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06閑話


 例の犬との激戦後、同日夜。どこかにて。

 手首を持ってだるそうに歩く男の前に、突如として、ビル群の上から降るように、ひとりの男性が下りてきた。

 さらさらと揺れる白髪。にやにや笑いの赤目。時代錯誤の和装を纏った男。

 男には、右手首が無かった。


「篤弘はん、えろうすんまへんなあ。こないなとこまで遠出させてしもて」

 大友は眉を顰めると、持っていた手首を男の方へと無言で放り投げた。

「おっとと、乱暴やなぁ」


 男はオットセイがやるように、首の角度を調節して、大口でバクンとその手首を飲み込んでしまう。

 それとともに、男の無かったはずの右手首から、ずるりと手首が生えだしてきて、ものの数秒で、それはかたちを整えてしまった。ぐっぱっと確かめるように男は動かして、うんうんと満足そうに頷く。


「今後は、気をつけろ」


 怒り心頭といった様子で大友が吐き捨てる。男はむくれる。


「んなもん無理やて。あいつらいきなし?反則やろそれ。そのうえ野犬に手首盗まれるんなんて、ついてへんわぁ」

「だからそのトラップに気をつけろと"俺"は忠告している」

「はいはーい……ん?」


 ふと、携帯が鳴ったのをみて、男は和装の懐から、似合わない携帯機を取りだして、耳に当てる。


「はいはいー、昼永ですー、……はい?」


 短い通話を終えてすぐに大友へ向き直り、男――昼永はちょっと真剣というか、ばつの悪そうな顔になった。


「篤弘はん、悪いニュースですわぁ」

「なんだ」

「〈化学式かがくしき〉が12月に公式発表されるらしいわ」


 大友は目を見開いたあと――ワナワナと震え、くわえていた煙草に火を点け損なった。昼永はそれをちょっとくすくす笑って、それでも不快そうに眉を顰めて、吐き捨てるように言う。


「科学者てのは因果なもんやなぁ――……。まあ諦めまひょ。ウチらはウチらでやること山積みやろしなぁ。これもお国の決定ですわ。なるようにしかならん。あんさんのせいで変わるんは――」



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