「それでまぁ、本題なんだけどFSSの活動についてだね」
「はい」
ここまでで大量の情報を聞かされて、晴斗はすでに頭がいっぱいだった。しかし真取の話は止まらない。
「簡単に言うと、SAUのサポートみたいなものかな」
「サポート……ですか」
「例えば、内部調査や隠密行動、一個人が関わる小規模なアビリティ関連の事件や事故なんかが主な仕事だね。SAUが公には動きにくい案件とか、SAUが動くにはいろいろ許可が必要だから、その前にFSSが動いて対応するってこともあるんだ。」
思っていた以上に大変そうな仕事内容に、晴斗の心は早くも離れかけていた。
「えっと、アルバイトだと時給が5,000円って聞いたんですけど……」
「え、姫凪乃がそう言ってたの?」
真取の反応に、晴斗は不安を感じた。何か聞いてはいけないことを聞いてしまったのかもしれない。
「え、違うんですか?」
「んー……いや、まあ姫凪乃は確かに5,000円もらってるね……」
「つまり……最初は違うってことですか?」
「そう……だね。」
真取は言いづらそうに説明を続けた。
「一応、俺たちは民間の組織だから、アビリティを使うのに面倒な制限とかはないんだけど……」
晴斗は、SAUにはそういった制限があるのだろうかと考えながら、真取の話を聞き流した。
「でも、危険な力を使うから一応、資格試験がいくつかあってね。今の所必須じゃないんだけど、社会規範とか良心とか、大事なことだからさ。」
「姫凪乃はその資格を全部持ってるんだよ。持ってるアビリティ自体は特別珍しいわけじゃないけど、彼女は単純に優秀でね。」
「SAUには、ランキング戦っていうアビリティ持ち同士の模擬戦があって、そこに我々も参加できるんだ。姫凪乃はそのランキングでもランカーなんだよ。だから、どんどん上に行って今の給料になったんだ。」
姫凪乃の話を思い出し、彼女が決して騙したわけではなく、自分が勝手に期待し細かな事を聞かなかった事が原因であると感じ、少し自己嫌悪を感じていた。
「じゃあ、最初はいくらなんですか?」
「最初は……2,000円から……だね。でも、この時給はバイトとしては破格だと思うよ!」
「でも危険なんですよね?」
「大丈夫!!晴斗君なら、すぐに5,000円どころかそれ以上稼げるさ!だってそのアビリティ、本当にすごいんだもの!」
真取は、晴斗を逃したくないのか、説得に熱を入れ始めた。
「資格の費用もこっちで持つし、すぐに取れるよ!大丈夫!大丈夫!!」
真取が必死に食い下がる様子から、晴斗は自分のアビリティがかなり重要視されていることに気づいた。もしかしたら、人材不足で誰でも良いのかもしれないが、それでも自分の力が評価されていることは悪い気がしなかった。
「あっ!姫凪乃から、FIREしたいって聞いたよ!」
真取は急に何かを思い出したかのように言った。
「だったら、正社員の方が近道だよ!ボーナスもあるし、ね!!!」
「正社員ですか……」
晴斗は、正社員になりたいわけではなかったが、FIREには非常に魅力を感じていた。真取の話を信じるなら、晴斗のアビリティは非常に優秀らしく、資格も取れるなら、すぐに時給が上がるかもしれない。危険と言っても、最悪の場合、自分のアビリティで逃げられるし、どうにかなるのではないか。
そう考えると、晴斗はこのアルバイトがかなり魅力的に思えてきた。むしろ、今の状況を利用して、時給交渉すらできるかもしれないという気がしてきた。
「時給3,000円でどうですか?」
真取は予想外の提案に驚き、考え込んだ。
「うーん……2,500円……で、どう?」
「分かりました、それでいきます!」
「おぉ、よかった!よろしく、晴斗君!!」
「よろしくお願いします!」
二人は強く握手を交わし、晴斗は必要な書類を手にして部屋を出た。
「なんか、随分時間かかったわね。最後、盛り上がってたし。」
待っていた姫凪乃が、時間がかかった理由に全く心当たりがない様子で言った。
「お前なぁ……」
「なによ、真取さんになんか言われたの?」
晴斗はいろいろ言いたいこともあったが、姫凪乃に悪意がないことを察し、言葉を飲み込んだ。
「いや、別に。姫凪乃さんのおかげで、とても有意義な時間でしたよ。」
「でしょー?ちゃんと話を通してた私に感謝しなさい。」
少し嫌味っぽく言ったつもりが、彼女には伝わらず、鼻高々に話す彼女を見て、晴斗はつい笑ってしまった。