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第8話 没落令嬢と対人戦


その後町へ繰り出した私たちは、最後の準備として装備品をいくつか購入した。

お金は使いたくないけど、錬金術では装備品を違うモノに変化させることはできても、1から作ることはできないからしかたない。


 さすがにそこはほかの生産職の了見だ。

 錬金術がそこまでできたら、鍛冶屋だの仕立て屋だのいらないもんね……と思ってたら、


「それ、払ってやるよ」


 なんと、アルがいくつか代金をおごってくれたのである!

 【臆病者】をどうにかするためなんだけど、これは助かる! ありがとう!


 ちなみにこの後、偶然Iクリスタルを見つけて、じゃあついでにとおごらせようとしたけどチョップでお支払いされた。いたい。


「ちゃんと装備しただろうな」


「しましたよーだ!」


 というわけで、左右にいくつもリングがついてるロッド【錬金術士の杖】をはじめ、【ボルテージバングル】【ライデンチョーカー】の3つが付いた私のステータス……というかHPは500と大きく伸びた。

ってことで、火山にレッツゴー!


 *


 リヒターゼンを南西抜けて進んでいけば火山のふもとにたどり着く。

 アルいわく、そこまでの街道は初心者フィールドという扱いで、山道まではラクにたどり着けるらしい。


「いいぞリーズ! そのまま逃げられないように撃つんだ!」


「おっけ、【スーサイド】オン! うららららーーっ!」


「ギャヒーーッ!」


 実際、こんな感じでラクに倒せる奴らばっかり。

 なのでアルの提案で、道すがら連携の練習相手になってもらってる。


 ━━━━━━YOU WIN!━━━━━━


 モンスターの討伐成功!


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「ふう……もうゴブリンなんかヘでもないんだなあ、ちょっとカンドーかも」


「そうか? レベル上げて装備も替えて、更にパーティ組んでるんだ、こんなもんだろ」


そりゃそうなんだけどさ……。


「私、初めてゴブリンと戦った時なんかほとんど一方的にボコられてたのよ。こんな有様でこの先やっていけるの? って思っちゃうくらい」


結果としてどうにかなったけど、その後も次々と問題は発生した。

お金がなかったり、掃除できなかったり、アイテムが作れなかったり――私はそのたんびに泣いたりわめいたりしてばかりいた。

改めて思い返すとヤバい子ね私……かんしゃくのケでもあるのかしら。


「けどこうやってまた向き合った時、拍子抜けなくらいラクになっててさ、ハッキリわかったのよ──私もちょっとは進歩してるんだなって」


「お前……」


「私初めてだから的外れかもしれないけどさ、すっごくうれしいの! ──アルはそういうこと、なかった?」


「……そういうこともあったかもな、いろいろやってるからあまり覚えてないや」


私の言葉にかえしつつアルは隣を抜けていく。

うーむ、さすがにゲーマーだと慣れっこみたいね……。


「けどこれだけは言えるぜ、この先もお前はずーっと感動しきりになるだろうな」


「……あはは、そうかも!」


──そう言ってアルに追いつこうとした時だった。

視界のすみで何かがきらりと光ったと思ったら、


「あぶねえリーズ!!」


「えっ」


突然アルが私の前にたち、金属同士ががきんとぶつかり合う音がした。

な、なに!?

アルのギザギザな剣、【フランベルジュ】に弾かれたなにかはひゅんひゅんと宙を舞い、街道のはじに突き刺さった!


「え、矢……?」


 その形を直視したとき、理解する。

 いま私、誰かに狙われて……!


「弓職が草むらから狙ってる、山まで走るぞ!」


「うわわわわっ!?」


「そいつは困るなあ」


 そして次。

 私たちを陰ですっぽりと覆えるほど大きな人が、草むらからぬうと現れた!

現れたのは逆光を常に浴びてるのかってくらいの真っ黒な全身鎧。

そんないでたちのおじさんはゆっくり、間延びした声でしゃべる。


「この先の火山には近づいてはいけないよ? 公開収録の邪魔になるからね」


 いいながら彼は右手の斧を頭上へふりあげる。

 いかにもいうことを聞かないならまとめて──って感じ。


「あんたたちがウワサの、ファラの過激派信者ってやつかしら……?」


 なんでこんなとこにとも思ったけど、1人も逃したくないなら視界の悪い山なんかで見張るより、実質1本道のここで待ち構えてればいいもんね。


「心外だなぁ、僕らだってただのファンさ。 ちょーっと心配性なね。 輝かしくある彼女には当然、変な虫も湧くだろう? だからこうやって汚れ仕事をして」


「でりゃあ!」


「げぶぅ!?」


 そんなに汚れたいならこれでも飲んでろ。

 保護者気取りのおじさんが長話を始めたスキに、アイテムボックスから水の溜まったツボを出して中身をぶっかけた。


「あっつ! あっつ! あっつぁ!?」


マジックポットのツボに水と産業廃棄物を混ぜた秘密兵器、【湧き立つ汚染水】!

 ツボの魔力で醸成させた汚染水には力が宿る!

 かかれば毒か麻痺の状態異常……HPじわじわ減ってるし、少なくとも毒にはなったわね!


