晴斗は、心の中で少し躊躇しながら、姫凪乃から詳しく聞けなかった仕事内容について尋ねることにした。
「それで、その……具体的にはどんなことをするんですか?」
真取は少し驚いた表情を浮かべながら確認するように問いかけた。
「え、何も聞いてないの?」
「なんか、危険なこともあるって……そのくらいしか……」
晴斗は曖昧な答えを返す。
真取はため息をつき、肩をすくめた。
「はぁ……姫凪乃のやつ、大体説明したとか言ってたけど、全然じゃないか……」
晴斗は姫凪乃の性格がここでも遺憾なく発揮されていることを感じつつ、苦笑いを浮かべた。
「えぇと、何から説明すればいいかな。FSSがどういう組織か、そこからでいいかな?」
「たしか、SAUの姉妹組織みたいな存在で、表向きはセキュリティ会社だって聞いています……」
真取は再びため息をつき、少し呆れた様子で続けた。
「なるほど……まあ、大体は合ってるけど、それだけじゃよく分からないだろうね。ちょっと長くなるけどいいかな?」
「はい、大丈夫です」
晴斗は少し緊張しながら答えた。
真取は少し身を乗り出し話し始めた
「えぇとね、まずSAUから説明しようかな」
「Special Ability Unit SAUは警視庁直轄の部隊で、全員ではないけどアビリティを使えるメンバーが揃ってる。直轄と言ってもSATと同じ警備部門にいるんだ。将来的には全国の警察組織に部隊を作りたいんだけど、アビリティを持っている人が都合よく見つからないし、いたとしてもSAUに入りたいとは思わないことが多いんだよね。だから、結果的に警視庁直轄になってるわけさ」
晴斗は、なんとなく聞いた事がある程度の単語が飛び交い、少し混乱しながらも、話を中断させないように頷いて聞いていた。
「SAUがやっていることなんだけど、SATやSITがやっていることをイメージすると分かりやすいかな。そのアビリティ版みたいなものだよ」
と、真取はさらに続けた。
「はぁ、たまにテレビで見かけるような……?」と、晴斗は聞き返した。
「そうそう、具体的にはアビリティを使った犯罪の捜査、摘発、追跡や逮捕、犯罪組織の壊滅、アビリティによるテロの鎮圧、人質救出、アビリティの濫用やそれを使った一般市民への危害や詐欺の防止……とにかく、かなり幅広いんだよ。」
「事前にアビリティ関連の危険な情報が入ってれば大規模イベントの警備なんかもやるしね。まあ、特殊部隊と言っても色々やるわけだ」
真取は一息つき、晴斗に向かって問いかけた。
「一気に説明しちゃったけど、なんとなく分かったかな?」
「えぇ……まぁ、なんとなく……」
晴斗は少し困惑しながらも頷いた。
「ここまでで質問とかある?」
晴斗は流れ込んでくる情報を何とか処理しながら、無理やり質問を絞り出した。
「えっと、SAUがアビリティを使って犯罪を取り締まるのは分かったんですけど、そもそもアビリティに関しての法律とかはどうなってるんですか?」
真取は再び頭を抱え、深いため息をついた。
「そこなんだよね、アビリティって最近公になったでしょ。アメリカが先立ってSAAFっていうアビリティの部隊を作ってさ、日本もアビリティの存在を認めざるを得なくなったんだ。それで急遽作られたのがSAUってわけさ」
「ということは、日本は昔からアビリティの存在を知ってたんですか?」
「その通り。でも、こんな魔法みたいな力の存在を認めちゃうと対応が大変だろ?実際に使える人なんてそんなに多くないし、でも情報化社会になって誤魔化せなくなってきたところで、アメリカが先に動いちゃったわけさ」
晴斗は、SAU設立の背景が犯罪防止のためではなく、事実がバレてしまったからというくだらない理由であったことに驚きを隠せなかった。
「警察の偉い人や政治家とも少し繋がりがあるんだけど、そうならないために早い段階から進言していたんだ。でも、日本全体の話となると、なかなか動かすのは難しいよね……」
「(この人の人脈、ヤバいじゃん……!)」
「(あぁ……個人情報バレてんのこの人が原因か……)」
晴斗は、目の前にいる人物が日本を動かすほどの影響力を持っていることに内心驚愕しながらも、表情を崩さずにいた。
「それで、まぁ本題に戻るけど、FSSの活動についてね」
真取は改めて話を続けた。
「あ、はい」
晴斗はすでに多くの情報が頭に詰め込まれており、消化しきれない状態であることを感じていた。