【毛細地下水道】。
かつて水路として使われていた街の地下部分に、後からモンスターたちが住みつく形で生まれたダンジョン。
長年放置された結果、ほとんどの通路が浸水でドブと化しており、移動しづらいことこの上ない。
「ヒヒヒヒヒヒヒ!」
そこに現れるは【ゴ-スト】をはじめとする幽霊のモンスターたち……!
それらに目をつむれるならなるほど、隠れ家を構えるには最適の場所だ!
「【ブリッツ】【ブリッツ】【ブリッツ】【ブリッツ】【ブリッツ】!」
私?
私はよゆーよ、ダテに火山のダンジョンを突破しちゃあいないわよ。
ドブに足をとられても、弾幕を張ってればいいんだから楽なもんだわ。
「ヒヒヒヒヒ!」
地
それでいい。
せいぜい、悪目立ちした私を狙ってくれればいい。
「キュウ、任せた!」
「【インターセプト】!」
私は所詮おとりだから!
敵・味方の間に割って入る【インターセプト】で飛び込んできたのは、感情豊かな小悪魔型【キカイ】、キュービック。
「ヒ!?」
持ち味は背中のジェットによる空中機動と、鋼鉄のボディによる防御力だ。
その硬さたるや、振り下ろされた斧を軽々受け止めてしまうほど。
「どっりゃあああ!」
そんな【キカイ】特有のギミックは反撃でも役に立つ。
斧を押しのけてがら空きになったところへ、ジェットの勢いでサマーソルト!
蹴り上げられた人形の幽霊は天井に叩きつけられ。
……そのままポリゴンに分解されて消えていったとさ。
━━━━━━━YOU WIN!━━━━━━━
モンスターの討伐成功!
EXPを120獲得!
レベルが25にアップ!
ステータスポイント5を獲得!
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*
とまあ。
戦いにおいての彼は、いうことめっちゃ聞いてくれる上にすごく強い。
俗にいうお助けNPCってやつなのだろう。
それはまあわかる。
ここまでの運びからして、騎士団を敵に回すくらいの悪党ロールをしなきゃ仲間にならないのだ、そのくらいじゃなきゃやってられない。
……のだけど、やっぱり釈然としないことがある。
「ステータス、キュービックの能力を開示」
〜〜〜〜〜〜NPC Status〜〜〜〜〜〜〜
キュービック
レベル:47
Next……13255exp
種族:【キカイ】
属性:雷
スタイル
【用心棒】
スキル
チャージ インパクト ブリッツ スパーク バリアント
鋼鉄ボディ 発電機構 ブロッキング インターセプト
魔導の才覚・雷
〜〜〜〜〜〜〜〜〜~~〜〜〜〜〜〜〜〜
ひたひたと湿った道を歩くさなか、キュービックのステータスを開いてため息をつく。
仮にもドラゴンを倒したはずの私が、こんな小さい子にレベルでボロ負けしてるのはいかがなものか?
「そういうモンなのかな……」
「?」
物事がすべて数字で現れることの無常さ。
それを仕方ないじゃん、と言い聞かせる私に何を思ったか、キュウは首をかしげる。
ステータスがステータスならこの子もこの子よね。
【キカイ】って、言っちゃえばロボットのことだと思うんだけど、どうにも感情が豊かよねえこの子……気になっちゃうな。
「オイラが感情豊かな理由?」
というわけで聞いてみることにした。
「そ、私の知ってる機械ってやつはもっと事務的で、泣いたり笑ったりなんてしないからさ……だからなんかギャップがね」
「そりゃ、フツーの機械とオイラたちを比べちゃだめだよ!」
どうやら心外だったらしい。
……というか、フツーの機械じたいはあるのか。
「オイラたち【キカイ】は、ニンゲンを作ろうとして生まれた存在なんだ、だから泣いたり笑ったりできるんだってドクターが言ってた」
「人間を……? 誰が、どうして?」
なおさらわからない。
モトを正せば機械も道具、それが必要になる経緯がある。
だからこそ、こんなファンタジーもどきの世界で、人間を再現した機械が必要になるなんてことは、めったに起こらないはずなんだ。
だって人間が必要なら、表に出れば掃いて捨てるほどいるんだから──。
「どうしてかはオイラもよくわかんない。でもドクターはいっつも言うんだ……【フクロウの一族】ってすごい人たちがいて、その中のだれかにオイラたち【キカイ】は作られたんだって」
うーーーーん。
また新しいワードだ。
【フクロウの一族】……キュウの口ぶりから考えるに、技術屋さんの一族なのかな。
このへんについて詳しいことを知りたきゃ、そのドクターに直接聞かなきゃいけないのでしょうね。
でもそのドクターはヘンクツらしくて犯罪者で……かなりきな臭い。
「なんだかヤな感じ……」
とっかかりから続いて手がかりも目の前に置かれていて。
まるで2度と出られない深みへ、誘いこまれているみたい。
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以下の条件を達成しました
① NPC【キュービック】とパーティを組んでいる
② スタイル【禁忌に手を伸ばす者】を装備している
③ ダンジョン【毛細地下水道】にて特定のポイントを通過する
特殊イベントが発生します
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けどそれでも後なんてないんだから……前に進むしかないわよね。
予告されていた特殊イベントの発生、どうにか状況は転がってくれたらしい。
もはや私の予定表はぼっろぼろだけど、穴さえ補修できればもとに戻せる。
さあおいでませドクターとやら、覚悟だけならしてるわよ!
『あー、あーっマイクテス、マイクテス……』
そう思っていた矢先の出来事だった。
キュウに導かれるままつき当たりに差し掛かったところで、とつぜんノイズ交じりの声が響きだした。