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第12話 没落令嬢と灼熱の洞窟


「はあっ、はあっ──」


 ファラとの距離を少しでも稼ぐため、私たちは洞穴内部をひたすら走る。

 街を出てからここまでろくに休んでないし、私でも疲れを隠せなくなってきた!

 アルなんかもっとヤバい。

 私に合わせてペースを落としてくれてるんだと思ってたけど、どんどん落ちていってゼーゼー言いながら私の後ろを走ってる。


「アル! これ食べて!」


「悪い!」


 こういう時はこいつの出番だ。

 いろいろなきのみを砕いてパンと混ぜた【コンバットレーション】。

 HPとスタミナを回復させるほか、お腹にたまる特性でしばらくの間スタミナ減少を抑えてくれる栄養食!


「ぶーーーー!」


 ……なんだけど、こいつ噛んだとたんに噴き出しやがった!


「こら吐き出すなー!」


「ごめん、苦いし臭くて……お前これに何入れた?」


 軽くむせながらアルが問いかけてくる。

 心なしか苦々しい目を向けながら。


「いろいろ入れたわよー! くり、イモ、道端のブルーベリー、どんぐり、木から落ちたきのみ、あと……」


「他にないか?」


「ないわよ」


「食べるしか、ないのか……」


 なんでパンを見つめながらそんな絞り出すような声出すのよー!

 リアルのパンだってくるみとか入ってるのだってあるじゃん!


 それでもまだあきらめがつかないのかアルはクエルダケマシクエルダケマシ……と祈り始めた。はよ食え!


「そんなことより、この先がどうなってるかってわからない? 一度入ったことあるんでしょ」


「もご……たしか二手に道が分かれてる」


「分かれ道か。まえはどっちに行ったの?」


「右。 フロアの番人と戦ったのを覚えてる……これがすばしっこいうえにステージも広くてな」


「中ボスエリア、かしらね……」


 きっと左も同じく中ボスエリアか、それと同じくらいの何かだろうなあとは思う。

 ここで絶対にあっちゃいけないのは行った先のボス戦で苦戦でもしてファラに追いつかれること。


 しょっぱなから攻撃してくるくらいだ、傷ついてると知れれば嬉々としてこっちを狙ってきて、そこから三つ巴だ!


「見えてきたぞ! どっちに行く!?」


 ここが運命の分かれ道……とするなら右は却下だ。

 広いステージと私は相性が悪いもの。


「左! 左に行くわよ、アル!」



『ファラ様―!!』

『うるっせえ!』

『スキルを乱射できるスタイルなんかな? 【放蕩主義】とか』

『<それの条件って一度に50万エン使うとかそんなんじゃなかったか? 多分ベータ組じゃないだろ、とれんのか?』

『それより最後の直撃でファラ様のHP4分の1くらいまで減ってたぞ……? いずれにせよヤバいぜ』




 流れてくるコメントを流し見しながら、左側の曲がりくねった道を進んでいく。

 ヤバいやつ扱いされるのは心外だけど、それ以上に参考になることも多い。


 それだけ私よりいろいろ知っている人がいるんだ、と感心させられる。


「【放蕩主義】なんて、ホント何でもあるのね……」


「VRMMOってのは本人の性格や信条がゲームに現れるようデザインされてるのが多いからな……まあ、ここまでそれを前に出すゲームってのは少ないけど」


「プレイした本人のクセをそのままスキルにしちゃうんだもんね……【臆病者】とか」


「ありゃ冤罪だ、俺のクリエイトのとき出てきたじいさんが『生産職はいいぞアルフォンスよ……』とかくどくど言うから!」


「おじいさんの言葉くらいありがたく受けときなさいよ、錬金術士はいいわよ」


「お前を見たらやる気がなくなるわ!」


「どーゆー意味よ!」


 コメントを見ても『せやな』だの『ふつーに不遇だもんな』とか『完全同意』とかこいつら本当に好き勝手言いやがって!


「アルもあんたたちも、口を開けば不遇不遇ってきめつけて気合いが足りないのよ! 気合いと頭を利かせば、べつにどんな職業でもやってけるでしょ──」


 ん?

 なんだか最後、急に声が小さくなったような……


 アルもだ。

 なんだか慌てた様子で、あたりを見回してぱくぱくしてる。

 何よ、もしかしてここにきてバグでも起きたわけじゃないわよね。


 そう思って一歩踏み出すとぞぶり、と明らかに地面じゃない感触が!


「ぅぁ──!?」


 大きくよろめいた私を、アルがつかんで支える。


あーもーなんなのよ。

 曲がりくねった道を抜けたと思ったら、今度は真っ暗闇の部屋。

 足元は沼みたいにドロドロで、声はやたらと聴きにくい。あとついでにクサい!


「リーズ、ここやべえぞ! 急いで戻った方が」


「戻る? 今更むりでしょ。戻ったところでファラがいるんだし、ここを突っ切らないと」


「気づいてないのか!? ここはきっと―――」


 聞こえるような大声で問答を始めたのがまずかったか。

 もしくは最初から、こうなる仕様だったのか。


「キー!!」


 甲高く長い鳴き声がしたかと思ったら、壁中から一斉におんなじ声が大合唱を始めた!

 そして壁は――いや、コウモリのモンスターはどんどんはがれていき、こちらに向かって次々ととびかかってきた!


 ――モンスター・ハウス。

 大量のモンスターが巣くうこの名前を知ったのは、この騒動の後のこと。



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