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第6話 没落令嬢とボロ布の少年


「たすけてほしいんだ、【錬金術士】!」


【マーケット】から離脱しようとした矢先。

私の外套をひっつかんできた少年は、確かにそう口にした。


「オイラのお店が──」


「ストーーーップ!!!」


「モゴ……!!?」


続きを喋ろうとするガキんちょの口を強引にふさぐ!

そして周りを見て──ああダメだ、何事かってみんなこっち向いてる!


「悪いけど、場所を変えるわね! 【イヴェイド】オン!」


「モゴーーーッ!?」


問答無用!

えーーーっ、的なニュアンスの音を出すガキんちょを抱え、そのまま抜け道へ急行!

なんかやたら硬い感触があるけど、気にしてる余裕はない!


飛び込んだ後に外を警戒!

……よし、ついてきた奴はいないな!

あーーこわかったーーー!


「ぷはっ──なにするのさいきなり!」


「ごめんごめん!」


ようやっと解放されて憤るガキんちょをたしなめ、壁にもたれかかる。


「でもそっちも悪いのよ? いま【錬金術士】……というか生産職って周りにバレると面倒なコトが起きちゃうんだから」


「そ、それは……! ごめん……」


「それだけキミが追い詰められてたってコトでしょ、気にしないでいいわよ……それよりも私に頼みたいこと、あったんじゃないの?」


私もたまーにやっちゃうから、そのことを責めることはしないし、できない。

だからそんなことよりも、この子が抱えていたトラブルが優先だ。


「あ! そうだ、そうなんだよっ、今すっごくタイヘンなんだ!」


「そうでしょ? だからちゃんと説明して……ハナシくらいなら聞いたげるからさ」


そうして話し始めたガキんちょの言葉に耳を傾けてやる。

そこから少し経ったら、だ。


「──ってわけなんだ! 引き受けてくれるか?」


言うが早いか。

少年が言葉を打ち切ったタイミングで、ウィンドウが姿を現したのだった。



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「閑古鳥の少年」が発生しました!


並べた品物が売れず、少年が困っている。

彼のお店を手伝って繁盛させよう。


【制限】

【職業:生産職】のみ


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今日何度目かのクエスト告知だ。


「…………」


正直言って断りたい。

けれど、あれだけ人がいたんだから適当に選んでもいいところ、わざわざこのガキんちょは私を……【錬金術士】を選んだ。


転ぶほど力いっぱい引き止めるくらい切実に、さ。


それだけ本気で来たんだ。

ここまで聞いといて、私もそれにならわないってのは筋が通らない!


「うんわかった、私も付き合う……この依頼、【錬金術士】リーズが引き受けてあげる!」


「ホント―か!?」


「ただし、いくつか守ってほしいことがあるんだけど……」


「やった、やった、やーったあ!」


「……ってこら、話は最後まで聞く!」


ワイワイとひとり喜ぶ少年に少し笑いながら、この後の作戦をつたえるのだった。



【リヒターゼン】の、あるところの暗がりで。


ガキんちょこと【キュービック】はおじいさんと2人で暮らしていたという。

決して裕福じゃないけど、ガラクタからいろいろなものを作るというおじいさんとともに、にぎやかな毎日を過ごしていたそう。


けれどそれも徐々に終わりが近づいてきていた。

日に日にやつれ、体力がおちていくおじいさん……それを見て、このままじゃいけないと思ったらしい。

そして街へ繰り出し、どうにか自分でお金を稼ぐ方法を探すようになった。


そしてどこからかウワサを聞きつけたのだ。


今、リヒターゼンの【マーケット】がどんなモノでも買ってくれる人がいるほどにぎわっているというウワサを。


キュービック……長いからキュウにするか!

まあとにかく決心した。

これでお金を稼いで……今度は自分が、おじいさんにラクさせてやるんだと。

そうして身の回りからモノを集め、残っていたお金を使ってお店を借り……。


そこからにっちもさっちもいかなくなって、私に助けを求めたのだった。



「ほらリー……」


「こら【オトウト】!!」


「あ、ごめんそう・・だった! 【ネーチャン】、こっちこっちー!」


「まったくもう……バレたらマズいから名前で呼び合わないようにしてるのに……!」


クエストを引き受けてもらえたことによりキュウの元気は有頂天。

小さいゆえに人の波に埋もれてしまうけど、定期的にぴょんぴょこ飛び跳ねて、私に居場所を教えようとしてくる。


「ああ、もう目立たないでって! おい【オトウト】こらー!」


そんな危うい先導により、彼が借りた出店まで案内してもらっているのが今だ。


ちなみになんで【オトウト】【ネーチャン】なのかというと、偶然なのか何なのか、2人そろって【身隠しの外套】を装備していたから。

服がそっくりなら、姉弟ってゴマカシも効くでしょ?


「ほらほら【ネーチャン】! モタモタしてるとおいていっちゃうよー!」


「おいてったら困るのはそっちでしょーがー!」


くっそー!

アレ本当にモブキャラか!?


「うおっ!? なんか当たった、バグか!?」


はいはい、透明なだけですゴメンなさいね!

……しかし私がトロくさいことを含めて考えても、この人ごみをスルスルと!

そのうえ、どこぞの軽業見たくぴょんぴょん飛び跳ねるのまでやってのける……!


「手馴れてる……これが土地勘ってやつなのかしら!」


なんか違う気がするけど、今は考えてる暇なんてない。

ついていくことに全力を出していないと、本当にはぐれる!


「くう、約束をしたときに手をつなぐよう言っとくんだった……!」


「あれー【ネーチャン】!? どこー!?」


「あーもー!」


今更悔やんでも遅い。

そうやって振り回され続けて……。



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条件「一定時間以上HPが減少し続ける」達成!

【タフネス】獲得!


【タフネス】:HPが+50され、HP減少効果を軽減する。


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なんか、スキルも新しく生えて……。


「おそいぞー【ネーチャン】、運動不足ってやつか?」


「だれのせいだと……!」


「ほらほら顔上げて! ここがオイラの店だよ!」


ようやっと眼前に現れた、キュウの屋台は意外や意外、ふつうの雑貨屋のつくりをしていた。


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