例の犬との激戦後、同日夜。どこかにて。
手首を持ってだるそうに歩く男の前に、突如として、ビル群の上から降るように、ひとりの男性が下りてきた。
さらさらと揺れる白髪。にやにや笑いの赤目。時代錯誤の和装を纏った男。
男には、右手首が無かった。
「篤弘はん、えろうすんまへんなあ。こないなとこまで遠出させてしもて」
大友は眉を顰めると、持っていた手首を男の方へと無言で放り投げた。
「おっとと、乱暴やなぁ」
男はオットセイがやるように、首の角度を調節して、大口でバクンとその手首を飲み込んでしまう。
それとともに、男の無かったはずの右手首から、ずるりと手首が生えだしてきて、ものの数秒で、それはかたちを整えてしまった。ぐっぱっと確かめるように男は動かして、うんうんと満足そうに頷く。
「今後は、気をつけろ」
怒り心頭といった様子で大友が吐き捨てる。男はむくれる。
「んなもん無理やて。あいつらいきなし
「だからそのトラップに気をつけろと"俺"は忠告している」
「はいはーい……ん?」
ふと、携帯が鳴ったのをみて、男は和装の懐から、似合わない携帯機を取りだして、耳に当てる。
「はいはいー、昼永ですー、……はい?」
短い通話を終えてすぐに大友へ向き直り、男――昼永はちょっと真剣というか、ばつの悪そうな顔になった。
「篤弘はん、悪いニュースですわぁ」
「なんだ」
「〈
大友は目を見開いたあと――ワナワナと震え、くわえていた煙草に火を点け損なった。昼永はそれをちょっとくすくす笑って、それでも不快そうに眉を顰めて、吐き捨てるように言う。
「科学者てのは因果なもんやなぁ――……。まあ諦めまひょ。ウチらはウチらでやること山積みやろしなぁ。これもお国の決定ですわ。なるようにしかならん。あんさんのせいで変わるんは――」
「