ジュシンジュシン。
ソウシンソウシン。
ひとつだけ言い残しておくことがある。この電波塔について。
この、中途半端な森に佇む電波塔が何を思って黒く塗られたのかとか、僕らの「白地図」についてとか、まあ言いたいことはいろいろあるけれど、それでもどうしても何をおいても伝えておくべきなのは、この危うげな塔がどうして僕を最後の存在に選んだのかっていうことなんだ。
これはとても重要なことだと思うんだ。
君は僕に考えろと言った。だから、あれから、僕は考えることにずっと熱中している。君が死んでから躍起になった。妹を喪ってからは蒙昧しかけた。すべてをうしなってようやく平静に戻れた。でも分からない。がっかりしないでほしい、わかりかけてはいる。僕を舐めないでほしい。君が期待してくれた僕を舐めないでくれ。僕は頑張った。おそらくここが最果てになってしまったけれど、僕は頑張った。何も得られなかったし、何も救えなかったし、何もできなかった旅だったけれど。それでも、何かは変わった気がする。それが世界なのか、僕なのかは分からない。分からないが、変わったのだ。確かに変わったのだ。
うん、確信したよ。変わった。
何か、変わったよ。
だから、満足だろ?
――疑問がひっくり返って一巡してしまうけれど、電波塔が僕を最後に選んだ理由が、ようやくいま理解できた気がするよ。たぶん。この言葉。この言葉を僕に、僕から君に伝えさせるためだけにとっておいたんだと思う。だとしたら相当な意地悪だけど、でも僕はその意地悪に感謝する。
誰かが誰かのために最後に伝えるたったひとつの言葉はこれなのだ。
君に出会えてよかった。