面接を終え、姫凪乃と共に帰り道を歩いている中、晴斗はずっと頭に引っかかっていた疑問を口にした。
「そもそも、アビリティって一体なんなんだろうな」
「なに、気になるの?」
「そりゃまぁ、普通に気になるだろ?え、逆に気になんないの?」
火がなぜ燃えるのか、水がなぜ凍るのか――晴斗にとってアビリティの正体が気になるのは、このレベルの自然な疑問だった。誰もが同じように考えているはずだと思っていたため、姫凪乃のあっさりした反応には少し驚きを覚えた。
「気になんないっていうか、大体のことは知ってるし」
「えっ、仕組みとかもう解明されてんの?これって?」
真取から聞いた話を基に、晴斗はてっきりアビリティはほとんど解明されていないものだと思っていた。それだけに、姫凪乃のさらっとした返事が予想外だった。
「解明っていうか、諸説あるけど、今一番信憑性が高いとされてる理論が試験に出たりするのよ」
「試験!?資格試験でそんなの出るの!?」
アビリティの正体についての疑問から、予想もしなかった「資格試験」の話が飛び出し、晴斗は驚きに目を見開いた。勉強嫌いの彼には少々耳の痛い話だ。
姫凪乃は、晴斗の反応に呆れながらも、すぐに彼の早とちりを訂正した。
「それは上位の資格試験の話ね。簡単なやつはもっと基本的なことだけど。でも、今のうちに勉強して取っておくのがいいわよ」
「え、なんで?まだ必要ないんだろ?」
「今は民間の私たちには必須じゃないけど、将来的には制度が整備されるのは確実だし、資格が義務化されたらもっと難しくなる可能性が高いわよ。資格試験が厳しくなる前に取っておいた方が得策よ」
晴斗は、自分の問いが思わぬ方向に進んだことに気づき、勉強嫌いの自分が今後苦労することを想像してうんざりした。
「うわぁ……めんどくせぇ……」
姫凪乃はそんな晴斗の反応を面白そうに見ていた。彼女のいつものイタズラ好きな笑みが顔に浮かび、さらに晴斗を追い込むように言葉を続けた。
「まぁ、アビリティの仕組みとかを知ってても、実際に役に立つ場面は少ないと思うけど……でもぉ、先延ばしにして後で後悔しても知らないからね~」
「う……うーん……はぁ、めんどくせぇ……」
晴斗が渋々と肩を落とすのを見て、姫凪乃は何か思いついたような顔をして、突然口を開いた。
「なんなら、私が――」
晴斗はその言葉に一瞬期待を抱いた。「私が教えてあげる」とでも言ってくれるのではないかと。しかし、その期待はすぐに裏切られる。
「――あ、そうだ!SAUの科学部門の三神さんに軽く講義してもらえばいいじゃん!」
「あ、えっ……」
姫凪乃は勝手に話を進めると、スマホを取り出し、すぐに真取に連絡を取ろうとする。
「私が勉強してたとき、真取さんが昔のコネで三神さんを紹介してくれたのよ。ちょっと変わった人だけど大丈夫よ!じゃあ、真取さんに連絡しとくね」
「え、あ、じゃあ……はい……」
戸惑う晴斗は、勝手に進んでいく話に追いつけずにいたが、彼女の言う通り、先延ばしにしても自分を追い詰めるだけだと悟り、渋々ながらも承諾するしかなかった。