どうして僕が首吊り死体探しなんかに興味を引かれたかというと、いくらくたびれているからといって僕だって子供だし、ちょうど先週やっていた映画だったかで、線路を歩いて死体を探しに行くという子供のロードムービーを見たせいでもあった。要するにちょっとした憧れとごっこ遊びである。死体が見つかるなんてほんとは思ってもない。 (彼女は本気で思っているかもしれないが……。) 遊べて、それなりに楽しめて、時間が潰せればいい。それが僕の人生哲学だ。ちなみにテツガクという学問を僕はよく理解できていない。大人に訊いたら、大人もよくわからないらしい。不思議な学問である。
「やっぱりあるとしたら森のほう?」
カバンを置き、集合したあとで、のどかが訊ねる。ランドセルの代わりに、お気に入りのウサギのぬいぐるみリュックを背負っている。
「だと思う。あの辺りなら、人気も少ないし」
「じゃあ、森で探そう!行こ!」
のどかはリュックを背負いなおし、ぴょんと元気に歩きだした。僕はツインテールが振り子のように揺れるのをぐらぐら眺めながら、その後に続いて歩く。学校から目的の森までは徒歩十分ほどである。
森。
名前なんて知らない、みんなが「森」といっているだけの森で、実際は林だ。個人のこまごまとした田畑が点在する小道に入って行って、そのまま行くと入ることができる。当然傾斜もなく、遭難の危険もない。ちゃんとした道はないが、しっかりとした獣道が通っていて、怪我をすることもなく、安全に向こう側へ通り抜けができる。ちなみに、反対側は隣町で、ちょっと歩けばすぐに駅前だ。案外都市が近いのである。
「街灯くん!信号信号!」
「そうだね、待とうね」
どうでもいいことではしゃぐ友人を落ち着かせ、僕らは横並びになる。足元に黄色の点字ブロックが見える。僕はなにげなく、わかりやすい友人に、いつも通り、わかりやすい答えを求めた。
「ねえ、どうして人間って生きなくちゃいけないんだと思う?」
「死ぬからー!」
うーん、シンプル。
宗教レベルで解釈が分かれて論争になるぞこれは。
「どうしてそう思った?」
「生きるのってはぴはぴじゃん?」
「うーん……まあおおむねそう捉えられるね、それで?」
「だとしたら、死ぬのがくるのリフジンじゃんっ!」
「前提条件ではそうなるね」
信号が青になる。同時、のどかの淡い色の瞳の中で、赤色に反射していた光が、青色に変化した。
僕たちは歩きながらに話す。
「私、神様っていると思う!だから、ゼッタイこれには理由がある!」
信号の向こう岸について、くるっとターンをして決めポーズをするのどか。
「つまり、死ぬのって、そもそもすっごいはぴはぴなことだったんじゃね?!」
…………。
………………。
いや、いやいやいやいやいや!!
「え?!今のって、死ぬのは生きるための期限決めがどうの、生の価値を上げるためのどうのって流れじゃなかったの?!」
「その手があったか!」
「適当に答えるなよ!」
「適当に答えてほしかったんじゃなかったの?!」
この野郎!!
まあ、その通り、僕が想定した、またはできるような凡庸なパターンの答えなんて元から期待してないし、僕が期待していたのは、アホらしい適当な考えなしのシンプルさだったんだけどさ。
もう。
といったところで、僕らは森に辿り着いた。