「おーっほっほっほ!」
こんな気取った笑いをする奴は、ファラ以外いるはずがない! そう思って、さっき彼女がいたはずの場所を見上げると。
「えっと……」
なんというか、めちゃくちゃ反応に困る物体があった。
ぱっと見は完全にバランスボールのそれだ。そのシュールさもそうなんだけど、何より――
「お前、実況者としてそれはどうなんだ? 一発芸みたいになってるぞ」
「……その、ごめんね? 好きほーだいやっちゃって」
そのてっぺんからひょっこりとファラが顔をのぞかせているという、あまりにもあまりにもな惨状になっていたことだ。
「シャーラップ! これなるは性能に反してあまりにもな画ヅラの為にお蔵入りを決めていた秘中の秘、禁じ手なのです! 私だってお披露目をするとは思いませんでしたわ!」
とぷん、と音を立てそのままファラはボールの中へ入った。
真偽のほどは定かじゃないけど、あれで大真面目に何かをするらしい。
けれどどう見てもさっぱりだ。
あんな玉みたいになって一体何をするんだろう……?
「照準、ヨシ!」
ショウジュン?
「方位角ヨシ!」
ホウイカク?
「目標、前方ゴール地点! 水力充填開始ですわ!」
この言葉を聞いた瞬間、私とアルは顔を見合わせた。
マズい!
ファラのやつ、自分を魔法で撃ち出して直接ゴールに乗り込む気だ!
「真っ向勝負で負けそうだからって逃げるつもり!?」
「負ける? 逃げる? なにをおっしゃいますの! これは試合などではなくレースという戦場……ならば試されるのは速さや力だけではありませんことよ!」
くっそー、ああいえばこういう奴め!
「【クラッシュピラー】!」
口の減らないファラに地団太を踏んでいる私をよそに、アルは地面に剣を突き刺していた!
すぐ下の壁を突き破って現れた刃は、ゴールの祠に向かって伸びていく……!
「アル! これって……」
「いいから走れ! 文句を言う暇も、俺を見る暇もないぞ! お前は前しか向かないんだろ!」
「……うん!」
刃の道の上にジャンプ。
刀身を長く出しているせいか乗った衝撃で大きく揺れる!
「わっったたった!!」
「おーっほっほ! そのような道でマグマを渡ろうというのですか、無謀ですわね!」
上から余裕しゃくしゃくのファラの笑い声が聞こえてくる。
「無謀でいい! 私は道さえなかったんだから!」
「どこまでも荒々しい娘ですわね! 発射準備、ヨシ!」
「くそっ、早く! 早く伸びろ!」
祈るようにアルは叫ぶけど悲しいかな、刃はその思いを汲んでくれない!
ファラの準備も出来上がった、アルは剣の道を作るのに手が離せない!
支えてる壁から離れるほど、刃は足場として心もとなくなっていく!
いちいち動くたびにビヨンビヨン震えて……待てよ?
「これで私の勝利です! 最後まで食らいつくそのしぶとさは見事でしたが、もうここまでですわ! 発射!」
ファラは十分着地できるように大砲を山なりに撃つはずだ。
だったらいける、バランスボールのような水から一気にファラが発射される、そこに合わせて私は!!
「ま、だ、だあああああああああ!」
刃のしなりをつかってジャンプ台の要領で大ジャンプし、ファラが飛ぶ射線にかぶさる!
「な、なんてことしますのーーーー!? 当たったらただじゃすまないですわよ!!」
「当たったらじゃないわ! 当たりにいってんのよ!!」
そのままものすごい勢いで飛んでくるファラを抱きとめるようにつかむ!
言葉をはさめないくらいの衝撃で跳ね飛ばされそうだったけど、何とかつかみ取った!
「私のようにやらなくてはいけないわけでもないのに、たった1回の勝利に何をムキになってますの! ここまでこれたのなら次も、その次もありますわよ! 今回はここまでとあきらめて――」
「私にここまでなんか、ない!」
わめくようなファラの声を一括で黙らせる!
「今も、これから先も、止まって振り返った道には何もない! 何も残ってない! 慰めになるものもない! だから走るんだ! 私は強欲だから! 全部ほしいから! 何もかもなきゃ満足しないから走るんだーー!!!」
離さない、逃がさない、手放したりなんかしない、取り返す!
それだけが頭の中で渦巻いてて。
「――――――!! ――――!」
「―――! ――――!」
風を切る音も、ファラやアルの声も、何もかも聞こえなくて。
そのまま私は浮島の中心、火山の祠の屋根に頭から突っ込んだ。
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条件「高さ20メートル以上から落下しダメージを受ける」達成! 【クラックフォール】獲得!
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