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第11話 没落令嬢と水と氷


 イグニール大洞穴。

 ベータ時代、あまたの挑戦者を返り討ちにし続けたこのほら穴は、頂上の入り口から火山の中心へ下っていく天然の迷路だという。

 モンスターたちのレベルは平原にいる連中なんかよりずっと強いし、並のプレイヤーじゃあ入口にたどり着くこともできず、着いたとしても中の焦熱地獄でHPを削られ尽くすという、まさしく圧倒的な要塞だった。


 ゆえに鬼畜ダンジョンであるとウワサが立ち、瞬く間に伝説となったのだ──。

 けれど、今日をもってその伝説は幕を閉じることになる。


「ルールは簡単! このダンジョンの最深部にどちらが先に着くかを競う! それだけですわ!」


 このファラか私たちか、どちらかの手によって。


「……結局ファラと争うことになっちまったな」


「いいわよ、私は望むところ。 あの女の鼻を折ってやるのが目的だし」


 ファラが企画を視聴者に説明するあいだ、私たちは洞穴の入り口で話し合う。


「でも私より先にアルがケンカ吹っ掛けるとか思わなかったわ」


「そりゃ乱闘になったら勝てないからな」


「うぐ」


 あのまま言い争いになっていたら間違いなく私が手をあげて、そのままルール無用の乱闘騒ぎになってた。

 何でもありの状態じゃファラに勝てる可能性は限りなく低い。

私たちはそのままファラに蹴散らされておしまいだっただろう。


「でも私のことそこまで信用してくれるんだね、ちょっとうれしいカモ」


「いやなんというか……気づいたらいろいろ言っちまってた」


 ……おいおい染まるの早すぎか?

 まだ出会ってから2日しかたってないのに。


「ねえアル、もしかしてその友達……マリーさんだっけ、からなんか言われてない?」


「んー? 特にはなにも……なんかよくむくれてたりするくらいか?」


 ぬけぬけと返してきたアルに私は頭を抱えた。

 そういうのですよそういうの。この天然ヤロウめ。


「……なんだその目は」


「別に~! 苦労してそうだなーっておもっただけー!」


「アルフォンス! 蛮族娘!」


 私の言葉の意味が分からないらしいアルが小首をかしげていると、ファラが振り向きざまに、私たちを呼ぶ……って!


「蛮族娘ってやめろ!」


「互いを監視するため、あなた方も動画配信をなさい、ありえないとは思いますがチート行為などは言語道断ですからね」


「はいしん?」


 いきなりの言葉に私はぽかんとしてしまった。

 そういえば配信動画ってどうやって作ってるんだろう?

 ゲームの世界とはいえ、録画するんだからカメラとかいるんじゃないの?


「……なんで固まってますの?」


「あー、こいつ初心者だから……リーズ!」


「……おほほ、仲のよろしいことで──これより彼らと配信をしながら、最深部まで競争いたします! 皆様の中にもし、彼女たちの勇姿をご覧になりたい方がいらっしゃればURLからご覧くださいませ──」


 そういうとファラはスカートのすそをつまみながら、お行儀よく一礼した。

 そしてアルと私の真横に立つ。


「負けた方はおとなしく引き下がる、約束ですわよ」


「そっちこそ! 負けても文句言わないでよね!」


 こうなってしまった以上、もう引き下がれない!

 ファラに勝って、私はもっと先へ進むんだ!


『わこつ』

『わこわこ』

『せめて無様に負けるなよー』


「よし、つながった」


 観客のコメントも流れてきてなんだかテンション上がってきた!

 でも基本無視! なんたってレースに集中できないもんね!


「行きますわよ、よーーーい……」


 アルが、ファラが、私が。

洞穴と外の境目で走る構えをとる。


向かう先は闇の中。

何が待ってるかなんて知らないけど、私は前に前に進んで──勝つ!


「スタート!【スプレッド】!」


 始まった瞬間、ファラの魔法でまた足元が崩れだした……!

 ってバカの一つ覚えか! さっきと全く同じ攻撃しやがって!


「走れ!」


 アルの叫びにはもう合わせてたけど、私は素早さになんか振ってないからギリギリ間に合わない!


「リーズ!」


 水の吹き上がる寸前、私より先にいるアルがこっちに手を伸ばす!

 ええいこなくそー!


「よしっ!」


 手と手が触れる! 間違いなくアルの手!

 それをつかめば、筋力のあるアルが後は引っ張ってくれる!


「さすがに二度も引っかかりませんか!」


 すぐさまファラは私たちを追い始める!

 アルの【臆病者】のおかげか、並走までには至らないけど斜めすぐ後ろにぴったりだ!


「ちょっと卑怯じゃない!?」


「いいから走れ、次が来るぞ!」


「おーっほっほ! 私は妨害を禁止にした覚えはありませんわよ!」


 こいつ!

 なおもファラは手持ちの本を開いて、追撃の魔法!


「水よ、流麗な歌を奏でろ!【ヴァッサーブルーム】!」


空いた手に水をまとわせ、形になっていくのは大きく反りあがった激流の剣!

 横に払われたら絶対当たるじゃないあんなの!


「リーズ、さっきの氷爆弾まだ残ってるか!?」


「え、ええ?」


急にアルから話題を振られて声が上ずってしまった。

【スニーク】? なんで? 在庫はあるけど今それをファラにぶつけても……!

あ、そっか!


「何をごちゃごちゃと! 一気に薙ぎ払ってくれますわ!」


「いっけえ!」


 剣を振りかぶったところに、私は【スニーク】を投げつけた!

狙うは強く踏み込むであろう、足──!


「あらーっ!?」


 すると凍り付いた地面でファラはスリップ!

 見事に足を空回りさせて、すっころんだ!


「【スーサイド】オン!」


 まだまだ!

 そのすきに差し込むように、私はスーサイドを発動!


「ブリッツブリッツブリッツブリッツーー!」


 完全に離れるまでに何発か電撃を浴びせてやった!



『ファラ様――――!』

『何が起きた!?』

『雷魔法ってこんなクールタイム早いのか!?』



 コメントは阿鼻叫喚!

 まあ完全アウェーだし仕方ないか!

 それにしても、人の反応がこんなにすぐ来るのってちょっと面白いわね……。

何かお金稼ぎに使えないかしら……


「す、すまん……ちょっと自分で走ってくれ!」


「ごめんごめん!」


 おっと、今はやってる場合じゃない!

 軽く肩で息をし始めたアルの言葉で現実に立ち戻った私は、アルの手を放し、洞穴の奥へと走り始めたのだった――。




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