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01帰りの会から


 ――なぜ人間は生きなければならないのか?


 小学二年生にして僕が考えることといえばそんなカワイクもない思春期じみた早熟なことで、というのも、僕、六樫木ろくかしぎ街灯がいとうが生まれし生家は先祖代々葬儀を取り仕切るいわゆる「葬儀屋」というやつで、大人が気をもんでくれていても死に接する機会というものが他の家より数倍以上にも多いものだから、こうして僕は8歳児にして人生にくたびれ果ててしまっているのである。そうはいっても生来に考えすぎなきらいがあるらしい。母親にも、あなた、ちょっとそれは考えすぎよ、とよく言われることが多い。しかし、お前、よく考えろ、というのと、お前、考えるな!というのは、だいぶ違うし、だいぶ無理があるのではなかろうか?少なくとも僕はそう思うのだが。


街灯がいとうくん!」

「う、うわー」


 前々から視界の端で脅かそうと構えているのが丸見えだったので、それでも律義にかたちだけ驚いてあげると、満足げに目の前に出現した少女は笑って、まいったか!とばかりに腰に手をあてた。

 前略していたが、ここは僕が通う小学校の教室。今は夕刻で、帰りの会の始まりを待っているところである。

 そして、不躾にも僕を脅かしてきたこの少女は、花向はなむけのどか。髪をツインテールにし、狂気的に酔いが回りそうな砂糖菓子という例えがふさわしい、いわゆる「ゆめかわいい」なパステルカラーに統一された服を着ている、かなり悪目立ちの女の子である。


「放課後、首吊り死体を見に行こう!」

「……首吊り死体?え、待って?何、あったの、自殺が?」


 そんな噂はまるでなかった。いや、確かに僕はクラスから浮きがちな存在であるのは認めるけれども、それでも多少は馴染む努力もしているし話せる友達も少なからずいるわけで、いやまあいちばん話してるのがクラス一変人のコイツというていたらくだけども、それでもそんな一大イベントがあれば僕の耳にも入るはずだ。校庭に犬が入ったぐらいで大騒ぎだ。警報機が鳴ったら祭りだ。


「ない!!」


 のどかは胸を張って否定する。

 ――がくっ。

 思いっきりずっこけてしまった。


「……え?待って?整理するよ。じゃあなんで、ありもしない首吊り死体を……エット、君は、見に行くわけ?」

「だから、首吊り死体を探しに行くんだよ!!」

「…………。」


 うーん。よけいにこんがらがったぞ。


「のどか。頭から順番に起きたことを話して」

「うん!朝にニュースがあった!」

「うんうん」

「首をつって死んだ男の人がいたってニュースをしてた!」

「なるほどね、次」

「給食はシチュー!」

「関係ないね、次」

「さっき六年生が階段で、首吊り死体は首が伸びてオモシロイって話題にしてた!」

「うん、僕も聞いたことある」

「見てみたいから森に探しに行こう!」


 なるほど、ものの見事に整理されてしまったぞ。

 ここまでシンプルに物事を考えてくれる子だと本当に分かりやすいな!ちくしょう!

 つまり今朝に首吊り自殺のニュースが流れて、六年生がそれをネタに恐怖話をして、コイツが好奇心につられたというところだろう。点と点が無意味に線になってしまった。


「じゃ、カバン置いたら正門前ね!」

「あ、おい……」


 と言いつつ。

 なんだかんだ、けっこう行くのに乗り気であるところが、僕も変人たる所以なのである。


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