イグニール大洞穴の下層は、らせん階段のように最下層に下っていく吹き抜けの構造になっていた。
煮えたぎるマグマに取り囲まれた中心部には、浮島と……何か祠みたいなものが置かれている。
あれが最下層、ゴールってことでいいんだろう。
そこに至る通路は常に灼熱の熱風が吹き上がり、熱で焼けた岩と地面の【焦熱】地獄。そんなところで私たちは――
「うーーわーー!」
「待ちなさーーい!」
死ぬ気の追いかけっこをしていた!
状況を理解する寸前、いち早く私の襟をつかんで走ったアルのおかげで何とか先んじてはいるけど、このままファラが黙っているわけがない!
「無数の氷槍よ、すべてを貫け! 【アイス・ヴェレ】!」
ファラの持つ本が光ると同時に、当たったらただじゃすまない大きさ――人の顔くらいはあるツララが10や20じゃきかないくらいたくさん現れた!
「私にたてついたこと、後悔しなさいな!」
一つ一つは綺麗なクセに優雅さの欠片もないツララは一気にこっちへ襲い掛かる!
ブリッツで1個ずつ撃ち落としてたんじゃ間に合わない!
「かわせる道、かわせる道……よし!」
そんな私に比べてアルは冷静さを崩さない!
わき目も降らず走っていたはずなのにジャンプして岩へ、そして
「舌、噛むなよ──!」
「うおぁあ!」
とびのった岩の上で思い切り踏み込み、更にジャンプ!
無数のツララを大ジャンプでかわしてしまった!
「なっ、なぜ真後ろの攻撃に反応できるのです!?」
「お前もさっき言ってただろ……っと!」
「【警戒心】……!」
さっきの戦闘で取得してたのね、やるぅ!
「ならば!」
だけどまだあきらめてないのかファラは何かつぶやき始める! 手に水の魔力を集め始めて、激流の刃に変えていく……さっき見たヤツ!
「そこならば、かわせませんわよね!? 二人まとめてマグマに叩き落として差し上げますわ!」
いくら行動を先読みできたって、空中じゃうまく動けない!
けど──射線が筒抜けよ、ファラ!
「【スーサイド】、オン! 【ブリッツ】!」
「くっ!」
上から雷を放つ!
当然ファラはすぐに激流の剣で受け止める!
「ブリッツブリッツブリッツブリッツブリッツブリッツブリッツブリッツブリッツーー!!」
それが狙いだ!
あんたはそうやって迎え撃つしかかわす方法がない!
これはレース、前に走れなきゃ勝てないものね!
であればこうやって釘付けにしているだけで勝ちなのだけど……それじゃあつまらない!
腕輪で威力の上がる雷を絶え間なく飛ばして、吹き飛ばしてやる!!
「これで、おわりだーーーーっ!」
「ぐっ、うう……うあああああああっ!!!」
何かが砕けるような音と同時、ファラの悲鳴染みた声が響き渡り、雷による爆発が起こる。
舞い上がる白煙から、ファラの姿は出てこない……ってことは、
「やっ――たの?」
「わからない」
煙から出てこないのが不気味すぎる。
もしかしたらさっきの雷でHPがまとめて吹き飛んで、死んでしまったのかもしれない。しれないんだけど……
だけど……でもそんなに都合よくいくんだろうか?
頼むからそうであってくれ! って思う自分と、まだ何かある! って思う自分が両方いて、なんだか複雑な気分になってくる。
「とにかく急ごう……生きてようがロストしてようが、ゴールすれば勝ちなんだ」
「……うん」
たしかにアルの言う通りだ。
煙の中でファラが何かを企んでいるのなら、なおさら私たちは先を急いだほうがいい。
邪魔をされることはもうないのだから、このままペースを緩めちゃだめだ――
「おーーーっほっほっほ!」
そう思って足に力を入れた矢先のことだった。
この吹き抜けに思いっきり響き渡るんじゃってくらいの哄笑が上からしてきたのである。