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第9話 没落令嬢と【キカイ】


今にして思えばあのウィンドウ。



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【閑古鳥の少年】


特殊条件

① 【コンテナ資材の残量を0にする】

② 【少年NPCの好感度一定以上】

以上の達成を確認


このクエストにおける戦闘行為が解禁されました。


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──これが【フラグが立った】というものなのだろう。


「僕は栄えある【聖光騎士団・獣兵隊】の者だ。ここに凶悪な魔物が潜伏していると報告を受けた者だ」


「……はい?」


何を言っているんだこのNPCは。


「ちょっと待ちなさいよ、こんな街のド真ん中でモンスターなんか出るわけないじゃない」


ありえない。

メタ的な話になるけど……このゲームは街中での攻撃ができない。

──ということは必然、街中での戦闘は極力起こらないようになっていなければおかしい。

誰だって、一方的に蹂躙されるのはイヤに決まってるんだから。


けれど、目前の騎士とかいう騎士はくすくすと笑うばかり。


「それは君のような者が決めることじゃないさ──やれ、【ソルビースト】!」


瞬間。

彼の両脇から、鎧をまとった大型犬が2匹おどり出た。

騎士団が飼っている、軍用犬のモンスターだ。


犬はそのままカウンターを飛び越え、私の足元へ突撃する!

って、そこにいるのは──!


「がっ──!?」


「キュウ!?」


あわれキュウは跳ね飛ばされ……フードがはらりとめくれ上がる。

その中身はなんとも奇妙な形の頭だった。

三日月を上へと向けたような、まるでデフォルメを利かせた小悪魔のような頭がそこにあった。


そんな彼は体制を大きく崩し、あおむけになったところで犬たちに取り押さえられてしまった……!


「ぐ、が……」


「ははっ、やはり潜伏していたか犯罪者のペットめ! 変な小細工をろうしたところで、匂いで探し出す【ソルビースト】からは逃げられないのさ!」


「あんた! 子供になんてマネするのよ!」


「子供……? ククッ、君はこのモンスターを人だと思っていたのかい?」


凄んで見せても、こいつはくつくつと笑うばかりだ。

そしてそんなこらえるような笑いが収まったかと思えば。


「いいだろう、何も知らないようだから教えてあげよう! 庶民でも知る権利というモノは必要だからねえ……」


そうしてイヤミったらしく前置いてから、続けるんだ。


「そいつは古代の技術で作られた【キカイ】というモノでね! 大きさこそ子供や小動物と大差ないが、姿を見れば一目瞭然、醜い鉄のモンスターなのさ!」


「鉄の、モンスター、【キカイ】……」


確かにその体は冷たくて硬くて。

おおよそ体温があるとは思えなかった……。


って、モンスターってことは。


「じゃあ、あんたたちは、この子をその……退治しに来たってコト?」


「いや? 僕としてもぜひそうしたいんだが、できない事情があってね……拷問して、ある場所を吐かせなければならないんだ」


「隊長、それ以上は……!」


「おっと、そうだったね……」


取り巻きの鎧騎士がここでハナシを打ち切らせた。

……けど大体わかった。

どうやら目的はキュウではなく、別のところにあるらしい。


それなら思い当たるフシは1つだけある。

彼がドクターと呼ぶ、おじいさんのところだ。


「さて──本来ならキミは共犯の疑いがあるんだが……今回のところはその【キカイ】を引き渡せば、見逃してあげようじゃないか」


こいつらが何のためにそこへ押しかけようとしてるのかは知らない。

けど、居場所を吐かせるため拷問しようと言うような連中だ……どうせロクなことしない。


「う、ぐぐぐ……は、な、せ……!」


キュウも、それが見え見えだからもがいてる。

けど、どうすればいいんだ?

街中での戦闘はできない……ってことはこのままこの子は見殺しにしかできないんじゃないの?


このままこの子を助けるには、どうしたらいいんだ?

そう、思っていた矢先……スケスケのウインドウを思い出した。



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このクエストにおける戦闘行為が解禁されました


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「そうだ、何だったら僕個人から謝礼をしてあげてもいい! 街に潜む悪党の手がかりをこうして残す大手柄を立ててくれたんだからねえ!」


「隊長、それは……!」


「いいんだよ! どうせこんなところにいるんだ、金に困っているんだろう? なら気持ちばかりの報酬を恵んでやってもいいじゃないか、なあ?」


「…………。」


──ここへきて、お金か。

確かに私はたいっへんお金に困っている。

借金してるしね、とっとと返したくて仕方ない。

けどさ──。


「大変魅力的な提案ですが、私はこの子との契約を履行している最中ですので、お断りします」


子供を泣かして手に入れる金なんかクソくらえでしょ。

カウンター越しのクソ野郎に、力いっぱい【スニーク】を投げつけてやる。


「隊長!」


しかし、横から伸びてきた腕がそれをさせない。

それでも目くらましにはなるでしょ!


「【スーサイド】オン! 【ブリッツ】【ブリッツ】【ブリッツ】【ブリッツ】!!」


どうか、通行人の皆さんには当たりませんようにと祈りつつ……氷越しからの【ブリッツ】で店の前からの騎士を押しのける!


「く、【ソルビースト】! そいつも取り押さえろ!」


「もう遅い! どりゃどりゃーー!」


ここまで撃てればもう十分だ!

振り向きざまの【ブリッツ】で店の奥に風穴をこじ開け、犬を吹っ飛ばす!


「キュウ!」


「リーズ……! ごめん、オイラ……!」


「いいって! アイツら気に入らないし……それよりもこの後は分かるわよね!?」


「うん!」


あとはキュウを起こして抜け出せば……!


「せーの!」


「【イヴェイド】!」

「【イヴェイド】!」


しあげにふたり同時に透明化で、フィニッシュだ!


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