い電波塔クラブ!!」
■■
「あーっはっはっはっはっはっはっ!!ひーっ!!ひひひっ!電波塔クラブって……あはははははっ!」
「もー!そんなに笑わないでよ濁都くん!ひどいよー!」
あれから。
しばらく……少なくとも数分は笑い転げた濁都をむくれた顔で見るのどかに、なるほどなるほど、と何事か納得したようすで濁都は数回頷いた。
「よし、お前ら――とりあえず拘束は解いてやっていい。こいつらは電波塔について何も知らないみたいだからな」
…………?
その言い方に、僕は突っかかる。
まるで、それじゃあ、この黒い電波塔に秘密でも隠されているみたいじゃあないか。
そう思うと、確かに納得がいく。徘徊する〈楽器を叩き壊す白兵隊〉のメンバーは、何かを監視しているようでもあった。
間違いなく、黒い電波塔は何か重要な役割を果たしている。
だが、ここでそれに首を突っ込むのはナンセンスだ――あまりにも無謀すぎる。
今日は暑いし、さっさと帰ってクーラーのきいた部屋でアイスでも食べよう。それが利口だ。
「いいか、ここは今日から俺らのシマだ。嬢ちゃんたちは帰んな」
「えええええっ!?……の、のっとりかぁ……秘密基地の手入れをしておかなかった私たちが悪いね。帰ろう。街灯くん……」
素直に下がるのどかであったが、あ!とぴょこんと二本のおさげを揺らして、軽くジャンプし提案する。
「そうだ!白地図!ノートなかった?ノートだけ返して!」
「……あ?お前……」
「あれは大事なものなんだよ!私たち黒い電波塔クラブで作ったの!だから記念に持って帰りたいなって……ダメ?」
確かに、白地図は十年前、なんだかんだで置き忘れてしまったのだったか。僕なりに凝った設定を編み出した力作だったから、失われるのは惜しい。
僕も青春の思い出として是非持って帰りたい所存だったが、突如雰囲気を変えた濁都に、僕からの出かかった説得の声は引っ込んでしまう。
「白地図はお前たちが作ったのか?」
「そうだよ!」
のどかが元気に答えてしまう。うわっ。そこは嘘をつくべきところかも。素直にならなくていいところかも!
「お、お邪魔しました。じゃあ僕らはこれで……ッ!」
僕は慌ててのどかを引っ張り席を立とうとする。
どごんっ。
目の前に壁ができた。
背後を振り返ると、少女がにっこりとして、自分の体躯の五、六倍はあろうかという地面を抉り抜いて岩にして持ち上げ、佇んでいた。
僕は瞬間的に、目の前のそれが、投げられた岩だと直感した。
「悪ぃ、帰らせるわけにいかなくなった」
今日はとてもついてない日だと思った。