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第10話 没落令嬢と蛮族


「皆様、これが【警戒心】の力ですわ! どの方角から攻撃が来るかを教えてくださいますの! 私もお勧めするスキルです! ただし狙いすぎて【臆病者】などにならぬよう、十分お気つけなさいませ!」


「アル、大丈夫!?」


 勝ち誇ったようなファラの声を聞きながら、いっしょに投げ出されたアルの方を見る。

 よかった、大したダメージはなさそう。

 それにしても!


「いきなりなにすんのよ!」


「こっちのセリフですわよ! アンチかどうかは知りませんが配信のOPでいきなり襲撃をはかるなんて、おイタが過ぎるのではなくって?」


「正論すぎる……」


「アル!」


 ぼそりとした呟やき、しっかり聞こえました!

 あんたはどっちの味方よ!


「アル……もしやアルフォンス?」


「……なら何だってんだ」


 名前を呼ばれた瞬間アルが不機嫌そうに返す。

 しかしそんなこと気に留めず、ファラは周りを見渡しながら、アルの彼女の名前を呼ぶのだ。


「ということはマリー! いるのでしょう? あなたのしもべたちはこちらの手の内ですわ、大人しく出てきなさいな!」


「いねーよ」


「おーっほっほ、嘘おっしゃい! βテスト中、ほとんど常に彼女の後ろでコソコソとしていたくせに!」


 短くすっぱりと返したアルだけど、ファラは不敵に笑う。

 えーーっと、アル?


「話が見えないんだけど……そのマリーってひと、なに?」


「前言った知り合いだよ、ちょっとした有名人なんだ」


「有名人どころか、このゲームのトッププレイヤーのひとりです! β時代ではことあるごとにぶつかり合い、しのぎを削ったモノですわ……で!」


 ファラは私の方へ詰め寄ってくる。

 そしてまじまじと見つめた後に……。


「……この子は何者ですの? こんな野蛮な、しかも女性を連れまわすとか本来のパートナーに恥をかかせるつもりですの!? それにこの子は【錬金術士】……生産職ではありませんか! そんな足手まとい、さっさと工房でアイテムでも作らせてなさいな!」


 何よ、生産職だからってダンジョンに来ちゃいけないわけ!?

 私だってこの辺のモンスター程度ならじゅーぶんやれるのに、なんともひどい言い草だ。

 今すぐにこの女の顔面へ電撃を浴びせてやりたい……けど!


「……撤回したほうがいいぜ」


 それはすんでで飲み込んだ。

 言われっぱなしだったアルが、なんとここにきて言葉を返し始めたのである。


「……今なんと?」


「生産職だって戦えるんだよ、ファラ。 特にこいつはお前の取り巻きなんかよりよっぽど強いぞ。 すっげー見苦しいし、やかましいけど」


 あれ、私褒められてる? けなされてる?


「それでも、土壇場の根性と力がこいつにはある。 生産職だからって足手まといとは限らないんだ」


 ぎらりとした目でアルがファラを見上げていた。

 ……ひゅー! たまにはアルも言ってくれるじゃん!


「そーよ、私たち二人舐めてかかると痛い目見るわよ!」


 私も負けてられない!

 勝負事は舐められたら負け。最初の勢いがすべてを決めるといっても過言じゃないもの。


「ほほ……おーっほっほ! 勇ましいですこと! イイでしょう、そこまで言うなら私が試して差し上げますわ!」


「お? やるかー!?」


杖もアイテムも、戦闘準備はいつだって万端だ。

よーいドンの合図1つさえあれば、いつだって黒焦げにしてあげるわよ!


「もはや蛮族ですわね……! ですから、ダンジョン攻略の片手間にお相手して差し上げます! 【無限民話】初の攻略動画が、ただあなた方をのしてから攻略ではつまらないですもの! トッププレイヤーとして、あなたたちに洗礼を与えて差し上げましてよ!」


「……つまりどういうこと?」


「普通の勝負じゃ負けるわけないからダンジョン攻略の速さで勝負だとよ、完全にナメられてる」


「はっ、上等!」


 そんじゃあ、お望み通り一泡、いやふたつ合わせて十泡ふかしてやる!



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