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第8話 没落令嬢と私のスゴいトコ・後


何をビビっていたんだろう。

別に誰かがスゴかったからって、私がスゴくない理由にはならないのに。


たとえ依頼人が【チョースゴい奴】のことしか知らなくても関係ないじゃない。

おおよそすべての【生産道具】を扱える……そんな人がいたとしても、私のやることは変わらない。


私は前しか向かない。

横も見ない、後ろも向かない。

ただただ前だけ、私だけの道を行くんだ!


「【スーサイド】、オン!」


問題はシンプル。

このままじゃ売れなくて、レンタル料で大損確定なコト。


なんせ今ある売りモノが雑草、水、小石とそこら辺にあるモノばかりなんだもの、買い手なんているはずもない。


だからまずは、こいつらを売れるモノに変えてやる必要がある。

そのために必要なモノは全部あるし、持ってる!


出店ココを工房とする! いっくぞーーーーー!!!」


かき混ぜ棒をつかんで、片っ端から調合、調合、調合!

今この瞬間、私は全自動アイテム調合マシンだ!



~~~~~~~調合成功!~~~~~~~


回復薬×2獲得!


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「【オトウト】、並べて!!」


「うわっと!?」


アイテムができ次第、カウンターにいるキュウへ投げてよこす!


「ナイスキャッチ!」


「危ないな! 落として割れたらどうすんのさ!」


「落として割れなきゃいい! そのうち、いちいち前に出て手渡しする時間も惜しくなるから慣れちゃいなさい!」


「ホントかなあ……?」


ホントよ、ホント!

【錬金術士】ウソつかない!


「お、ちょうどいい、その【回復薬】くれよ!」


「え……!? あ、うん!」


「ほらね!」


とっても失礼なハナシをするとさ。

……この【マーケット】に来る人はみんな、ふところ寂しいビンボー人なんだよね。


「安くていいじゃないこれ! 1つ頂戴?」


それがPCともなれば切実なものだ。

武器の新調、コミュニケーション、ダンジョン攻略の準備……とにもかくにもお金が必要だからね。


そんな中で、だ。

【錬金術】スキルでできたモノをこんなところで見つけたら、ノドから手が出るほど欲しいでしょう!


上位プレイヤーが軒並み生産職を囲ってるせいで、なかなかお目にかかれるものじゃないんだから!


「へー、姉弟でお店やってるんだ、エライねえ……安いし、これもらっちゃおうかな!」


つまりイニシアチブは常にこっちが握ってる、付け入るスキはいくらでもある!

質より量、高品質より粗製……何でもいいからどんどんアイテムを作って、在庫を一掃だ!


名付けて『出血一掃セール大作戦』!

たとえ薄利多売でも、利益がプラスになればそれでよいのだ!


きゅぽんと、自前の【回復薬】を飲み切ってからは……!

回せ回せ回せ回せ、ありったけ作れーーー!!



~~~~~~~調合成功!~~~~~~~


スニーク×3 獲得!

回復薬×5 獲得!

ロープ×4 獲得!

匂い袋×4 獲得!


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「へっへっへ、これで全部調合してやったわ……」


さあ、後はこれをキュウに渡しておしまいだ。

ただ、爆弾スニークは投げていいモノなのか……? と思わなくもない。

街の中での攻撃行為はできないっていうけど、じゃあ不慮の爆発はどういう扱いになるのか、ってのは分からないからね……。


「ん?」


覚悟を決めたところで、聞きなれたファンファーレが鳴り響く。

おおよそ私にしか聞こえないそれは、スキル獲得の合図だ。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


条件「30回以上アイテム渡しを成功させる」達成!

【アイテムシューター】獲得!


【アイテムシューター】:自動発動。アイテムを狙った位置に投げることが出来る。

キャラクターへ渡すとき、アイテムが消費されなくなる。


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「なんておあつらえ向き、これなら爆発もしないかも……【オトウト】、ちょっと手を──アレ?」


さっそく試運転を、と思った矢先だ。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


【閑古鳥の少年】


特殊条件

① 【コンテナ資材の残量を0にする】

② 【少年NPCの好感度一定以上】

以上の達成を確認


このクエストにおける戦闘行為が解禁されました。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



「へ?」


ウィンドウの続きが急に現れて……。


「リーズ!」


カウンターから離れたキュウが、私の方に飛びついてきたのである!

ちょ、ちょちょ!? 情報が多いんだけど!?


「ちょっと【オトウト】、カウンターから離れちゃだめでしょ!」


「ごめん、ワケは話すから……匿って!」


「はい?」


「【イヴェイド】!」


瞬間、キュウの姿が消えた。

……といっても、すぐ足元に引っ付いてるんだけどね。


硬い身体から、冷たさと震えが同時に伝わってくる。

こんなにおびえちゃうほど、怖いお客さんでも来たのか?

そう思って店の外の方を見やると……。


「君が、この小屋の主かい?」


「小屋って……これでも立派なお店ですよ、なにかご用ですか?」


「こんな一般市民の道楽に、用事はないさ」


「……はい?」


いちいちカンにさわるモノ言いだなあ。

目つきもなーんかイジワルそうでいやらしいし。


「じゃあいったい何のご用事ですか? ここは【マーケット】……庶民同士で商売してお金をもらう場所で、貴方のような気品ある方には縁もゆかりもないところかと思いますが」


「そう、僕もその通りだと思うんだけどね! でも、悲しいかな……通報を受けてしまった以上、こんなところでも仕事をせざるおえないのさ!」


くそっ、イヤミが効かねえ。

……って舌戦なんかどうでもいい、通報? 仕事?

こいつは一体何なんだ?


そんな私の心を察したかのように、カウンター越しの金髪男は続けた。


「僕は栄えある【聖光騎士団・獣兵隊】の者だ。ここに凶悪な魔物が潜伏していると報告を受けた者だ」



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