「では晴斗君! 君はアビリティとは何だと思う?」
三神が晴斗に問いかけると、晴斗は一瞬戸惑いながらも、自分なりに答えを探し出そうとした。
「え? えっと……超能力? とか……ですか? でも、それじゃ答えになってないですよね……」
「いやいや、それで十分だよ! 一般的に“超能力”とされるようなアビリティも存在するからね。決して間違いではないさ!」
三神はにっこりと笑いながら、次の言葉を続けた。
「ただし、超能力とアビリティの決定的な違いは、科学的な根拠、つまりエビデンスが存在するかどうかだよ!」
「科学的根拠……? じゃあ、もう仕組みが完全にわかってるんですか?」
晴斗の目が輝き、前のめりになる。科学的な理論に基づいた力という言葉は、彼の中で新たな好奇心を刺激した。
「完全に解明されている、というわけではないが、かなりの部分が解明されているんだ。とはいえ、科学の世界というのは日々進化していてね、今日の常識が明日には覆されることなんてよくある話だ!」
「では、詳しく話していこうか!」
「頑張ってついていきなさいよ」
姫凪乃はイタズラっぽく微笑みながら、からかうように言った。
「が、頑張るよ……!」
晴斗は気合を入れて聞く態勢を整えた。
「では、アビリティがどのように目覚めるか、そのメカニズムから話をしよう。まず、アビリティの発現には“遺伝子”が深く関わっているんだ」
「遺伝子……ですか」
「そうだ。晴斗君は“エピジェネティクス”という言葉を聞いたことがあるかい?」
「いや、初めて聞きました……」
「ほら、もう混乱してる」
「まだ……! 大丈夫だよ……たぶん……」
姫凪乃が小声で笑いながら囁く。姫凪乃の茶化しに、晴斗は少し照れ笑いを浮かべながらも、頭を振って集中し直す。
「遺伝子には無数のスイッチがあって、生まれるときにそれがランダムにオン・オフされるんだ。エピジェネティクスとは、そのスイッチのオンオフに影響を与える仕組みのことを指しているんだよ」
「へぇ……なるほど……」
晴斗は頷きながら聞いているが、まだ完全には理解できていない様子だった。
「そして、そのスイッチは生活習慣や環境など、後天的な要因でもオンにすることができる。これが“エピジェネティックな変化”と呼ばれているんだ。」
「……な、なるほど……」
「ふふ、ホントに分かってる?」
「な、なんとなくね!」
姫凪乃がニヤリと笑い、晴斗をからかい続けるが、晴斗は負けじと真剣な顔を保っていた。
「そして、これが医療の分野でも応用されているんだ。エピジェネティックな変化を利用して、特定のガン遺伝子をオフにして治療する薬も開発されているよ」
「へー、すごいですね!」
晴斗は感嘆の声を上げ、三神の話に引き込まれていった。
「えっと、つまりアビリティの遺伝子がオンになれば……その力が使えるってことなんですか?」
「そうだ! その通りだ、晴斗君! さすがだね!!」
晴斗は褒められて少し照れくさそうに笑い、姫凪乃はその様子を見ていたずらっぽく微笑む。
「ただし、注意しないといけないのは、アビリティの遺伝子が元々存在していないと、どんなに環境や状況が整っても目覚めることはないんだ」
「てことは、どんなに練習や訓練をしても、その遺伝子を持ってないとアビリティはもちろん、例えばスポーツとかの才能も発現しない……?てことですか……」
「誰もがアビリティを持ってるわけじゃなくて、遺伝子的に持っている人だけが、特定の条件下で発現する……?」
「その通りだ! 晴斗君、素晴らしい理解だ!」
三神は嬉しそうに声を張り上げ、まるで教師が優等生を褒めるかのように、晴斗に賞賛の言葉を贈った。
「ふふ、思ったよりちゃんと理解できてるじゃない」
姫凪乃は冗談交じりの口調で、晴斗を軽くからかうように言った。その目にはほんの少しの意地悪さが見え隠れしているが、悪気があるわけではない。
「ま、まぁね」
姫凪乃にも褒められ晴斗は満更でもない様子で照れ笑いをする。彼にとってここまで褒められるのは珍しい経験だった。
その流れで、晴斗は次の疑問が頭に浮かび、勢いで質問を投げかけた。
「あの、特定の条件というのはなんですか?」
「うむ、それが実はよく分かっていないんだ。アビリティが発現する時の状況というのは、まさに十人十色。発現のタイミングや要因には、一貫性が見つからない。
「特に姫凪乃君の場合はちょっと特殊だったね?」
三神はそう言いながら、姫凪乃の方へ視線を移した。彼の意図を察した姫凪乃は口を開いた。