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夏目 晴斗11話その6 勉強 つかれた……

「あ、じゃ私もいいですか?」


姫凪乃が手を挙げ、質問のタイミングを伺っている。


「あぁ、勿論だ!」


三神が快く応じると、姫凪乃は少し笑みを浮かべながら話し始めた。


「あの、前から思ってたんですけど、魔素なんて名前、誰が付けたんですか? なんか明らかに漫画やアニメに出てくるやつっぽいですよね?」


姫凪乃の質問に、晴斗も「確かに」と思わず同意した。三神があっさりと「魔素」という言葉を使って説明をしていたため、今まで特に疑問に感じていなかったが、言われてみれば、名前自体が現実の科学とは程遠い、ファンタジー的な響きがあることに気付かされる。


「うむ、では姫凪乃君の質問から答えようか」


三神は顎に手を当て、少し考え込む様子を見せた。


「魔素という名前の由来、そしてその発見者……それについては、実は誰も知らない!」


「え?」 「は?」


思わぬ答えに、姫凪乃も晴斗も同時に驚きの声を上げた。科学的に扱われているにもかかわらず、その名前の由来が分からないとは、意外すぎる情報だ。


「え、えっと……分からない、ってどういうことですか?」


姫凪乃が戸惑いながら質問を続ける。まさか科学の最前線で活躍しているはずの三神がそんなことを言うとは思わなかった。


「そんなこと、あるんですか?」


晴斗も同じく疑問を抱きつつ、声を絞り出す。


「はっはっは! 驚いているね! そりゃそうだ! 誰も知らないからね。私が知る限り、この研究に携わる者でその由来を知る者はいない!」


「え、えーと……でも、なんで国がそれを使ってるんですか?」


さらに姫凪乃が困惑した表情で質問を重ねる。魔素の命名者が不明であれば、それを政府や機関が当然のように使用することに違和感があるのは当然だ。


「そもそも、この研究は国が主導して行っている。だからきっと、彼らがその答えを知っているはずさ。もしかしたら知られると都合が悪いのかもね!! あっはっはっはっは!!!」


「……俺ヤバいことに巻き込まれてます?」


晴斗がやや怯えた表情で三神を見つめた。彼は急に自分が恐ろしい陰謀に巻き込まれたような気がしてきた。


「あっはっは! 心配することはないさ。国主導というだけで、ただ秘密が多いってだけの話だ。戦闘の研究だけじゃない、環境やエネルギー、社会全体を豊かにするための研究もしているから安心してくれ!」


三神は豪快に笑い飛ばし、晴斗と姫凪乃の不安を取り除こうとするが、二人はまだ少し疑念を抱いているようだ。


「まぁまぁ、細かいことを気にしても仕方がない。次の話に移ろう! 魔素とはそもそも何なのか、だったね」


「はい、お願いします」


晴斗はその答えを期待しながら再び集中し直した。




「魔素とはそもそも何なのか、だったね」


三神は急に声を張り上げ、改めて二人の注目を集める。晴斗はその答えを期待し、身を乗り出して聞く姿勢を取ったが、既に頭がいっぱいの状態だ。一方、姫凪乃は冷静に腕を組み、三神の言葉を待っている。


「魔素というのは、一種の量子情報媒体だと考えられている」


「りょ、りょうし……え?」


晴斗がまたもや難解な単語に戸惑う。「量子」などという言葉は普段の生活には全く関係ないため、彼の理解が追いつかないのも無理はない。


「ふふ、ちゃんと聞かないと置いてかれるわよ」


姫凪乃は得意げに微笑みながら晴斗をからかう。


「量子情報媒体、つまり、この中には過去、地球が生まれてからのあらゆる現象が、まるでデータとして記録されているんだ。あるいは、それ以前からかもしれない」


「過去の現象……データ?」


「そう、信じられないだろうが、この魔素にはあらゆる情報が保存されていると考えられている。それがどのような原理か、完全には解明されていないがね」


「つまり、アビリティを使う人はその魔素にアクセスして、過去の現象やエネルギーの動きなんかを再現できるってことですよね?」


姫凪乃は当たり前のように補足を加える、晴斗はその説明を理解しようと必死に思考を巡らせた。何となくSF映画やファンタジーの世界での話のように感じるが、ここで行われている研究は現実だ。だからこそ、理解したいという意欲が強まっていた。


「その通り! アビリティ保持者は、魔素に保存された情報を解読し、それを過去の現象のホログラフィック記録を元に現実に再現する力を持っている。それは過去のエネルギーの動きや、物理現象を含んでいるかもしれない」


「ほ、ほろ……グラフィック……え?」


晴斗の頭の中は既に混乱している。三神が話す内容が難解すぎて、次々と浮かび上がる言葉に困惑していた。


「ふふ、私が優しく教えてあげようか?」


姫凪乃が再び意地悪な笑みを浮かべてからかう、晴斗はその魅力的な申し出に一瞬傾きかけたが、その誘惑に耐え「いや、自分で……!」と自分を奮い立たせた。


「よし、もう少し分かりやすく説明しよう!」


三神は彼を励ますように言い、さらに具体的な例えを使って説明を始める。


「魔素は、過去の出来事や現象を記録している媒体だと考えてくれ。そしてポテンティス1を持つ者のスイッチがオンになると、この魔素の情報を読み取り、それを基にして何らかの力を再現するんだ」


「えっと、つまり……魔素がHDDみたいなもので、その中にいろんなデータが入ってるってことですよね? それを特定の遺伝子、ポテンティス1とかが、アクセスのためのパスワードみたいな感じで使われる……ってこと?」


晴斗は自分なりに理解し、HDD(ハードディスク)という身近な例えに変換して話を続けた。


「おぉ、素晴らしい理解力だ! その通りだよ、晴斗君!」


「晴斗のくせに、よく理解できたじゃない」


姫凪乃が少し驚いた表情でからかうように言うが、晴斗は照れながらも、こんなに褒められることが滅多にないため、少し嬉しそうに微笑んでいた。

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