「ほらアルー! はやくー!」
「待ってくれよリーズー……」
最後の坂を上り切り、無事洞穴前に到着!
どーよ、これぞスタミナ極振りの面目躍如!
荒れ地だろうが山道だろうが関係なく、前へ突き進めるのだ!
「誰もお前みたいに、体力オバケじゃねえんだからさ……!」
休みなしで登ってきたからか、アルは肩で息をしながら私の通った道を下からゆっくり歩いてくる。
山登りなんてしたことないからわかんないけど、こうなっちゃうものなのかな?
「なーに言ってんのよ、ファラが来ちゃうかもしれないのに!」
ファラは今日この日をもって、このダンジョンの不敗神話を終わらせると豪語した。とうぜん洞穴に至るまでの最短ルートだって知ってるはずだ。
実力も段違いでかなり不利だけど、勝算はある。
錬金術で作った秘密兵器たちと、私のスタミナ、そしてアル……この3つがあればファラに付け入るスキは出てくるはず。
「私の前で令嬢を名乗ったのが運の尽きよ、ホンモノの力思い知らせてやるんだから……!」
この戦いに勝てれば令嬢=オホホな悪役というこの世の不条理に一石を投じ、なおかつ私は未踏ダンジョン初の攻略者として一躍有名になる。
そんな中で攻略に使ったアイテムを売りに出せれば大儲け間違いナシ! 一石三鳥でスタートダッシュにしては最高の結果よね!
「ふふふふふふふふ……」
まずいまずい笑顔が止まらん。
まだダンジョン攻略できてないのにこれはいけないわよね。
アイテムボックスからさっきおじさんにぶっかけたツボを取り出し、下準備。
というのもこのツボ、入れ物として調合したせいなのか中に水を入れてかき混ぜるだけで毒薬として使えるようにしてくれるという、貧乏人にはありがたいアイテムなのだ。
「おい、ついた……みず~」
「はいはいお疲れ様、水ねー」
ようやっと来たアルも疲労困憊だし、ついでに少し休憩しましょうか。
アルご所望の水を出しておいておく……一応言っとくけど、ツボから出してないからね!
「その杖、まだ捨ててなかったんだな」
へたり込んだアルが汚染水のかき混ぜ棒になってる私の杖を見ながら続ける。
「そーよ、なんたって私の初めての武器だもの!」
「おまえ、甲子園の土とかライブチケットの半券とか記念に取っとくタイプか?」
「……よくわかったわね」
「捨てとけ捨てとけ。 そんなもの後生大事にとっておいたってかき混ぜ棒くらいにしか使うところないだろ……まあ、いいけどよ」
私の返事に対してアルはため息交じりに返してきやがった。
かき混ぜ棒に使うからいいもんうるせーやい。
「おーほっほっほ!」
そんなやり取りをしながらも混ぜていると入口の方からとつぜん声がした。
黒い長髪とマントの下にスリットのあるマーメイドドレス、間違いない……けど、
「なんでファラがいるのよ!?」
ファラがもう、洞穴前に着地してる!?
さっきまでそこには誰もいなかったはずなのに……!
「インチキ!?」
「【イカロスの羽】! 一度行った場所の近くに一瞬で飛べるアイテムだ!」
「というわけで洞穴前からごきげんよう! 私も初めての試みでしたが、成功しましたわね!」
どうやらアルの言う通り、普通にアイテムを使った成果みたい。
……というかそんな便利アイテムあるんかい!
「シモベの皆様も、ダンジョン攻略する際には一度下見をしておくことをすすめますわ! それもせずに回復アイテムを大量に持ち込むのはもちろん、『一気にダンジョンを攻略するためだけにスタミナ振り』など愚の骨頂ですわよ!」
……かちん☆
いや言わんとするところはわかる。こうやってワープ用のアイテムがある以上、スタミナ関連の問題はある程度緩和される。
けどさあ、頭ごなしに否定するのはやっぱ違くない?
「…………」
「ステイ」
杖を持ち出そうとしたのに気づいたアルが、動かすまいと肩をつかんだ。
ちくしょー! なんで気づいたのよ!
「なんで止めるのよ!」
「そんなギラギラした目してたら誰だって止めるわ! ジッとしてろ!」
「いやよ! あの顔に電撃ぶつけてやる!」
「ファラはさっきの連中とは格が違う! ここでやられたら元も子もないし、もし仮に倒せたとしても復活してすぐとんぼ返りされるだけだろ!」
「ぐ、ぬぬぬぬ!」
私はとっても冷静だから、アルの言うこともよく分かった。
相手はのっけからこっちと比べて優勢。体制を整えさえすればすぐにここまで戻ってこれるもの。
今下手に手を出すときじゃない。
だったらせめて、どうにかして先に洞穴に入る方法を……、
「やべえ!」
「ぐえっ!?」
考え始めた矢先にアルが突然動き出し、私の首根っこをつかんだ。
そしてなんでかすぐに離れようと、足に力をこめる!
「くせ者、見つけたりですわ!!」
しかしいざ駆けだそうとしたそのとき、目ざとくこっちを見つけたファラは右手を振り上げ、
「水よ、あの者を打ち上げよ! 【スプレッド】!」
踏み込んだその場所から、勢いよく水を噴き出させたのだ!
「げ――!」
踏み込む場所そのものがなくなってしまったらなすすべはない。
私たちは無様にも水流に打ち上げられ、洞穴の前へ、
「まったく、マナーのなってないオーディエンスもいたものですわね!」
ファラの前へと、投げ出されてしまった。