「(くそっ!どうする、何かないか!?)」
明瑠は、冷や汗をかきながら必死に考えを巡らせていた。周囲は崩れた瓦礫と火災が広がり、まるでこの世界そのものが終わりを告げようとしているかのように見える。それでも、諦めるわけにはいかない――心の奥底からその想いが渦巻いていた。
しかし、無情にも時間は迫ってくる。目の前には強大な敵、そして身を守るための手段が何もないという現実が明瑠の心を締め付ける。焦燥感が胸に広がり、息が詰まる感覚に襲われる。
「強いアビリティだったらよかったんですかねぇ? いやここは魔素が極端に少ないですし……あぁ、でもリベレイターなら……」
メストは明瑠や杏の存在を無視するかのように、一人でぶつぶつと呟きながら考え込んでいた。そして彼の思考が途切れたかのように、次の行動に移った。
「まぁいいです、とりあえず、あなたもういらないんで死んでください」
「きゃあ!!」
メストは片手でリベレイターを軽々と持ち上げ、何の躊躇もなく明瑠たちの方に向かって投げ飛ばした。リベレイターの巨大な体が杏の背後に激しく衝突し、ズシンという音を立てながら地面に倒れ込む。その衝撃で杏は倒れそうになるが、必死に耐えた。そしてその瞬間、怪物は無数の光球に分かれ、静かに消えていった。
メストは冷酷な微笑を浮かべながら、ゆっくりと二人の方へと歩み寄る。その足音は、二人の鼓動と共鳴し、恐怖がじわじわと彼らを侵食していく。明瑠は冷静を装おうとしたが、身体が硬直し、恐怖が彼を押しつぶしそうだった。
「さて、お二人には光輝さんを治療していただいて感謝しています。ですので、特別に提案しましょう――光輝さんを私に差し出せば、あなたたちを傷つけないと約束します」
メストの言葉は、表面上は丁寧で友好的だった。しかし、その背後に潜む冷酷な本性は明らかで、彼の微笑みは二人をさらに追い詰めた。彼は楽しんでいる――二人が葛藤し、苦悩する姿をじっくりと味わおうとしているのだ。
「明瑠……」
杏は泣きそうな表情で、ほとんど声にならない声で呟いた。心の中で彼女は既に光輝を差し出す以外に生き延びる道はないと悟っていた。しかし明瑠は震える足でメストの前に立ちはだかった。
「ンフフフ、おや、抵抗するつもりですか?それは興味深い。では特別に、あなたが先に好きなだけ攻撃しても構いませんよ」
メストは大の字に手を広げ、好きに攻撃してこいという態度をとった。明瑠はその挑発に乗り、拳を握りしめて突進した。
「うわぁぁぁぁ! くそくそくそ!!」
明瑠は何度もメストに殴りかかり、蹴りを放った。しかしその攻撃はまるで通じず、メストは余裕の表情を崩さずに、まるで子供のお遊びを眺めるかのように対応した。
「明瑠! もうやめて! 無理だよ!」
杏が悲痛な声で叫んだが、明瑠は諦めることなく攻撃を続けた。しかし、メストには全くダメージを与えることができず、むしろ彼の余裕が増すばかりだった。
「ンフフフ、ギブアップですか? では――」
「やめて!」
杏が叫んだ。メストの声を遮るように、彼女は強く叫んだ。
「光輝さんを渡すので……お願いです、やめてください……」
「杏!」
明瑠は驚いた表情で杏を見たが、彼女の顔には絶望の色が浮かんでいた。
「ンフフフフ、残念です、その申し出を受けるには期限が切れてしまいました」
「そんな……」
メストは哀れみすら感じない冷淡な声でそう言い放った。杏は光輝を差し出しても、自分たちが救われないことに絶望し、涙を流しながらその場に崩れ落ちた。
明瑠はそれでも諦めず、再びメストの前に立ちはだかった。メストは不愉快そうに眉をひそめ、彼を冷たく見つめた。
「あなた、なかなか心が強いんですねぇ……だんだんイライラしてきましたよ」
「ぐあっ!!」
メストは明瑠を軽く蹴り飛ばし、彼は後ろに倒れ込み、杏を巻き込んでしまった。
「ご、ごめん……杏……俺が無理にでも光輝さんを助けようなんて言わなければ……」
「いいの……明瑠は正しいことをしたよ」
明瑠が力なく謝ると、杏は涙を浮かべながらも優しく答えた。
「ンフフフ、いやぁ、素晴らしいですねぇ、それが愛というものですか? ですが……流石にそろそろ飽きました、せっかくだからあなた達の魂を頂戴させて頂きましょう、多少魔力を消費しますが、さっきの無能リベレイターの魔力もありますし……ん?」
そこでメストは自分が殺したリベレイターの魔力の光球が無くなっている事に気づいた。
「(奴の魔力が見当たらない、まだ霧散するほど時間は経っていないはず……)」
「(もう、だめだ……でも、何か……何かできないか……)」
その時、明瑠の頭にどこからともなくある言葉が浮かび上がる。そして何かが体に流れ込んでくる感覚があった。
「あれ……暖かい……」
杏も同じように、不思議な力が体に満ちてくるのを感じた。
「なんだ? これは……魂はやめてさっさと殺すことにします、楽しかったですよ、さようなら」
メストは異変に気づき、すぐに二人を殺そうとした。
軽く指を振り、魔力により鋭い斬撃を作り出し、二人に向かって放った。その斬撃が二人に近づく中、空気がピリピリと張り詰め死の気配が漂い、杏は強く目を閉じた。しかし、その時、明瑠は大声で叫んだ。
「魔装ハクラファ!!」
その叫び声と共に、突然、周囲の空気が一変した。何か巨大な力が解き放たれたように、激しい風が巻き起こり、まるで嵐がその場を襲ったかのようだった。斬撃が明瑠に直撃する瞬間、突如として禍々しい鎧が現れ、明瑠の体を包み込んだ。
「……!」
メストの目が一瞬驚きで見開かれた。斬撃は明瑠に当たるも、その鎧に弾かれ、消し飛んだ。
土煙が舞い上がり、メストは苛立った声を上げる。
「なんですかそれは、全く面白くない展開ですね」
土煙の中からゆっくりと姿を現した明瑠は、以前とはまるで違う圧倒的な存在感を放っていた。禍々しい鎧が彼の体にしっかりと装着され、目には炎のような決意が宿っていた。