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02赤青問答


 どうして僕が首吊り死体探しなんかに興味を引かれたかというと、いくらくたびれているからといって僕だって子供だし、ちょうど先週やっていた映画だったかで、線路を歩いて死体を探しに行くという子供のロードムービーを見たせいでもあった。要するにちょっとした憧れとごっこ遊びである。死体が見つかるなんてほんとは思ってもない。 (彼女は本気で思っているかもしれないが……。) 遊べて、それなりに楽しめて、時間が潰せればいい。それが僕の人生哲学だ。ちなみにテツガクという学問を僕はよく理解できていない。大人に訊いたら、大人もよくわからないらしい。不思議な学問である。


「やっぱりあるとしたら森のほう?」


 カバンを置き、集合したあとで、のどかが訊ねる。ランドセルの代わりに、お気に入りのウサギのぬいぐるみリュックを背負っている。


「だと思う。あの辺りなら、人気も少ないし」

「じゃあ、森で探そう!行こ!」


 のどかはリュックを背負いなおし、ぴょんと元気に歩きだした。僕はツインテールが振り子のように揺れるのをぐらぐら眺めながら、その後に続いて歩く。学校から目的の森までは徒歩十分ほどである。

 森。

 名前なんて知らない、みんなが「森」といっているだけの森で、実際は林だ。個人のこまごまとした田畑が点在する小道に入って行って、そのまま行くと入ることができる。当然傾斜もなく、遭難の危険もない。ちゃんとした道はないが、しっかりとした獣道が通っていて、怪我をすることもなく、安全に向こう側へ通り抜けができる。ちなみに、反対側は隣町で、ちょっと歩けばすぐに駅前だ。案外都市が近いのである。


「街灯くん!信号信号!」

「そうだね、待とうね」


 どうでもいいことではしゃぐ友人を落ち着かせ、僕らは横並びになる。足元に黄色の点字ブロックが見える。僕はなにげなく、わかりやすい友人に、いつも通り、わかりやすい答えを求めた。


「ねえ、どうして人間って生きなくちゃいけないんだと思う?」

「死ぬからー!」


 うーん、シンプル。

 宗教レベルで解釈が分かれて論争になるぞこれは。


「どうしてそう思った?」

「生きるのってはぴはぴじゃん?」

「うーん……まあおおむねそう捉えられるね、それで?」

「だとしたら、死ぬのがくるのリフジンじゃんっ!」

「前提条件ではそうなるね」


 信号が青になる。同時、のどかの淡い色の瞳の中で、赤色に反射していた光が、青色に変化した。

 僕たちは歩きながらに話す。


「私、神様っていると思う!だから、ゼッタイこれには理由がある!」


 信号の向こう岸について、くるっとターンをして決めポーズをするのどか。


「つまり、死ぬのって、そもそもすっごいはぴはぴなことだったんじゃね?!」


 …………。

 ………………。

 いや、いやいやいやいやいや!!


「え?!今のって、死ぬのは生きるための期限決めがどうの、生の価値を上げるためのどうのって流れじゃなかったの?!」

「その手があったか!」

「適当に答えるなよ!」

「適当に答えてほしかったんじゃなかったの?!」


 この野郎!!

 まあ、その通り、僕が想定した、またはできるような凡庸なパターンの答えなんて元から期待してないし、僕が期待していたのは、アホらしい適当な考えなしのシンプルさだったんだけどさ。

 もう。

 といったところで、僕らは森に辿り着いた。


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