ここまでアビリティの可能性を聞いて、怠惰な生活のために使おうと考えていたことが、晴斗は少し恥ずかしく感じてきていた。
「(どうやって楽するか、しか考えてなかったな……)」
晴斗は心の中で自分を省み、三神の話の重さを少しずつ理解していく。アビリティがただの便利な力ではなく、世界そのものを変革するほどの可能性を秘めていることが分かってきたからだ。
「例えば植物や動物を操る力、あるいは気候に影響を与える能力があれば、環境保全や自然の再生に役立つ可能性がある。森林再生、荒地の緑化、水質浄化――まさに自然そのものを手中に収めることができるんだ」
三神は興奮した様子でさらに続ける。
「そして、こうした能力は災害対策でも大きな効果を発揮するかもしれない! 姫凪乃君の火を操る力があれば、火災が発生しても即座に消し止めることだってできるだろう?」
「まだやったことないけど……多分、できると思います」
姫凪乃は少し照れながらも、真剣な表情で答えた。
晴斗は驚いていた。彼の頭の中では、火を操る能力は戦闘に使うものだという固定観念があった。しかし、そんな力が平和的な用途にも使えるとは思いもしなかった。
「今の話を例にとるなら、晴斗君だって同じことができる!」
「え? 俺が?」
「もちろんさ! プールや川など、水が豊富にある場所に入口を開いて、出口を火災現場に繋げれば、瞬時に大量の水を放出して火を消すことができる!」
「確かに、それなら……簡単にできそうだな」
晴斗は納得した様子で頷いた。彼の能力が思った以上に多用途であることを理解し、次第に自信が芽生えてきた。
「さらに! 君の力を使えば、人命救助だってできる! 急を要する患者を数秒で病院に運び、医師に治療を任せられるんだよ!」
「あぁ、たしかに……!」
晴斗は思わず感嘆の声を漏らした。自分の能力にそんな可能性があったとは、予想もしなかった。
「それだけじゃない! 例えば、環境保全で言えば、重機が入れないような険しい山岳地帯に、君の能力で機材を運び込むことだってできるんだ! 晴斗君、君の力は無限の可能性を持っている!」
「お、おぉ……。なんか……凄い自信がついてきました… …!」
晴斗はこれまで考えもしなかった自分の力の活用法に、今まで以上に自分の力を正当に評価するようになった。
「君の力を活用すれば、物流にも革命が起こる! あらゆる物資を瞬時に運ぶことができるんだ。君一人で物流の未来を変える力を持っているんだよ!」
驚きの連続に、晴斗は再び自分の力の大きさを再認識し、その可能性に少し圧倒されていた。
「さらに、テクノロジーの分野でもアビリティは大きな影響を与えるだろう。テレパシーや念動力の能力を使って、意識だけで機械を操作する技術が開発されるかもしれないんだ! これが実現すれば、人と機械の境界を超える時代がやってくる!」
三神の説明に、晴斗と姫凪乃は驚きの目で彼を見つめた。アビリティの応用がテクノロジーの進化とどれだけ深く結びつくかが、二人の中で明確に見え始めてきた。
「芸術の世界にだって可能性がある。念写や幻覚を操るアビリティがあれば、思考をそのまま映像化し、まるで新しい芸術体験を提供できるかもしれない。見る者の感覚に直接働きかける、まさに次元を超えたアートが生まれるんだ!」
芸術の話に移ると、姫凪乃は少し驚いた表情を見せながらも、真剣にメモを取り続けていた。
「さらに、アビリティが社会に与える影響はそれだけじゃない。新たな信仰や倫理観、社会的価値観が生まれるかもしれない! アビリティが宗教や哲学、そして日常の在り方すらも変革する可能性があるんだよ!」
三神は力強く拳を握り、今にも叫びそうな勢いで話を締めくくった。彼の額には汗が滲み、情熱が溢れんばかりだった。
「そ、そんな力授かっちゃったんですね……!」
晴斗は、アビリティの持つ無限の可能性に圧倒され、自分の力をもっと活用する方法を考え始めていた。
「そうだろう? だからこそ、君の力も軽んじるべきではない。世界を変えることができる力が、君にはあるんだ!」
姫凪乃は、晴斗に向かって小さく頷き、やれやれというような顔をしていた。
「そうよ、これだけの力を持ってるんだから、ちゃんと使いなさいよ。ノブリス・オブリージュよ。……あ、知ってる?」
「知ってるよ!」
晴斗と姫凪乃のやり取りを微笑みながら見守る三神は、次に話すべきことが頭に浮かんだ。
「では、いよいよ晴斗君が一番聞きたがっていたことに移ろう。アビリティの本質とは、一体何なのか……!」
晴斗は興味津々で身を乗り出し、真剣に次の話を待った。