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第4話 没落令嬢と【身隠しの外套】

「ふー……」


釜から現れた灰色のフード付きマント。

それを抱えて一息つく私に、ジンが近づいてくる。


「そいつが今すぐ欲しいモノとかいうヤツか? 【身隠しの外套】とか言う」


「うん──見てて!」


というわけで、さっそく試運転だ。

外套を羽織った私はそのまま工房の外、石畳の敷かれた職人通りへ飛び出す。

そして──!


「【イヴェイド】・オン!」


「おいちょっとまてえ! そない目立つマネしたら!」


私がスキルを発動したと同時、つられて出てきたジンは言葉を詰まらせた。

フードをかぶって背を向けてるからわからないけど……。


「あいつ……どこ行った・・・・・!?」


うん、アイテムの説明通り。

ジンは私を見失った!



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【 身隠しの外套 】


 Lv 16

 品質 31

 属性 闇

 カテゴリ 服

 入手方法 錬金術・縫製スキルで入手

 売値 900エン


 暗殺者が着ている外套を再現しようとしたもの。

 フードをかぶっている間スキル【イヴェイド】が発動する。


 【イヴェイド】:透明になり相手から発見されにくくなる。

発動中はMPを消費し続け、ダメージを受けると解除される。


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カメレオンさながらの透明化スキル、これならあの【マーケット】の1本道でも見つからずに移動できる!

代わりに【リキッドウェア】由来の防御力を失ってしまったけれど、もとより生き死にが表裏一体の私に装甲なんかナシのつぶて、こっちの方が好都合だ。


「おーーい、はよう戻ってこーい……」


さあてと。

機能を実証できたところで、途方に暮れているジンの方に戻りましょうか。

ただ──この見えないってアドバンテージを使わないのは、ちょーっともったいないわよね……?

というわけで、ばれないように後ろからこっそりと近づいて……。


「あいつ、まさか見えないのをいいことに逃げおったか……? いやいやそれは」


「誰が逃げたって!?」


耳元まで来たところで声を張り上げてやると、ジンは思いっきり飛び上がってしりもちをついた。

うーん、イイ驚きっぷりだ!

したらばフードを外してタネ明かしと行きましょうか。


「どう? すごいでしょ、フードをかぶっているあいだ姿が消えるのよ!」


見上げる構図になったジンは呆れてるような、恨めしいような……そういう何か言いたそうな顔で立ち上がり、お尻の土を落とす。


「【身隠しの外套】ってこういうことかいな、そら喉から手ェ出るほど欲しいわな」


「でしょでしょ! 【リキッドウェア】のあったページにぐうぜん載っててさ、いつか作りたいなーって思ってたのよ!」


ここまで来たら【マーケット】のごたごたに感謝したいくらいだ!

なんせこの【身隠しの外套】、役に立つのは移動だけじゃない。

姿を隠せる軽装があるとわかれば、欲しがる人はごまんといるはずだもの!

それぞれに合わせた外套を作り出すことが出来れば、きっとがっぽりと儲けられる!


「なんや、エラいウキウキやな?」


「そりゃもう! 今からやること山積みだもん!」


【マーケット】でお金を回収して。

【けむり草】がとれる場所も調べて。

布と染料もどうにか手に入れないとだし……うん、いてもたっても居られない!


「んじゃ、そういうことで──!」


「ちょい待ち!」


勢いそのままに立ち去ろうとしたところで、ジンから待ったが入る。


「なによ、【スーサイド】のことも錬金術のことも実演して見せたじゃない、お眼鏡にかなわなかった?」


「むしろ見せすぎ・・・・やリーズ……だから釣銭代わりに情報をと思ってな」


「いいわよそんな気を使わなくて! お金もらえるならまだしも──」


「ちょうどいいくらいに金が手に入る話や、どうや?」


「分かった、家でお話ししましょう……紅茶とか飲めるかしら?」


……再度家へ引き入れようとする私に、ジンは苦笑交じりで肩をすくめていた。





さささささ、さささのさ。

ジンと別れて何度目かの【マーケット】、人々がごった返す道をひた走る。


「いそげいそげいそげいそげー……!」


なんでこんなに念仏を唱えながらせかせかしているのか?

理由はカンタン、私が素直にMPを支払って【イヴェイド】を使うわけがなかろう?


使用中MPが減り続けるスキルを【スーサイド】で動かす。

今の私は、混雑トラブルパンデミックそのほか足を取られてしまう事象そのものが文字通り命取り、ゆえに勝負は短期決戦ってワケ。


「お願いだからこれ以上ヒト来ないでね……!」


現在時刻は午前10時、現実リアルだったらお出かけの人が増えてくる時間帯。

ああ……みんな寝坊しててくれないもんか!


そんなバカバカしいことを願っていると、露店と露店のあいだで明らかに浮いている小屋が目に入る。


「あった、私の無人販売所!」


なけなしのお金で借りたかいがあったというものだ。

通りから外れて飛びつくと、目の前に来たあたりでウィンドウの文字が現れる。



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落札された商品があります

確認しますか?


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「………!」


声をあげそうになった口を、手でおおう。

いくら透明だとしても、大声で騒いだらさすがに見つかっちゃうだろうしね。

それに喜ぶのはまだ早い。問題はどこまで稼げたかだもの。


わざわざ火山くんだりまで行って集めて、作ってきたんだ……!

お願いだから、最低価格なんか出しちゃイヤよ──!




 ━━━━━━━落札価格━━━━━━━━


【 インゴット 】:15000エン

【 なめし革 】:700エン

【 毒薬のもと 】:900エン


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



「っ────~~~~~~~~!!」


その結果を見て、口から音が漏れたのをぎゅっと抑え込む。


声張り上げたら見つかるってわかってるしょうがよ……!

でも抑えきれないので、足は力いっぱい地団太……地団太でいいのかコレ?をふんで、何とか発散している!


くうう、なんなのよこの生殺しみたいな……!

もっとちゃんと喜びたい、思うがままに表したい!


「……はあ」


そうして平和的(?)に衝動を収めたところで、気が抜けて。

へたりとその場に座り込む。


わかってる、わかってるのよ。

こんなのは大したことじゃない、とっとと次のステップに進みなさいってさ。

こういう成功を続けていくために、なんでこうなったのかとかふりかえなきゃいけないのは知ってるのよ……。


でもさ。


「……よかった」


もし間違ってたらって不安が、どうしてもあったんだ。

いまようやく確信できたんだ。


「よかった、よかったよおお……」


ゲームでお金が稼げるって聞いて、雑誌とか、インターネットとかいろいろ、目に穴が開くほど調べて。


私の、私のこれまでは間違いなんかじゃ、なかったんだって──。

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