「旦那ぁ!?」


 そしたら街道の外から若いおにーさんの声!

 多分弓を射ったやつ!


「アル、お願い!」


「わかった――いっけえ【ブレイドインパルス】!」


 横にいるアルの呼びかけに合わせて剣が光りだし、飛ぶ斬撃となって声のした方へ襲いかかる!


「しまっ、ぎゃぁぁぁあ!!」


「よっし!」


 ヒットを確信した私はガッツポーズ!

 あとはそこで悶えてるおじさんだけだし、これは私たちの勝ちでしょ!


「いや、もう1人だ! 油断するな!」


「あーもう! 役に立たない前衛ね!」


 アルの言葉通り、顔中真っ白で派手なメイクをした女の人が保護者気取りをかばうように現れた!

 丸っこい羽付き帽子にストール姿は吟遊詩人? でもなんでこんなに前に?

 確か後衛で支援する職業のはずじゃあーー


「【スクリーム】!」


 瞬間!

 つまびかれたギターからとんでもない不協和音と波動が流れ出し、私たちは一気に吹き飛ばされた!


 そこからさらに吟遊詩人?は追撃!

 ギュインと音を奏でると空気が渦巻き、私に向かって射出される!


「【ショッキングブルーメ】!」


「やばっーー」


 かわせない!

 それなら──開きっぱなしにしてたウィンドウに手を伸ばす。

 被弾は仕方ない、こんなところで秘密兵器をたくさん使いたかないけど。


「【クラッシュピラー】!」


そんな私を助けたのは剣を地面に突き刺したアルの魔法だ。

地面から貫くように現れた巨大な刃が、風と音で作られた弾を弾き私の身を守ってくれた。

 けどそのあと何度も叩きつけられる風がマジで怖い!ガリガリ聞こえる!


「大丈夫か?」


「ひええ……なによあれ、なんで吟遊詩人がロック奏でて攻撃してくるの!?」


「ロックもまあ音楽だしな……あれがあいつのスタイルなんだろう」


なんてこった……そういうのも許容するの、このゲーム!?


「ぐっ、うう……」


「ほら、おきなよオジサン! ファラ様のタメにさ、自慢の斧であの剣叩きおってくんなよ!」


 盾になってる刃の向こうでおじさんも起き上がったみたい!

 ロック女がこんなに厄介なのに、壁になる鎧騎士が合わさったら手がつけられなくなる……けど。


「逃げるか? いまなら草むらに飛び込んで迂回もできるぞ?」


「じょーだん! 私、前しか向かないから!」


 こんなとこでメゲるようなら、どっちみち火山なんて無理に決まってる!

 それに、まだ秘密兵器はあるしね!


「ぬおおおおりゃああああああ!」


「アルはロック女まで回り込んで! 鎧騎士はどうにかするから!」


「がってん!」


 おじさんの斧が刃の壁を粉砕したのを見計らって、私たちは左右にわかれる!


「逃がさんぞお!」


 そうはさせまいと、保護者気取りは横スイング。

私たちをまとめてなぎ払おうって気ね──それこそさせない!

私はアイテムボックスから3つ目の秘密兵器を取り出して、そのまま叩きつけてやった!


「【スニーク】!」


 触れたものを氷漬けにする爆弾!

 リキッドウェアの中身を固めるのに作った弱いモノだけど、鎧で鈍い上に汚染水でずぶ濡れな彼には効果てきめん。

 一瞬で右半身を氷漬けにしちゃった!


「スキあり、【スーサイド】オン! りゃりゃりゃりゃりゃあああ!」


「ぐわあああああっ!!?」


 茂みに飛び込んだアルを見てから、私はブリッツを乱射! 保護者気取りのHPを一気に削りとっていく!


「あーもう世話のかかる! 【バンデットスクリーム】!」


 途中でロック女が風の魔力弾で割って入ろうとするけど、


「む、だ、だあああああああ! 【ブリッツ】ーーーー!」


 もう遅い!

 気合の一発で保護者気取りごとそれをなぎ払った!


「なっ!?」


「にいいいいいいいーーーー!!?」


 雷の初期魔法にこんなに威力があったら、そりゃあそうもなるわね!

 私もちょっとびびってる!

 カラクリは装備してるボルテージバングル。

 これの効果は、同じスキルを連続で使うほど威力が上がっていくんだ。

 スーサイドでクールタイム?とか言うの無視できる私とは相性サイコーってわけ!


「ば、ばかな……初期魔法で…………どうしてーー!」


 驚いた叫びとともにおじさんはポリゴン片になって消え去る!

 そして、


「らあああああああっ!」


「が、は……っ」


最後にロック女の横からアルが飛び出し、悲鳴をあげさせる間もないままけさがけからまっぷたつ。

あれだけやかましくギュインギュイン鳴らしていたロック女も静かに消えていったのでした……。

 ということは? もしかして?

 アルの方を見ると彼もこっちを見てぐっ、と親指を立てた。

 そう、これが私の対人戦初勝利。

 私は相棒に駆け寄ると、


「イェイ!」


 2人で高らかに勝利を祝したのでした。


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