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第21話 没落令嬢とマーケット


「うーーん、つっかれたー!」


 工房に帰ってきた私は、軽く背伸びする。

 火山へ行って戻ってくるまでたった数時間で、ホント色々しでかしたものよね。

 でも、山を登るのも、コウモリたちを消し飛ばすのも、とっても楽しかった。

 ドラゴンと戦うのは……ちょっと怖かったけどさ。


 モチロン、これだけで満足なんかできない。

 あの火山はこの世界のたった一部なんだもの。

私が頑張って突き進み続ければもっともっと楽しくなるはずだし、最終目標にだって近づけるんだから。


「さて、と」


今日の活動はまだまだ終わらない。

だらけ切ってしまう前に、火山で集めた素材たちをアイテムにしなくちゃ。


錬金術のテキストで、作れるものを確認した後は……調合タイムの始まりだ!

せっかく鉱石もコウモリのあれこれも山ほど手に入ったんだ、いち早くカタチにして売り飛ばして、華麗にスタートダッシュとさせてもらおう!


「【スーサイド】、オン!」




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【 インゴット 】


 Lv 12

 品質 83

 属性 火

 カテゴリ 金属・加工物

 入手方法 錬金術・鍛冶スキルで入手

 売値 ?


 生産スキルで鉱石を加工しやすい金属の棒にしたもの。

 鍛冶に使う金属としては安価で、かけだしから玄人まで人気がある。

 使った素材で属性や価値が変化し、まれに魔法の力が宿ることも。


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【 なめし革 】


 Lv 6

 品質 22

 属性 なし

 カテゴリ 布・加工物

 入手方法 錬金術・縫製スキルで入手

 売値 500エン


 動物の皮を加工したもの。

 防具の素材としては心もとないが、専門的なスキルがなくても作れるため

 貧乏な冒険者の大事な収入源となっている。


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【 毒薬のもと 】


 Lv 10

 品質 31

 属性 水

 カテゴリ 薬・毒

 入手方法 錬金術・調合で入手

 売値 600エン


 薬の材料になるアイテムをすりつぶしたもの。

 【調合薬】アイテムを精製するのに欠かせない。


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「へっへっへ……どうよ!」


 火山に行くまでの準備に、錬金術のウデもちーゃんと鍛えてるもんね。

 この程度のアイテム作りはもうラクショーってなもんよ!


「さあてと、こいつらと残りの素材を合わせて、ほかの生産職をやってる人たちにでも売りつけたいところだけど……っと」


 ウインドウを呼び出してさっそく検索をはじめる。

 あいにくながらそういう知り合いは居ないし、お店を開いて直接売ろうにも開店資金が足りない。

 じゃあNPCのお店で売る? ありえない!


このとおり、いざ売ろうにもないない尽くしだけれど。

そういう売り手にうってつけの施設がこの街にある。


「……あった、【マーケット】!」


ほとんど真反対の場所だけど、行くっきゃないでしょ!



「……なるほどね、だからあんなに統一感もなく人があふれてたのか」


この街【リヒターゼン】の西門にある広場。

私がマルジンさんに連れられて入ったあそこに【マーケット】って施設がある。

NPCもプレイヤーも問わず利用できる共用市場で、いってしまえば要らないアイテムを持ち寄って売ることができる場所。


売ってるアイテムはまさに玉石混合……そこら辺の石ころもあれば、めったに手に入らないような貴重品が投げ売り同然で売り出されていることもあるって、サイトに書いてあった。


「そっちの【回復薬】くれよ! クエスト用にほしいんだ!」


「おれにもくれー!」


「あわわ、あっちにもこっちにもお客さんが……! 皆順番に並んでくださーい!」


「ふふふふふ……!」


つまりこのごった返してる人たちは全員、私のカネヅルになりえるってこと!

そう思うとニヤニヤが止まらないわね!


「すいませーん! 販売所の斡旋をお願いしたいんですけどー!」


「あら威勢のいい声ね、マーケット本部にようこそ!」


そんなこんなで、このマーケットを管理する本部へやってくると、活発そうなお姉さんが出迎えてくれた。


「販売所のレンタルね? そしたらここに利用時間と販売形態、それとオプションの有無を書いてくれれば、私たちの方で設置してあげるわよ」


わーお至れり尽くせり。

お姉さんの言葉が終わるや否や、目の前にウィンドウが現れる。

ここから選択してってコトか。


って、露店のレイアウトひとつとっても中東風、中華風、ラテン風、果てには旧時代日本の屋台風なんてのもある。

オプションは、陳列台にタルにイスにカウンター……え、それぞれのレイアウトに合わせた服のレンタルまでやってんの!?


「なんて無駄な力の入れよう……。 って、ごめんなさい私ったら」


「そうおもうでしょー? 私も上に、そこまでやる必要ある? って言ったんだけどね」


さすがに失礼な物言いだったと思っていたら、お姉さんは軽く笑っていた。


「でも意外と好評でさ、皆結構ノリノリで借りていくのよ? お嬢ちゃんもやってみない? いい顔してるから、何着ても似合いそうだけど」


「……そ、そうかなあ?」


くっ、さすがいろんな人の対応をしてるだけある。

うっかりしてるとセールストークに乗っかってしまいそう……!


かわいい服……もうずっと着てないし、あるなら着てみたいけど、家のあれこれでうごかせる資産の9割がふっとんでる私にとっては手を伸ばしがたい品物。

とりあえず貧乏人らしく最低限のモノだけそろえてもらって……


「んん?」


デフォルトのまま簡易店舗用のゴザだけ借りようとしたところで、選択肢が2つばかり目に入った。


「……ねえお姉さん。これとこれって、組み合わせれたりするの?」



「これでよし、と」


レンタルした台の上にアイテムたちを置く。

そして制限時間を示す時計をおき、お店であることを示す看板にこう書くのだ。


「無人オークション開催中……販売期間は8時間、っと!」


そう、これは営業形態【オークション】とオプション【無人販売所】の組み合わせ。

こうしておくことで私がいない間でも勝手に取引が行われ、入札されたぶんだけ値段も吊り上がっていく……まさにいいことづくめだ。


「難点は指定が多い分、レンタル料が吊り上がっちゃうことかしらね……おかげでもうスカンピン」


でも気にしない。

今日作ったこれと火山の探索で手に入った素材……いっしょに売り払えば、十分ペイできるはず。


「頼むわよ……この後のためにも、がっつり稼いでね……!」


最後にお祈りを済ませる。

ゲームにインしてからそろそろ8時間、およそ日はとっぷり沈んでるだろう。

であればいい加減、ごはんも食べたい頃合いだ。


「そしたらお赤飯をレンチンして、流子ちゃんを待っていようかしら……! なんてったって今日はおめでたい……初めて収入を得た日なんだから!」


……そんなタヌキの皮算用を爆発させながら、私は家への帰路を急ぐのでした。



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